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確信

一七.



 しばらくは一人で、昼食を摂っていた。

 若干寂しさを感じるのだが、いかんせんマサトはちかげに追放されてしまったし、ちかげは笑顔でこっち来たと思ったら、怒って自分の席に帰っちゃったし。まったくなんなんですかねぇ、この状況は。

 そう思って落ち着いていたのもつかの間、俺の教室の前の方から、威勢よくドア開く音が聞こえた。

「たけるー。たけるいるー?」

 お弁当を片手に持ちながら、明るみのかかったキレイな茶色髪で、サラサラとしていそうなロングストレートのやっかいお嬢様がやって来た。

 心なしか、クラス中の男子生徒がザワついているのは気のせいだろうか。

 今やってきたそのお嬢様は、教室を訪問したあの一件以来、クラスではすっかり噂になっていて、男子生徒の注目の的になっている。

 さらにあのビジュアルも手伝って、一日にして、ファンクラブまで発足しているという話まで小耳に挟むぐらいだ。

 この間は、忘れ物を渡すという用事があったので来た彼女だが、今回はなんなのだろうか。とりあえず質問することにした。

「おう、ちとせ。なんか用か?」

 すると、ちとせは指をモジモジしながら、少し小さな声で話し始めた。

「あ、あのね。もう時間少ないんだけどさ、お、お昼一緒に食べようかなぁ、なんて思って。」

 ん? お前も俺と飯食うのか。なんか昼食摂るだけなのに、こんなに相手が変わるとか不思議すぎるな今日は。

 まぁ特に断る理由もないので、俺はちとせに「オーケー」と許諾し、隣から借りた席をくっつけて、二人で食べることになった。

「うん、ありがとう。なんか色々たけると、話がしたいなーなんて思って。つい、来ちゃった」

 とちとせは、頬を少し赤くしながら、また指をモジモジとしていた。ちょっとこっちまで、照れてくるな、なんか。

 にしても先ほどから様子がおかしい。いつものちとせなら、こんなにおとなしい感じではないと思うのだが。

 そう思っていると、唐突にちとせの口が開いた。

「あ、あのさ。唐突・・・なんだけど」

 先ほどの仕草を続けながら、ちとせは続けた。

「たけるって、甘いもの好きだったりするのかな?」

「甘いもの?」

「うん、甘いもの!」

 と少し笑顔に変わったちとせに、質問をされた。

 まぁ、甘いものが嫌いな人って、結構珍しい部類な気もするが。

「あぁ、普通に甘いものは、好きだよ」

「ホント!? ホントにホント?」

 なぜ念を押す。なんか似たようなシチュエーション前にも見たような。とりあえず疑われてるようなので晴らしますか。

「そうだな、クッキーとか、ビスケットとか、森○のお菓子は、おやつにいつも食ってるくらいだから、甘いものは好きだぞ」

 そう言うと、ちとせはまた質問を投げかけてきた。

「じゃあさ、じゃあさ。チョコレートって食べれるよね?」

 んまぁ、ビスケットも食えるし、クッキーも食えるし、食べれないということは、まずないだろう。さっきからちとせが、何を聞きたいのかがよくわからないな。ちょっと質問してみるか。

「チョコレートも食べれるよ。それにしても、なんだ、さっきからお菓子の話が多いけど、何かあるのか?」

 俺がそう言うと、ちとせはスカートの辺りで手を組みながら、頬を赤くしていた。

 すると聞こえるか聞こえないか、微妙なラインの小さな声で、

「そっかぁ、良かったぁ」

 と満面の笑みで喜んでいた。笑うとかわいいなこいつ・・・って見とれてる場合じゃない。ちとせだけ納得してても俺が気になる。

 ちとせは終始モジモジしているので、俺は少し考える時間ができた。

 ん~、ここまで様子がおかしいちとせは興味深いな。

 もう少し眺めていようか、なんて思ったりもした。

 にしてもさっきから、チョコレートの話でもしたかったのか?

