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明日色の天  作者: もこ
天使見習い編
1/19

1

 私はミナ。ちょうど一ヶ月と一週間前に死にました。一週間前から天界の天使見習いとして働いています。


 実は私には生前の記憶がありません。ですからこれは教えていただいた話なのですが、私はいわゆるジョシコーセーというやつで、青春もこれからという時に死んだのだそうです。

 ちなみにミナというこの呼び名も、名前を憶えていない私のために天帝がつけてくださったもので、わりと気に入っています。見習い天使のミナ、なんてちょっと安易ではありますが。


 現世を去った人間というのは、通常は生前の記憶を持っているのだそうです。その方たちは自分が死んだというショックから立ち直るまで天界で過ごし、傷が癒えたらもう一度現世に生まれるか、天使として天帝に使えるかを選ぶことができます。もちろん天使として働くには、それなりの適性は必要となりますので、誰でもなれるわけではないのです。


人が立ち直るまでに掛かる時間は、だいたいその人が生きた時間の倍程度と言われています。もちろんこれは個人差もあるそうですが。つまり本来であれば私も、天使になるまでにおおよそ30年くらい掛かるはずだったのですが、私のような「非記憶保持者」には例外的な措置が取られます。癒やす傷もないのですから働きなさいと、そういうことだそうで。


 いまやっている天使のお仕事は三途の川からの道案内、死因整理などの見習いでもできる簡単なものですが、上級天使になると寿命を過ぎても天界に戻ってこない魂の回収など、現世に下りて行う仕事も回ってくるようになります。よく勘違いされがちですが、死神も天使も実は同じものなのです。


「ケータ、どうしてあなたは死因整理もちゃんとできないのですか。」


 私は隣で作業をしている同期を見やると思わずため息をついた。


「え?うそ?どこ?」


「2017122103号佐野航さんが胃がん、2017122130号手嶋かおりさんが飛び降り自殺です!この二人逆ですよ!!!」


 彼の手元の資料を指でたんたん、いや、だんだんと叩き、本日3回目となる指摘をする。

 間違えた当の本人は苦笑いをしながら茶色い髪をかきあげた。反省しているのかしないのか、微妙な態度に眉をひそめてしまう。それに気づいたのか彼は口に出す。


「デスクワーク苦手なんだよー俺。早く昇級して身体動かす仕事がしたいわ。」


 同期の天使見習い、ケータ。

 彼は天使見習い採用試験において実技だけ見ればかなり優秀な成績で合格を収めたと聞き及んでいるが、私からするとまだ実態は不明。ただデスクワークに向いてないのはわかった。つまらなそうで注意力が散漫だ。


「…まぁ、人には向き不向きがありますからね。私もできるだけ手伝います。」


「ミナ…!」


「だからといって自殺と寿命死を間違えていいわけじゃないんですよ!ほら、ちゃっちゃと終わらせて休憩にしますよ!」


 まるで救世主を見るような目で見られてしまうと困るのだ。できるだけこなしてもらわねば。


 私たちが休憩を取ることができたのは3時間後、そのころには二人ともへとへとで指先の水分もすっかり書類に吸い取られていた。

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