灰かぶりの硝子靴と魔法使いの魔法
むかしむかし、
若く綺麗な王様が居る大きな国の城に、
とても長い間、
だれにも履いてもらえない一足の硝子の靴がありました。
その硝子の靴は王様に大切にされていましたが、
本当に誰にも履いてもらえないので、
やがて、一人の使用人によって物置の奥へと追いやられてしまいました。
硝子の靴が物置に追いやられてから幾年もの年月が経ったある日の事、
魔法使いが王国に遊びにやってきました。
王国に遊びにやってきた際に、
王国の城の中に、
誰にも履かれない靴がある事を城の使用人に聞いた魔法使いは、
なんだかとても悲しくなったので、
硝子の靴を人間にしてあげることに決めたのです。
人間にしたら自分の家に迎え入れようと思いながら。
そうと決めたら、魔法使いはまず、
王様に物置に置いてある硝子の靴を譲り受けてもいいかどうか、
ということをお願いをしに言ったのでした。
魔法使いのお願いを聞いた王様は、
難しい顔をして魔法使いへと言いました。
「その誰にも履いてもらえない硝子の靴は、
今は亡き母上と父上の形見であり、
母上と父上の大切な思い出の品なので、
そう簡単には渡すわけには行かないのだ」と。
大切な思い出を簡単に貰い受ける事は出来ないだろうと思っていた魔法使いは、
一つ、王様に提案をすることにしたのです。
その提案とは、
「硝子の靴を三日間だけ人間にして、
その様子を見た上で王様自身が判断してみては如何でしょうか」
という物でした。
人間にした硝子の靴が周りに不甲斐無いところを見せて、
嫌になった王様から素早く譲って貰おうとも考えておりました。
魔法使いの話を聞いた王様は、
長らく履かれていない硝子の靴が、
いったいどう思っているのか気になったので、
大きな不安を残しながらも、
魔法使いの提案に乗ることにしたのです。
王様が魔法使いの提案を飲んだ後、
魔法使いは直ぐに硝子の靴を人間にする準備に取り掛かりました。
魔法使いは埃被った硝子の靴を大切に抱えて自らの家に持ち帰ると、
パチンと指を鳴らして、
硝子の靴に魔法をかけました。
しばらくすると硝子の靴からモクモクと白い煙が出てきて、
魔法使いの家の中を煙でいっぱいに満たしましたが、
魔法使いはとにかく気にする様子も無く、
ワクワクとした顔つきでその状況を楽しそうに見つめていました。
ある程度時間が経つと、
白い煙はあとかたも無くすっきりと消えていて、
真っ白な煙の変わりに、
真っ白な素肌と薄い灰色の髪を持つ綺麗な女の子が、
硝子の靴のあった場所で静かに呆然と立ち尽くしていたのです。
そんな女の子を見た魔法使いは、
急いで自らとおそろいのマントを女の子に着せて、
これからのことを説明しました。
女の子に言ったのは、
君はこれから三日間だけ王様の居る城に行って、
思うまま、感じるままに動く事。
過度に走ったり力を使ったり、
無理をすることはいけないと言う事。
短い期間だけれど王様や使用人がどういう人物かしっかりと見てくること。
三日前の日付が変わる頃に魔法使いである僕が迎えに来る事。
王様の城の中には飢えた狼の様な男がたくさんいる事。
王様の部屋や使用人の部屋に用がある時は、
必ず数回ゆっくりとノックをしてから返事が返ってくるまで勝手にあけない事。
その他にも様々な話を聞きましたが、
魔法使いがと長々と話をするので、
だんだんと眠くなってしまった女の子は、
いつの間にか重い瞼を閉じて寝息を立てて眠ってしまいました。
魔法使いは、女の子が眠りに着いたのを確認して、
女の子自身に元が硝子の靴であることを隠したままでよかったのだろうかと考え始めましたが、
気付けば朝になっていたので、
考える事と事実を女の子に伝えるのを諦めたのでした。
朝になって眼が醒めた女の子は、
魔法使いによって、
知りたい事も、
知りたくないことも、
色々と聞いてしまったような気がしたので、
知りたくなかったことは聞かなかった事にして、
何かの「結果を報告するために王国へ行くよ」
と言う魔法使いについていくことにしたのでした。
魔法使いが指をパチンと鳴らすと、
本来なら、長いみちのりであるはずの王国へと、
魔法使いの魔法によって一瞬で辿り着いてしまいました。
王国へ着いた二人は王様の元へと向かいましたが、
玉座には王様の姿は在りませんでした。
魔法使いが近くに居た使用人に、
「王様は何処へ行ったのだろうか」と尋ねると、
綺麗な振る舞いの使用人はどこか呆れた顔と恥ずかしそうな顔をして、
「お二人がご到着されるのを今か今かと待っていたのですが、
お食事もとらずに待っていたもので、
今しがた空腹に耐えかねて倒れられたのです」と言いました。
それを聞いた魔法使いはとても呆れた顔をして、
「さて帰ろうか」なんて零していましたが、
女の子はそうではありませんでした。
唯、素直に王様の事を酷く心配していたので、
女の子は使用人に、
「王様がお休みになっている部屋は何処にあるのですか?