 そんなんなら、こんなに様子がおかしくなるはずなんてないし、わざわざ聞くことでもなかろう。

 そう考えていると、ふと、最近のちかげとのやりとりが、思い出される・・・。


「たけるー。バレンタインデーのチョコ何味がいい?(エコー)」


 

 もしかして、ちとせはバレンタインデーに俺にチョコを渡すつもりなのだろうか?

 マジか?

 いあ、俺の考えすぎだろう。

 まだ知り合って1日しか経ってないぞ。

 なんでオレなんk・・・。

 と周りから見たら、相当焦ってるような様子で、俺は首をぶんぶん振っていたようだ。

 冷静に見えるかもしれないが、ホントだぞ。

 少し恥ずかしい思いをするのを承知で、思い切って、ちとせに真相を聞いてみることにした。

「な、なぁ、ちとせ。それってもしかして・・・・」

 一瞬、ハッとした表情のちとせと、目が合った。

 ちとせは、そのまま一回うつむいて、瞳だけこちらを向いて、

「う、うん」

 と最初と同じように、モジモジしながら俺の質問に頷いた。

 こ、これは嘘偽りなく、チョコレートくれるのか?

 と確信めいた判断をした俺は、かわいらしい様子で手を組むちとせを見て、急激に、胸が熱くなってきた。

 そんな俺はちとせをずっと見ていた。

 ちとせも俺をずっと見ていた。

 二人は目を合わせたまま、時間が止まったかのように、しばらく同じ姿勢のまま二人で硬直していたようだった。


 時間は風のように流れ去った。


 その時間はまた、風によって止められた。



 数分は経っただろうか。何も話すことが思いつかず、二人の間には柔らかな静寂が生まれていた。

「あ、あのさ、オレ・・・」

 思考が止まりそうだった。

「う、うん・・・」

 考えるよりも先に口が最初に動いていた。

「ち、ちとせのこと・・・」

「う、うん・・・」

 静寂がさらに静寂を包んでいく。

 今俺の視界にはちとせのキレイな髪の毛、整った眉、柔らかそうな唇、そう、ちとせしか映っていなかった。

 しかし、事態は急変した。

 何の突拍子もなく、こちらに向かって、足音が聞こえてきたのである。

『ドドド・・・』

 ん? なんだ? 『ドドド?』

『ドドドド・・・』

 少し我に帰った俺は、ちとせのキレイなロングストレートの右上の当たりから、猛烈な勢いでこっちへ向かってくる、見慣れた美少女の姿を、ぼんやりと察知した。

 なんだ、なんだと疑問に思っている内に、

 キキーッ!

 と大きな音を立てながらブレーキをする姿の美少女は、俺たちの前で止まった。

 彼女は仁王立ちで、背景に炎をメラメラと、燃やしていた。

 まるで中華料理の大きなフライパンで調理する時のようなあの火力だ。

 そんな様子で、彼女は声をあげた。

「あーら、お二人さん。とーっても仲がよろしいこと! うらやましいですわぁ・・・」

 と絵にも描けないような形相で俺たちに語りかけてきた。

 それは、まぎれもなくちかげであった。

 なんか前にも、こんなシチュエーションあったような。

 それにしても、ホントに心臓が飛び出でるか、と思うくらい驚いた。

 ちかげは、発狂に近いテンションでセリフを続けた。

「まったく、たけるったら、イチャイチャ・・・じゃなかった。二人の世界作っちゃって! もう!」

 少し涙ぐんでいたのだろうか。

 そんなような震えた声で、ちかげはさらにセリフを続けた。

「たけるなんて、たけるなんて、知らない!!」

 そう言うと、メラメラと燃えていた背中の炎は消え、背景には何も映らない、まっさらな、悲しみの情景へと変化しているようにも見えた。

 ちかげは、涙をこらえるように、目を腕で押さえながら、教室の外へと走り去っていった。


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