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天帝にひとしきり挨拶をすると、リヒトさんは私たちを連れて早々に天宮を離れた。彼は歩くのも速いので置いていかれないようにするのは一苦労だ。
「リヒトさん、あの、聞きたいことが沢山あるのですが!」
通常は生きた倍ほど掛かるという現世行きの時間がとても短かった少年や、猫に生まれ変わるという選択肢を与えられた女性、罪を寿命で払いきれなかったときのことなど、私の頭は疑問でいっぱいだった。
リヒトさんは尋ねられることがわかっていたのか、私のことをチラリと見ると、抑揚のない声で答えた。
「一つだけ答えるからあとはゼンに聞いてね。」
「じゃ、じゃああの男の子の…」
リヒトさんはそれだけで言いたいことを理解したのか、私が聞き終わる前に口を開いた。
「あの子だけが現世行きまでの期間が特別短いってわけでもないよ。子供って良くも悪くも前向きだから、大人より立ち直るのが早いんだ。」
「な、なるほど…」
一つだけ、といった彼は、本当にそれきり質問に答えてくれなかった。教育担当としてどうなのかと思ってしまったけれど、毎度のことだよ、とケータは肩を竦めた。
「ちなみに俺が聞いても十回に八回は答えてもらえない。」
「答えないんじゃなくて、そのうち分かるようなことばかり聞くからだよ。百聞は一見にしかずっていうでしょ。」
ふん、とむくれてしまった様子のリヒトさんにケータは溜息をつき、頭を抱えた。
「リヒトさんの場合は極端なんですよ…。」
「何、リヒト。また後輩困らせてんの?」
不意に聞こえた苦笑は、紛れもなく私の教育担当、ゼンさんのものだ。
私はパッと顔を上げて彼を見やった。
闇をこぼしたような黒髪に紫の瞳。私はそのアメジストの瞳が優しく細められるのが大好きだった。
「ゼンさん!おかえりなさい!」
彼は昨日から現世に魂の回収に派遣されており、心なしか疲れた表情だった。一日ぶりに私を見ると、彼はわしゃわしゃという効果音と共に頭を撫でてきた。
「いい子にしてたか、ミナ。」
「もちろんです!」
ゼンさんは、そうか、と微笑むと私の頭から手を離してリヒトさんの方を向いた。
「リヒト、こいつらは俺が連れてっても構わないか。」
「あー、むしろありがたい。質問いっぱいされて困ってたから。」
「ほんと相変わらずだなお前も…。」
リヒトさんはその言葉に慣れっこだったのかさらりと聞き流すと、じゃあね、後よろしくー。といって夕方の天界に消えていった。