表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/27

二人の想い

38.


 授業を淡々と終え、気づけば放課後になっていた。

 いつも通りの日常、代わり映えない景色。

 しかし、俺の心はいつもと違っていた。


 放課後、人けのない穴場スポットで、俺はちとせから呼び出しをくらっていた。

 言い方が少し変だったか、決して嫌な内容ではない。

「たける・・・」

 切ない顔するちとせ。いつもの陽気な姿など微塵も感じない。

「わたしね」

 緊張が限界を超える。



「たけるのことが、大好き」



 ちとせはいつになくまじめな表情だった。

 ウソ偽りない、本心だった。

 きっとそうなのだろう。

 







         『俺はちとせに、告白された』












 話は放課後が始まってすぐに戻る。

 俺は、休日のちとせとのイベントを思い返しながらも、いつも通りの日常に逆らうことなく、家路に着こうとした。

 教室には珍しく誰もいない。残ってるのは俺だけだ。

 そんな中、教室のドアが静かな音を立てて開き始める。

「ちとせ?」

 なにやら恥ずかしげな表情をしながら、ちとせは教室へと入ってくる。

 そして俺を見つけると、静かにこちらへと歩み寄ってくる。

「話があるの」

 いつになく真剣な表情のちとせ。

 俺はこの時点で気づいていた。気づいていたのだが、あえて気づかないフリをした。

「校舎の中庭あるでしょ? 少ししたらでいいから、そこに来てほしいの」

 外はすっかり夕焼けの光が差し込んでいた。

 俺の内に秘めた気持ちを冗長させる。

 今この気持ちを言葉にしてはいけない。言葉にしたら何もかも崩れそうだ。

 不安そうな笑顔を浮かべながら、ちとせはこの場を去る。

 俺は、一体どうしたら良いのだろうか。

 この一週間の思い出。たった一週間の思い出。でも俺には途方もないくらい長い時間に感じた。

 それは紛れもなく、ちとせがいてくれたおかげだ。

 ちとせが俺に無いものを与えてくれた。

 ちとせが俺が気づかないことを気づかせてくれた。

 頭の中に不安がよぎる。

 まるで電流が脳内を駆け巡ってるかのようだ。

 俺は今にも倒れそうな体で、フラフラとちとせの言われた場所へと向かう。

 

 そこにちとせがいた。


 ん? 少しおめかししてるのか? 俺がプレゼントしたヘアピンを付けている。

 さらに髪型も変わっている。

 ミスコンイベントの時のおさげ姿だ。

 頬を朱色に染め、両手を前に組みながら、ちとせは何か言いたそうにしている。

「き、来てくれてありがと」

 第一声がそれだった。

「なんとなく不安だったから・・・」

 今にも枯れてしまいそうな声で、ちとせは言葉を紡いでいく。


 ちとせの髪が揺れる。

 ちとせは瞼をギュッとつむる。



 俺はなんとなく気づいていた。

 俺はなんとなく言われると思っていた。

 先延ばししようと思えば思うほど、この気持ちは儚く、脆く、崩れ去っていく。

 ちとせはそう感じたのだろう。


 深く深く心に刻む一言。

 言えば崩れてしまうかもしれない一言。

 その一言を、ちとせは今から紡ぐのである。


 俺は心構えなんてしていない。それは心構えをすればするほど、自分に嘘をついてしまうからだ。

 こんな時に理論も理屈もない。

 俺はちとせの言葉をありのままに受け止める。そう、決めたんだ。

「たける」

 ちとせが声色を変えて、俺を呼ぶ。

「わたしね」

 次で全力を振り絞るかのように、抑揚をつける。

「たけるのことが・・・」

 小さな拳に力を込める。



「たけるのことが大好き!!」



39.



 放課後とはなんてことのない、ただのおしゃべりタイムだ。残ってるやつは残って楽しい学園生活を謳歌し、残ってないやつは、さっさと家路についてゲームでもしているのだろう。

 俺はというとだ。

 ちかげから放課後に体育館裏に来てくれ、と言われたのである。

「たける、絶対来るのよ! 大事な話があるんだから!」

 いつも通りなのだが、若干真面目な雰囲気を漂わせながら、ちかげは力強く言葉を発する。

 一体なんなんだろう? 大事な話って。

 

 俺はとりあえず、体育館裏に行くことにした。

 ちかげと一緒に行こうと思ったのだが、ちかげからは『NO!』のサインを頂いたので、一人で来ることに。もうわけわからんな。

 俺は頭を使っていたせいか、体のほうがうまく動いてなかったようだ。

 体育館裏までは、通常と比べると、かなりの時間をかけてしまった。


 先に到着していたちかげと顔を合わせる。

「もう、遅い! 一体なにやってたのよ」

 しょっぱなから怒られる俺。んまぁ待たせたのは悪いが、俺なんかしたか?

