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脅迫状2

28.


 光が完全に地上を覆い、シルエットが消えたその時、女の子の正体が見えた。

 綺麗な黒いロングストレートに整った顔立ち、スラッと伸びた脚はまるでスポーツかモデルでもやってそうな、スタイルのいいその姿は、俺の見慣れた人物であった。

「ふふん、来たわね。たける」

 ちかげは仁王立ちのまま、鼻息をフン! としている。

「その様子だと、私の愛の手紙、ちゃんと受け取ったみたいね」

 あれが愛の手紙だと? どう見ても、脅迫状だろ。

「ふふん、どうやら私の愛情の深さに、困惑しているようね」

 そりゃ困惑するわな(別の意味で)

「というわけで、バドミントンで勝負よ!」

 と言って、俺に指を差すちかげ。

 何を持ってして、「というわけ」なのだろうか。いきなりバドミントン勝負挑んで来やがった。

 さすがにこれ以上、勝手はさせられないと思った。

「おい、ちかげ。さっきからなんなんだよ。いきなりバドミントン勝負だなんて」

 続けて俺はちかげに話す。

「それに、俺はバドミントンなんて、体育の授業でしかやってないから、全然うまくないぞ?」

「ふっふっふっ」

 不適な笑いを浮かべるちかげ。何を考えているんだ一体。

「たける、聞いたわよ」

 え? 何を聞いたんだ?

「ちかげちゃんは、なんでもお見通しなんだから」

 ちかげは、バキューンという指の形で、弾を撃つような仕草を見せる。

 俺、何かやましいことしたっけ?

 疑問に思った俺はちかげに質問する。

「おい、ちかげ。俺はお前に気に障るような、やましいことなんて、何もした覚えはないぞ」

 ちかげは自信ありげに返答する。

「フッフッフッ。わかるんだなーこれが。ちとせさんと、何かあったんでしょ?」

 !?

 な、なぜそれをちかげが知っている?

 まさか公園でのやりとりを、一部始終見られていたとか? スパイでもいたのか? ストーキングされたのか?(考えすぎ)

 ちかげはまた不敵に笑う。

「フッフッフッ。その様子だと、やはり何かあったようね」

 なぜだ? 今日のちかげは、やたら切れる。

 成績こそ、学年で中間くらいの成績のちかげが、今日はやたら切れる!

 ・・・まぁ別に、あのやりとりでも、やましいことなんてないんだけどな。

 やましいことなんて・・・ハッ!?



『俺はちとせのことが好きだー!』



 俺はどうしていつも、一間遅れてから、非常事態に気づくのであろうか。確信つくようなこと言っているじゃないか。

 でもな、あの『好きだー』は、一男子学生としての意見だからな。本当の告白みたいな『好き』とはニュアンスが同じにせよ、若干意味が違う。

 しかしだな、そんな違いを、ちかげはわかってくれるのだろうか? それだけが心配である。

「何をブツブツ言ってるのかしら」

 ちかげは、頭の中で高速展開している俺を、待ちきれなかったのか。少しイライラした様子である。

「まさか、本当にやましいことしてるんじゃないんでしょうね?」

 しまった。カマかけられたか。

「たーけーるー?」

 ジリジリと俺に近寄ってくるちかげ。

 まずい、これはまずい。

あ、そうだ。こういう時は、いい方法がある。

 俺は息をスウーッと吸い込む。肺がイッパイに膨らむくらいまで吸い込む。

 時はきた。

 俺は頭を抱え、ひざをたたみ、目線は思いっきり下に向けた。

 そして絶望に満ちた表情で、

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい×(お好きなだけ)」





 ・・・なーんてことはせず、追い詰められたまんまだった。

 でもなぜだろう。追いつめてくるちかげの顔が、段々悲しそうになってきてるような、気がする。

「たーけーるー、もう逃げられないわよ。白状しちゃいなさい。ちとせさんと何があったか」

 俺の背中で、絶望のメロディーが奏でられた。

 そう、壁まで追い詰められたのである。

「たーけーるー?」

 もう逃げられるスペースなどない。

「たーけーるー・・・」

 かと言って、このままでいるわけにもいかない。

「たーけー・・・ヒグッ」

 ん? 

 少しばかり悲しめな声が聞こえたような気がした。

「たーk・・・うわあああああん」

 ちかげは、俺を追い詰めるかと思いきや、突然大泣きしていた。もう何が何だか、さっぱりである。

「うわああああああん。バカ! バカ!」

 ポコポコと乙女パンチをされる俺。呆然と立ち尽くす。

「心配したんだからあああ」

 え?