もし、お会いできるのならば無理をさせてしまったのですから、
少しだけでも私に出来る事があるのならお手伝いさせて頂けませんか」
と強い眼をして言葉を口に出しました。
その言葉を聞いていた使用人は驚きであらあらと戸惑っていましたが、
魔法使いは、
硝子の靴だった時の事を覚えていなくとも、
大切にされていた時の事は身体が覚えているのだろうなと考えていたので、
使用人には女の子を王様の元へ案内するようにと告げ、
女の子には困ったらポケットの中にある包みを見てごらんと言い残して
魔法使いは静かに家へ帰ってしまいました。
魔法使いが居なくなったのを見た使用人は、
言われた通りに王様の元へと女の子を案内し始めます。
王様の元へ行く途中、
女の子は使用人から色々な話を聞きました。
王様の両親が出会ったきっかけは一つの硝子の靴だったこと
王様の両親が硝子の靴をたいそう大切にしていたこと。
その硝子の靴は魔法使いの母君が仕上げた品であること。
王様の両親が亡くなっても、
誰もが硝子の靴に見向きもしなくなっても、
王様だけは硝子の靴だけは大切に大切に磨き、扱っていたことを。
その話を静かに聞いていた女の子は、
なんだかとても温かい気持ちが胸の中に広がっていくのを感じて、
不思議に思いながらも使用人の話を聞きながら王様の元へと歩を進めて行くのでした。
そうして女の子が王様の元に着く頃には、
女の子の顔はとても優しく見たものが微笑ましくなるような笑顔をしていたので、
扉を開けて顔を出した女の子の表情に王様はびっくりして、
腰を抜かしてしまいました。
その王様の姿を見た使用人と女の子は、
小さく楽しそうに笑って、王様も女の子もその穏やかな空間の中、
ゆっくりと互いを観察しているようでした。
思ったよりも王様の顔色が良くないことに気付いた女の子は、
王様が元気になるまで自らに出来る事に取り組む事を決めて、
使用人に何をしたら良いかと聞いて、
小さなことから一所懸命にせっせとせっせと働きました。
次に女の子が取り組んだのは、
王様の部屋の掃除でした。
初め見た時はとても綺麗な部屋だと思っていましたが、
どうやら奥の所や人目につかない場所は少し頑固な埃や汚れがあったようで、
女の子は汗をたくさん流しながら布で丁寧に部屋の中を磨いていき、
日が沈む頃には王様の部屋はピカピカな部屋へと変わっていたのです。
掃除が終わった頃、
女の子は疲れきっていてフラフラとしていたので、
使用人が自分の部屋で休ませる事にしました。
使用人が女の子を中くらいのベッドに運ぼうとすると、
女の子はうとうとしながら、
「なんだか……とても懐かしい匂いがする場所ですね」と小さく零して、
直ぐに愛らしい寝息を立てて眠ってしまいました。
その姿を見た使用人はきれいな振る舞いの使用人は、ほんの一瞬、
飽き性な使用人が物置に入れた硝子の靴の事が頭に過りましたが、
そんなわけないわよねと思い直して女の子に毛布をかけて、
部屋の明かりを消しました。
こうしてようやく、
女の子の一日目が終わりを迎えました。
二日目の朝、
女の子は窓から小さく差し込む光と小鳥のさえずりによって、
眠りから眼を覚ましました。
女の子は昨日の綺麗な振る舞いの使用人とは別の少し素っ気無い使用人に、
王城には広くて大きい展望台があって、
その展望台は良い景色が見られますよと言われたので、
女の子は使用人と共に王城の展望台へと上り、
ガラス張りの窓や望遠鏡から辺りを眺め始めました。
景色を眺め終わった女の子は、
確かに素晴らしい景色だったのですが、
王国中にある植物に元気が無いように思えたので、
植物の世話をしたいと近くに居た使用人に伝えました。
女の子の言葉を聞いた使用人は、
「王国中の植物の世話をするなんてとんでもない!