 疑問に思いながら、ちかげをジッと見る。

「まったく、これから大事な話があるんだから、しっかり聞きなさいよね! しっかり心構えしときなさいよぉ」

 なんか大事な話するような雰囲気じゃないんですが、気のせいでしょうか?

「うっさいわねぇ、ずべこべ言わず、ここに立つ!」

 ちかげは俺に「ここに来い!」と、自分の目の前に立たせた。

 下手をしたら顔と顔が触れられる距離である。

「じ、じゃあ始めるわよ」

 いつになくぎこちないちかげ。

 なんだってこんな距離で話さんでもよかろうに・・・。

「た、たける?」

 はいはい、なんですか。

「大事な話っていうのは、決着をつけることなの」

 なんの決着なんだ一体?

「たけるは私のこと好き?」

 !? いきなり唐突すぎるだろ!

 間髪入れずちかげは続ける。

「私はね、たけるのことが好き」

 だから訳わからないつうの。

「大好き」

 俺の思考が止まる。

 ちかげが、いつになく真剣な表情なのだ。

「フフフ、言っちゃった☆」

 言っちゃったじゃねえよ。驚くじゃねえか。

「でもぉ、こんな雰囲気じゃムード台無しだよね」

 後ろで手を組みながら、周りをウロウロし始める。

 まったくだ、以前も『好き』と言われたことがあるが、この雰囲気はないだろ。

「アハハ、やっぱりそうだよね」

 ちかげは二カッとする。

「でもね、私が私らしく在られるのって、たけるの前だけなんだ。今日も本当は、かしこまって、しっかり雰囲気作ってから告白しようと思ってたの」

 遠くにある夕暮れを見る。

「でもね、そんなの私じゃないって。私じゃないなぁって思ったの」

 夕日に映るちかげが、やけにキレイに見える。

「だからね、告白の法則を覆してみましたー☆」

 ちきしょう、ちかげのやつめ、ムードもへったくれもないじゃないか。

「だから、もう一回言い直すね」

 力いっぱい大きく息を吸い込むちかげ。

 これでもかってくらい大きく吸い込むちかげ。


「私は・・・」



「私はたけるのことが大好きぃー! 世界で一番愛してるー!!」

 ちかげは叫んだ。

「ちょっと前まで冷たかったたけるも大好き! いつものようにダラダラしてるたけるも大好き! 私が困ってる時に助けてくれたたけるも大好き!」

 もう一度大きく息を吸い込んだ。

「全部ひっくるめて、たけるが大好きぃぃぃーー!!」

 

 かつて感じたことない衝撃が、俺の胸を貫いた。

 しばらく時間が止まったかのようだった。


「ハァハァ」

 ちかげは息を荒げている。

「ふぅー」

 息を整える。

「あぁ、スッキリした! スッキリしたわ! たける! これが私の全身全霊を込めた気持ち、そう、全身全霊を込めた気持ちよ!」

 テンパっているのだろうか、二度言わなくても聞こえてるって。

 うぅ、こんな勢いのある告白なんて、ドラマでも漫画でも俺は見たことがないぞ。

 かつてない緊張感と緩さのコラボレーションで、頭がパンクしている俺。

 無理もないだろ。ここは俺を擁護してくれ。

「返事は明日でいいから!」

 え?

「返事は明日でいいからね! そ、その・・・正直言うとまだ怖いから・・・」

 最後の方が小声でうまく聞き取れなかった。

 なんだ? 返事は明日でいいってことか?

 ちかげを引き留める余裕もなく、ちかげは目の前から去って行ってしまった。

 なんだったんだ一体。俺を悩ませに来たのかあいつは。

 迷惑がっているように聞こえるが、正直俺は嬉しさで心の中は満ち溢れている。

 恥ずかしくて言葉にできないから、つい悪くなっちゃうけどな。




 ちとせから告白を受けたのはこの後だ。



 そう、俺は決断をしなければならない。


 二人の期待に応えるためにも、二人の期待に応えないためにも。


 

 俺はこの日、夜遅くまで家に帰らなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