「心配したんだからああ!」

 ちかげは泣き声で話す。

「たける、朝来たらいないし、4限始まっても来ないし、お昼休み始まっても、全然来ないんだもん、うわあああん」

 ちかげはまだ大泣きしている。

「たけるがっ、たけるが、もう私の目の前から、永遠にいなくなっちゃうと、思ったんだからぁ! うわああん」

 そういうことだったのか。それであんな脅迫状染みたこと書いて、脅迫染みた電話で、俺を呼び出して・・・。

 とりあえず、俺は泣いているちかげを抑えこむことにした。

「何言ってるんだよ。俺はここにいるし、ちかげの前から、いなくなるなんてことは、ないよ」

 ちかげの肩をポンポンと優しく叩く。

「グスッ」

 少し泣き止んでくるちかげ。

 そして、うるうるとした泣き顔の上目使いで、

「ホ、ホント?」

 と言ってきた。うっ、これは可愛い。

「本当に本当だ。だからもう心配しなくても大丈夫だ。ごめんなちかげ」

 するとちかげは、笑顔で「うん」と答えた。

 ちかげの瞳からは、まだ少し、涙が残っていた。



 しばらくすると、ちかげは元通りになっていった。些細なことだったかもしれないけど、心配かけちゃってゴメンなちかげ。

 俺は心からそう思い、言葉を胸にしまった。

 にしても、ちかげもちかげだ。

 急にあんなに泣き出すから、なんなんだと、思うじゃないか。俺はその辺を、ちかげに質問する。

「どうして、お前、いきなり泣き出したんだよ。びっくりしたじゃないか」

 ちかげは答える。

「ご、ごめんね。取り乱しちゃって」

 ちかげは、てへぺろしている。ちょっとイタズラっぽくて可愛いかも。ってそうじゃない、そうじゃない。(反省)

「だってね」

 一間置くちかげ。

「だってね、昨日の今日で私、たけるとすごく近づけた。たけると、すごく仲良くなれた」

 ちかげは話を続ける。

「好きだと、想いも伝えた。たけるは、それを嫌な顔せずに聞いてくれた」

 嫌とか・・・そんなことはない。

「私はその日から、毎日たけると会うの楽しみにしてるんだよ。だからね」

 ちかげは切ない顔する。

「今日たけるが来ないのは、私のせいじゃないか? って思っちゃったの。やっぱり、たけるは無理して、私の話聞いてくれたんだなぁ、って」

 ちかげの表情は変わらない。

「授業中にそんなこと考えてたら、どんどんネガティブになっちゃって・・・」

 ちかげの表情が曇る。

「それで、たけるが私のこと、嫌いになったのかと思っちゃったんだ」

 俺に顔を向ける。

「ゴメンね、たける」

 そんなちかげの顔を見て、俺は自分の言葉では表現出来ない気持ちが、胸いっぱいに広がっていった。胸の奥が『キュン』となったのだ。こんな時に、擬音語でしか浮かばない俺の脳を、呪ってやりたい。



 『俺はちかげを抱きしめた』



 この場所だけ時間が止まる。

 ちかげはきっと驚いた顔なのだろう。

 ごめんな、今俺ができるのはこれくらいしか、思いつかないや。

 少しすると、耳元でちかげの声が静かに聞こえた。

 ちかげの声を聞いて、また泣いているのだなぁ、と思った。

 ちかげは、泣き虫だなぁ。



「・・・ありがとう、たける」

 

二九.


 バドミントンがさっぱり関係なかった件については、見逃してもらうことにしよう。いや、お詫び申し上げよう。

 でも、実際こんなことになった以上、バドミントンどころじゃないからな、臨機応変だ。

 さてと、ちかげの悩みも晴れたみたいだしな、そろそろお昼休みも中盤くらいだから、飯食って、教室に戻るとするかな。

 ガシッ。

 何者かに、制服の襟をつかまれた。何者かって、今一人しかいないけどな。

「たける!」

 ハイハイ、なんですかちかげさま。(棒読み)

「バドミントン、やるわよ!」

 一瞬間が空いた。

 都合よく風が吹いた。

 何かを回収した感じがした。

 地上では、地味に神風だった。(後のマサト談)

 あれ、ちかげさん? その件については、先ほど違う方向にそれて、終わったのでは?

「終わってないわよ。だって、聞かなきゃね。ちとせさんと、何があったのかを(妙にゆっくりした声)」

 あ、やっぱりそっち?

 なんかデジャヴを感じるのだが。

 あと、やっぱバドミントン関係ないじゃん。

 俺は少し焦っていた。

「そ、それはだな」

 鋭い眼光が俺を直撃する。

「それは?」

「え、えーと」

 ちかげの目が光ったような気がした。

「えーと?」

 このままじゃ、やばい。直感で感じた俺は、逃げる体勢を万全にした。

 そして、陸上部の友人にひそかに教わっていたクラウチングスタートで構えて、

「また今度――」

 と全力で逃げ出した。

 ちかげは追いかけてくる。

「こらー、逃げるなー!」

 もはや鬼の形相である。怖い怖い。

「もう、どうしてこうなるんだー!」

 どこぞの日常ギャグ漫画のように、大きく飛び跳ねながら、話は終了。

 なんて都合のいい展開にはならなかったが、屋上のドア付近までたどり着いたので、ちかげに追いつかれる前に、ドアに鍵をかけて、事態は落ち着いた。

 ふぅ・・・、危なかった。

 ドアからは、しきりにガンガンと、大きな音でノックする音が聞こえる。

 すまん、ちかげ。俺的にはもう、昼休みをのんびり過ごしたいのだ。

 もう少し、そこでおとなしくしててくれ。


 後でちゃんと、鍵開けるからさ。


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