大きな声では言えませんが私達使用人ですら、
全ての数を把握出来てはいないのですからそのような事をいうのはお止めください」
と強い口調で女の子に言い放った後、
女の子を展望台へ残してすたすたと歩いて行ってしまったのです。
去っていく使用人の後ろ姿をじっと眺めていた女の子の眼は、
何かを強く決意したように熱く燃えているのでした。
展望台の階段を降りきった後、
使用人は女の子に渡すものが有った事に気付いて、
来た道を上り、展望台へと戻ったのですが、
もうそこに女の子の姿はありませんでした。
女の子の姿が見えないことで、
焦りと不安が襲って来ましたが、
今居る場所が展望台である事にハッとした使用人は、
望遠鏡を覗き込んで女の子の姿を探し始めました。
右から左、左から右へ。
上から下、下から上へ。
使用人が女の子を見つけたときには、
女の子は、たくさんの土汚れに塗れながら、
元気のない植物に肥料を与えて、
水やりをして、雑草を抜き、
それが終わると、
また進んで、同じことの繰り返し。
使用人は、余程王様に気に入られたいのかと思い、
いやな顔をしながら、
けれど、
それだけ働いていればさぞや疲れていることだろうと思って、
女の子の顔をよーく見ましたが、
当の女の子の表情には少し疲れが見えるものの、
とても真剣に、そしてとても大事そうに取り組んでいたので、
使用人はもどかしい気持ちを持ったまま、
小走りで展望台を降りて、女の子の元へと向かって行くのでした。
女の子の元へ向かう途中、使用人の手から、
何かの髪飾りがするりと落ちてしまいましたが、
使用人はそれに気が付くことなく、
走り去っていったのでした。
地に落ちた髪飾りは、
田打ち桜の髪飾り。
その花は歓迎の証。
けれど、今は静かに風に揺られているだけなのでした。
女の子と使用人が顔を合わせる頃には、
女の子の周りには他の使用人もたくさん集まっていて、
皆が汗まみれになりながら、
けれど何処か楽しそうに、植物の世話をし続けていたのでした。
皆が世話を終えた頃、
辺りはすっかりと陽が落ちていて、
薄暗くなっていたので、
素っ気無い使用人は、
疲れて寝息を立てていた女の子を両手で抱えて、
起こさないようにゆっくりと綺麗な振る舞いの使用人の部屋へと向かって歩き始めました。
素っ気無い使用人が、
城の中に入ろうとした時、
近くに田打ち桜の髪飾りが落ちてあるのに気付きましたが、
両手で抱えているので髪飾りが拾えません。
素っ気無い使用人は眠っている女の子を見て、
「まあいいかな」と零した後、
髪飾りを気にすることなく、
城の中へ入り、綺麗な振る舞いの使用人の部屋へと向かいました。
綺麗な振る舞いの使用人の部屋に入った素っ気無い使用人は、
眠っている女の子をベッドに寝かせた後、
綺麗な振る舞いの使用人が部屋の中にいないことに気が付きました。
「こんな時間に何をしているのか」
と呆れた声で零した素っ気無い使用人の後ろから、
何物かがトンッと小突いて来たので、
素っ気無い使用人は呆れた顔のまま振り向くと、
そこには、にこりとした表情の綺麗な振る舞いの使用人の姿が有りました。
綺麗な振る舞いの使用人は、
何か言いたそうにしている素っ気無い使用人にたいして、
口元にひとさし指を当てて小さく、
しーっと言い、
その手に持っていた何かを、
素っ気無い使用人の手の中に持たせて、
自らのベッドにもぐり素早く寝息を立てて眠ってしまいました。
なんだったのかと思った素っ気無い使用人が、
手を開くと、
手の中には落として拾えなかったはずの、
田打ち桜の髪飾りが埃も無くしっかりとその手の中に入っていたので、
素っ気無い使用人は、
少しだけ微笑んでから、
自らの部屋へと戻っていきました。
三日目の朝、
しっかりと眠っていた女の子が眼を覚ますと、
綺麗な振る舞いの使用人の姿は部屋の中にありませんでした。
すっきりと眼がさめた女の子が、しっかりと伸びをして、
はなうたを歌いながら女の子がベッドを整えていると、
部屋の扉が、トントトトンとリズム良くノックされたので、
