味噌しいたけファンクラブ
30.
昼休みも残り半分となった今、俺に残されているのは、昼食を摂ることだ。
度重なるイベントに、空腹が限界を超えているのだ。
まぁ、よく厄介ごとに絡まれるもんだ。
そんなことを考えながら、俺は屋上から教室へと戻り、購買部で買ってきた『味噌しいたけパン(120円)』を開ける。
このナンセンスな味のパンを見て、おわかりかもしれないが、購買部で人気の『やきそばパン(120円)』や『カツサンド(130円)』は、既に売り切れていて、買うことはできなかったのだ。
よってこの、校内ワースト1位の不人気さを誇る『味噌しいたけパン(笑)』しか残っていなかった。
味噌しいたけパンは、味はそこそこ上手いが、いかんせん食感が悪い。
しいたけの独特な食感と、パンの柔らかさは、全くマッチしないのである。
まぁ、でも好きな人がいるかもしれないので、否定はしないけどな。
そんなこんなで、今はその不人気パンを口にしているわけだ。
「あ、たけるー!」
元気とキレイを織り交ぜた声が聞こえた。
声の主はちとせだった。
ちとせは可愛らしい駆け足で、俺の席へとやって来る。
よく見ると、片手には、弁当を持っているようだ。
「たける、一緒にお昼食べよ」
とちとせは答えた。
そりゃあ、ちょうどいいな。今食ってたところだし。
「おう、じゃあ昨日みたいに、机借りてくるな」
俺は隣の机を借りて、ちとせと向かい合うようにして、机をくっつける。
ちとせが来たせいで、男子生徒がザワつき始めているが、気にしない気にしない。
「まぁ、ここ座りなよ」
そう言って、俺はちとせを誘導する。
「ありがとう、たける」
ちとせはペコリ、と綺麗なお辞儀をしてから、席に着いた。
そういえば昨日は、ちゃんと一緒に昼飯食べれなかったしな。今日は落ち着いて食べれそうだ。ちかげは閉じ込めてあるし。(あとでちかげに謝ろう)
「いやぁ、悪いな。わざわざDクラスから来てもらって。2個も隣なのにな」
と俺が言うと、ちとせは、
「いえいえ。私はたけると一緒に、お昼食べるの、楽しみにしてたから、そんなの気にしないよ」
と丁寧なお辞儀をしながら言った。可愛いなおい。
どうやら、今はお嬢様モードらしく、とても落ち着いている様子だ。
そりゃあ、そうか。ここ教室だもんな。
ちとせは、表向きでは、お嬢様のテンプレートのような、落ち着いた雰囲気で通っているから、逆にこれが普通なのか。
こっちのちとせは、ヤバイな。初めて会った時もこんな雰囲気で、俺はあまりの可愛さに卒倒しそうになったからな。こりゃあ、世の男子生徒は、みんなイチコロだな。
表向きのちとせの性格に、関心しつつ、昼飯に手をつける。
「たける、どうしたの? さっきから私の顔ずっと見て」
と首を傾げたちとせが答える。そんなに顔見てのたか。ちょっと恥ずかしいな。
「いや、なんでもないよ。ハハハ・・・」
と誤魔化す俺。まぁ誤魔化せてるかは、わからんがな。
ちとせは、俺の買ってきたパンを、なぜか物欲しそうな顔で見つめている。
さらに指までくわえ始め、よりそのパンに興味を持っているという行動に出ている。
もしかしてと思い、俺はちとせに質問した。
「ちとせ、もしかして、このパン食べてみたいのか?」
すると、机に置いてあった味噌しいたけパンを見ながら、ちとせは上目使いで答える。
「うん、これなぁに? 初めて見るんだけど」
え? 今なんて?
「初めてみるパンだよー」
ど、どういうことだ?
「私、たまに購買部で買いに行くときあるけど、いつも『やきそばパン』と『カツサンド』しか買ったことないから、このパンは見たことないよ」
くっ、このブルジョワめ!(違う) 一体、どういう手順で、あの人気メニュー争奪戦に、打ち勝ったというのだ?
疑問に思った俺は、ちとせに問いただした。
「ちとせ、一体どうやったら、その校内人気メニューを、そう易々とゲットできるんだよ」
ちとせはキョトンとする。というか、不思議そうな顔をしている。
するとちとせが口を開いた。
「えーと、どうって言われても。私が購買部行くと、並んでた男子生徒のみんなが、親切に道を開けてくれるの。ちとせさん、どうぞって」
ほう、そうかそうか。
さらにちとせは話を続ける。
「あとね。『俺たちは別に並んでませんよー』って言って、前から2番目くらいまで、進めたり」
ほほう、そうかそうか。
「あと、関係ないと思うけど、私が列に入り終わった後に、『会長! 案内役、遂行いたしました!』とか聞こえたかも」
完全に『ちとせファンクラブ』が機能してますね、わかります。ファンクラブの実行力すげえなオイ。
というか、ファンクラブはつい最近というか、昨日の今日でできたんじゃないのか?
