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A side street  作者: 青木 航
10/18

10 キャンパスから

 四日ほどして、話が有ると翔太に誘われ、バイトの帰りマクドナルドに寄った。明日香も一緒だ。座ったのは、いつか玲奈と話した席だった。

「話って何?」

 席に着くなり、僕は翔太に聞いた。向かい側の席の翔太は、横の席に座った明日香の方を一度見てから、

「明日香の友達が赤学の文学部に居るんだよ。英米文学科。玲奈ちゃんと同じ学科だ。……それで、サークルとか色んな関係辿って聞いて貰ったんだけど、玲奈ちゃんのこと知ってる奴、あんまり居なくてさ」

と話し始めた。明日香が続ける。

「二年の時、相模原で少し付き合いがあったって子は居たのね。でも、渋谷のキャンパスに移ってからは、会ってないって……」

と、何か言いにくそうに言う。

「いや、余計なことして悪いんだけど、明日香にとっても友達だからさ……、心配してるんだよ」と翔太。

 僕は、河原崎のことについては、ふたりに何も話していない。ふたりは二人なりに調べようとしてくれていたのだ。

「で、学生課で聞いて貰ったの」

と明日香が続ける。

「そしたら、……辞めてた、大学。三ヵ月くらいも前らしいよ」

『どうして……?』と僕は思う。

「えっ? それほんと?」

と言葉に出した。

 訳の分からない想像が、僕の頭の中を駆け巡っていた。三ヵ月前と言うと、河原崎が言っていた綾香が、店を辞めたのと同じ頃だ。と言うことは、玲奈はそれまではキャバクラでバイトしながら、大学に(かよ)っていたと言うことになる。また”なんで?” という言葉が、僕の頭の中を駆け巡る。

「今のコールセンターでバイト始めた時は、もう、大学辞めてたのよね」

と明日香が確認するかのように言った。

「分からねえよな。どう言う事なんだか」

と翔太も僕と同じ疑問を持っている。僕は『オトコか!』と思った。

「あのさ、話別なんだけど、彼氏が居るっていうのはどう言う話だったの?」

と僕は明日香に聞いた。

「うん、最初の頃、聞いたら”居る” ってはっきり言ったのよ、自分で。その後、女子会誘ったとき用があるって言うんで、”デート?” って聞いたら、嬉しそうに『そう』って言ったの。……その日女子会の席で、飲みながらみんなで、玲奈の彼氏どんな人かな? って盛り上がっちゃってさ。それから、玲奈には彼氏がいるってことになったんだ。私も、翔とまだ付き合ってなかった頃だから、『いいな』なんて思ってた」

「写真とか、見てないのか?」

 翔太が明日香に聞いた。

「うん、そのあと私が、玲奈とは一番仲良くなったんだけど、『彼の写真、スマホに入ってんでしょ、見せてよ』って言ったら、入ってないっていうの。自分から話そうとしないから、あんまり聞いても悪いかなって思って、それから聞かなくなっちゃった。ただ、玲奈は、彼氏居ないのに居るなんて見栄を張らなくちゃならないようなタイプじゃないでしょ。本人、居るって言うんだから、当然居るだろうって、みんな思ってた。でもあたし、翔と付き合うようになってからは、玲奈が雄介君と付き合ったらいいなって、ずっと思ってたのよ」

「そう言うことか、なるほど。でも、あのプリウス野郎が彼氏ってことはないよな。中年だったんだろ?」

と翔太が明日香に確かめた。

「うん。無関係な人だったと思うよ。もし、あいつが玲奈を待ってたんだとしたら、……ストーカーってとこよね。カッコいい訳でもないし、イケメンとは程遠いタイプだったもん」

 河原崎と話した僕としては、河原崎の行動が気になった。

「でも、少なくとも一度は玲奈を迎えに来て、玲奈はあの車に乗って行った」

 そう言ってみる。

「だからさ。……なんか、話が有ったんだよ。多分」

 翔太は僕を安心させたくてか、根拠の無い気休めを言った。

「夜待ち合わせて、車に乗ってか?」

と、僕は正論で突っ込む。

「あんな親父に焼餅焼いてどうすんだよ! 関係無いよ。なぁ!」

と翔太は明日香に同意を求めた。

「あ、分かった。多分、玲奈が前にバイトしてたとこの社員なんじゃない? 上司かも知れない。で、しつこく誘って来るんで、玲奈はうざくなって辞めた。ところが、今のところへ来てるのバレちゃって、跡付けて、話したいとか言って電話して来たんじゃない? 社員なら、履歴書見れば携帯番号分かるじゃない。で、玲奈は、一度ちゃんと話して、付き(まと)わないで欲しいって言っといた方がいいと思ったのよ。それで、あの日待ち合わせた。元の上司だし、ちゃんとした会社の社員だから、変なことはしないだろうってことで、車にも乗った。そう言うことじゃないかな」

「お前の想像力ってすっごいね。小説でも書いたら? それとも、それ自分の体験か何かなの?」

「茶化さないで!」

と明日香は翔太を睨んで、肩を突いた。気まずかった。勤め先の社員なんかじゃなくて、本当はキャバクラの客だとは言えない。

「でも、それだけのことで、大学まで辞めるかな?」

 僕は、独り言のように、ぽつっと言った。しかし、口に出した言葉とは別のことを考えていた。

 勤め先の社員なら、なるほど住所は分かるだろうが、普通、ただの客に住所教えるホステスなんていない。『なのにあいつは知っていた』その『なぜなのか?』と(いら)つく想いが僕の心を支配していた。

「うん。確かに、大学にまで押し掛けて来るようなら、 大学辞めるよりも警察に相談する方が先だわな。それに、玲奈ちゃんに本当に彼氏が居るのなら、その彼氏に相談して、彼氏がなんかアクション起こしてるんじゃないの?」

翔太がそう言った。

「雄介君、本当に、玲奈から何も相談されてないの?」

と明日香の目が真剣になった。

「ああ、何も聞いてない」

 僕は少しばつが悪くなっていた。河原崎とは、客とホステス以上の関係が何か有ったのか? それとも、ほかに彼氏が居るのか?” いずれにしても、僕に取っては愉快な話では無い。

『あれこれ憶測するより、いっそ、キャバクラ”バージン・ロード” へ行ってみよう』

 突然、僕はそう思った。

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