綺麗な振る舞いの使用人のいたずらかも知れないと思った女の子は、
何も言わずに、にこにことしてすぐさま扉を開けに行きました。
ガチャリという音がが扉から聞こえて、
開いた扉を見てみると、
扉の先には、
素っ気無い使用人がビックリした様子で立っていたのです。
素っ気無い使用人と女の子は、
しばらくお互いの顔を見合っていましたが、
女の子がおはようございますと声をかけると、
素っ気無い使用人は、
少し緊張した様子で、
「お、おはよう! 昨日はすまない。あ、後コレを…… 」
そう言って遠慮気味に差し出され、女の子の前に右手が押し付けたのです。
押し付けられた右手の中には、田打ち桜の髪飾りが包まれていました。
女の子が不思議そうにその髪飾りを見て、
「これを私に? 」と。少し不思議そうに言うので、
素っ気無い使用人は真っ直ぐに女の子を見つめて、
「この髪飾りに使われている花にはあなたを歓迎するという意味がある。
だから……色々あって渡すのが遅くなってしまったけれど、あなたに受け取ってほしい」
と言ったので女の子はとても嬉しそうな笑顔を浮かべて田打ち桜の髪飾りを手に取って、
自分の髪にそっとつけた後、
とても嬉しそうに素っ気無い使用人に微笑んだので、
素っ気無い使用人はとっても安心した気持ちになって、
自分の仕事をするために女の子の元を後にしました。
女の子は素っ気無い使用人がくれた髪飾りを嬉しそうに指でなぞりながら、
今日も何かの役に立つために、城の中を散策する事にしました。
使用人の部屋を出てから直ぐに、
色々な使用人に声をかけられるようになった女の子は、
皆に元気良く挨拶をしながら、
使用人の手伝いに参加をしていきました。
料理に掃除、洗濯はもちろん、
探し物や城の模様替えの話し合いだって進んで参加をしていきました。
お昼を過ぎたそんな時、
小さな声の使用人から、
王様が女の子を探している事を聞いたので、
女の子は急ぎ足で王様の元へと向かっていきました。
王様の部屋の扉の前についた女の子は、
もしかしたら私がいけないことをしてしまったのかもしれないと思っていたので、
ノックはしたものの扉を開ける事が出来ずに固まっていたのでした。
そうこうしている間に、
女の子が来ない事を心配した王様が、
女の子を探しに行こうと自らの部屋の扉を開けたことで、
女の子も無事王様に会う事が出来たのでした。
部屋に入った女の子が苦い顔をしていたので、
王様は「何故、そんな顔をしているのかな? 」と女の子に話しかけました。
王様に話しかけられた女の子は、
おずおずと考えていた事を話すと、
王様は大きく笑ってこう言いました。
「突然呼んでしまったのは申し訳ない。
君は知っているだろうが、私は先日まで体調を壊していたので、
君が来たその日に君の歓迎会をする事が出来なかった。
なので、今日改めて君の歓迎会を開きたいと思って君を呼んだのだ。 」と。
それを聞いた女の子は先程とはうって変わって、
とても嬉しそうな顔をしていたので、
王様はほっと安心をして、
歓迎会は日が沈んでから行う事を女の子に伝えて、
部屋を出て行ってしまいました。
王様の部屋に残された女の子も、
ドキドキとした気持ちを抑えきれぬままに、
使用人たちの元へ戻る事にしました。
一方その頃、
使用人たちはと言うと、
女の子の歓迎会の準備のためにあちらにこちらにと動きながら、
女の子に見つからないようにこっそりとしっかりと準備を整えていきました。
使用人たちが居た場所へ女の子が戻ると、
そこには誰の姿も有りませんでした。
いったいどうしたのかなと思っていた女の子は、
机の上においてある小さな紙に気付きました。
小さな紙には一文、
「歓迎会は長くなるから今のうちに眠っておくといいですよ。 」
と書かれていたので、
女の子は少しの寂しさを覚えたまま、
紙に書かれていた通り、
使用人の部屋のベッドで眠ることにしました。
日が沈み、外が暗くなってきた頃、
一人の使用人が女の子を起こしに使用人の部屋へとやってきました。
使用人の部屋を小さくそして静かにノックした後、