ちとせの顔を見る限りでは、ずっと購買部で何不自由なく、購入しているような様子なんだよな。
もしかしたら、ちとせが入学した頃から、ファンクラブは、在ったのかもしれないな。
うぅ、それにしても、人気メニュー買えるのは正直羨ましい。その特権を使って、俺にもやきそばパンと、カツサンドを分けておくれ。
「それでさ、たける」
キラキラした顔で、俺に問いかけるちとせ。
「このパン食べてもいいかな?」
ものすごく、興味ありそうな顔してるな、オイ。
まぁ、こんな売れ残りで良かったら、消化してくれた方が、俺も幸いってもんだ。さすがに、コレ3個はキツイ(ちなみに本日の昼)
「私は、代わりにお弁当のおかずあげるね! これで等価交換よ☆」
ちょっぴりだけ、元気っ娘要素を出しつつ、昼飯の交換を促すちとせ。全然オッケーだ。
俺はちとせから、ふっくらとして美味しそうな、出し巻き卵と、家でも見たことのある、パリッと音がしそうなウインナーをもらった。
こりゃあラッキーだ。
あ、そうだ、ちとせに注意しとかなきゃな。
このパンがあまり美味しくないのを、ちとせは知らないからな。
そう伝えようと思った時には、ちとせの口は、すでに何かを味わっている動きをしていた。
しまった、遅かったか。
で、でも俺のせいじゃないよな? 俺、悪くないよな? あまりの不味さに、おかず返せ! とか言われそうで怖い。
「たける・・・」
ちとせは、うつむいたまま、妙に優しい声を響かせる。
「何なの、これは一体」
ひいいいい。
段々と顔を上げながら、ゆっくりとした声を響かせる。
終わった。俺の昼人生終わった。
ごめんなさい、ちとせさん。
俺が悪うございました。
どうか、どうか許してください。
笑顔がお似合いなんですから、そんな怖い顔しちゃ、可愛い顔が台無しですよ。
と同様していた俺は、訳の分からない言い訳を、頭の中で巡らせていた。
だって怖いじゃん?
しかし、ここでどんでん返しが起きた。
よく見ると、ちとせは目をキラキラさせていたのだ。まるで、新しいものを見つけた小さな子供のように。
「たける!」
テンション高めで話しかけられる。
「これ、とってもおいしいじゃない!」
ファッ!?
「だから、これとーっても美味しいわよ」
う、嘘だろちとせ。それは校内で不人気ナンバー1だぞ。
うっとりするちとせ。
「はぁ~、このしいたけ独特の食感と、舌にからみつく味噌は、正に、味のオンパレードだわあ!」
どこかのグルメレポーター(彦○呂)みたいな、感想を述べるちとせ。ちなみに、あのレポーターは個人的に好きだ。って今はレポーター関係ないか。
にしても、そんなに気に入ったのか?
ちとせが決して、変な味覚を持ってるとは、思わない。
うーん、やっぱり人の味覚って、個人差あるんだなぁ、と実感させられるだけだ。
とりあえず、俺の昼飯は無事に済みそうで、良かったよ。
GJ! 味噌しいたけパン★(120円)
この後、教室にいた男子生徒たちは、無人島にでも来たかのように、いなくなっていたのだが、5分もすると、ほぼ一斉に味噌しいたけパンを握りしめ、野郎たちが、教室でむさぼり食っていた。
うち何人かは、食べた直後に、保健室に搬送されていたようである。
ちとせの影響恐るべし。というか、ファンクラブ恐るべし。
無事昼食を終えた俺たちは、チャイムが鳴る前に別れ、それぞれの教室に戻る。(俺はこのままだが)いやぁ、一時はどうなるかと思った。
ちとせに、あんな子供っぽい一面があったとはな。いつもと違うとこ見れて、なんか可愛いかったし。
感慨にふける俺。
それにしても結構モテてるな、あいつ。
このままだと、校内でいつ、ファンクラブに闇討ちされるかわからないな。
まぁ、その時はその時だ。
ファンクラブのやつらに、立ち向かっていくか。
ちとせと昼を共にできた喜びか、ファンクラブとの決戦を控え心燃やしているか、わからないが、なぜか俺の心は、いつも以上に清々しかった。