部屋に入った使用人は、
女の子が寂しそうに眠っているのを見てしまったので、
優しくけれど静かに揺さぶりながら女の子に声をかけました。
声をかけられた女の子は、
直ぐに瞼を開いて起きたので、
使用人はそのまま手を引いて大広間へと女の子を連れ出しました。
大広間の大きな扉を女の子が開けると、
キラキラとした飾り付けと共に、
使用人と王様の歓声が女の子を包みました。
大広間の中から女の子の元へと歩いてくる綺麗な振る舞いの使用人は、
女の子の手を取って、「さあ、皆があなたを待っているわ 」と一言だけ話しかけて、
二人で皆がいる大広間の中心へと歩いて行きました。
二人が大広間の中心に近付くにつれて、
大広間に響く歓声や明かりの強さも増して言ったのでした。
女の子が大広間の中心に着いたころには、
大広間全体がとても煌びやかな光に包まれ、
よく見ると、
周りには美味しそうなたくさんの料理が並んでいて、
天井にはとても大きくて透き通ったシャンデリアが、
女の子を暖かく照らすように佇んであったのでした。
そこからの女の子はというと、
たくさんの使用人から労いの言葉貰い、
楽しかったこと、これから一緒にやりたいことなどを
語りに語って、飲んで食べて、歌って、笑って。
そうこうしている内に時間は刻々と過ぎていったのでした。
酔いが回った女の子が、
バルコニーにある椅子で涼んでいると、
そこへ月明かりに照らされながら王様が歩いてきました。
女の子は王様に「大丈夫かね? 」と声をかけられたので、
女の子は少しだけ撫子色に染まった顔のまま、
ゆっくりと頷きました。
王様は、そんな女の子を見て、
少し話を聞いてくれるかな。と言って、
女の子に語り掛けました。
「私は今でも両親が残した硝子の靴のことを大切に思っているし、
これからも大切にして行きたいと思っているんだ。
けれど、それは硝子の靴としてではなく、一人の人間として考えている。
もし、君がよかったらこの城にずっと居てはくれないだろうか。 」
そういい終わった王様は、
照れくさくなったのか顔を逸らして星を見ていた。
女の子の返答が聞こえない事に少しばかりの不安を覚えた王様は、
女の子が座っている椅子へと眼を向けるが、
そこに女の子の姿は無く、
代わりにそこに居たのは難しそうな顔をした魔法使いと、
一足の綺麗な硝子の靴でした。
王様が話をしている間に、
日付が変わっていた様で、
魔法使いは王様に、
「王様の気持ちはよくわかりました。
機会が有ればまたいつかお会いしましょう。 」
と、言うとすぐさま指を鳴らして城の中から居なくなってしまいました。
王様は魔法使いが居なくなってからも、
女の子が居た場所を悲しそうな眼で見つめて、
使用人が王様に声をかけるまでその場から動く事はありませんでした。
硝子の靴の女の子が王国を去ってから、
使用人たちは今まで以上に明るくするように心がけていましたが、
王様の顔はいつまでも晴れないままでした。
それから少しだけ月日が経ったある日のこと、
王国のお城に使用人になりたいというフードを被った女の子がやってきたのです。
晴れない顔をした王様は、
綺麗な振る舞いの使用人と素っ気無い使用人を呼んで、
「わからない事が有れば、この二人に聞いてほしい。 」と言って、
自らの部屋に戻ろうとしていた時、
フードを被った女の子が王様に対して、
「王様はどこか無理をなさっていませんか?
少しだけでも私に出来る事があるのならお手伝いさせて頂けませんか」と言ったので、
王様はどこか聞いた事のある言葉に驚いて、
顔をあげると……
そこには、硝子の靴の女の子の姿がありました。
女の子は驚いた顔をしている王様に、にこりと笑って、
「今日からまたお世話になりますっ! 」と言った後、
綺麗な振る舞いの使用人と素っ気無い使用人の三人で、
使用人の部屋へと向かっていきました。
女の子が城の使用人になったその日の夜、
空を見て物思いにふけっている魔法使いが、
大きな満月に向かって、
「ありがとう。 」
と言っていたのは魔法使いだけの秘密の話。
【おしまい】