出会い
『一週間のバレンタインデー』
1.
1月も終盤に近づき、木の葉が落ち切ったこの恋愛学園には、いつもと同じ冷たい風が吹いていた。
もちろん、一男子学生である俺の心も冷え切っていると思ったら実はそうでもなかったりする。
なんせ毎年2月になると、何かしらの経緯で、糖分を摂取することができるからな。
「まぁ今年も、去年と似たようなことになるさ」
と、心が勝手にしゃべり始めた時には、既に油断の文字が体中を覆っているほど、油断していたのだろう。
「・・・ける?・・・たける!!」
今にも鼻と鼻触れ合いそうな距離で顔を近づけるのは、まぁ、腐れ縁というかなんというか・・・幼馴染と言えば、一番早いのだろうか。
そう、こいつがオレの幼馴染のちかげだ。
綺麗な黒いロングストレートに整った顔立ち、スラッと伸びた脚はまるでスポーツかモデルでもやってそうなのが伺える。
まぁ一言でいうと、こいつは美少女の部類に入るわけで・・・まぁ口では言わないけどな。
「ちょっとたける? 聞いてんの? 」
「うっせぇなあ、なんだよ! ・・・と、とりあえずお前顔近づけすぎだろ!」
と、言うとちかげは顔を真っ赤にしながら、パタパタとペンギンが歩く時の動作をして、2歩くらい後ろに下がった。なんなんだ一体。
「だからぁ、さっきから言ってるでしょ!」
何を!?だから何を言ってるんだよ。
「・・・ンタインデーよ・・・」
あ? なんだって?
「だから! バレンタインデーで、どんな味食べたいか聞いてるの! あんた、毎年私があげなきゃ、誰からももらえないでしょ? だから、私があんたのために、作ってあげるって言ってるの!」
「誰も頼んでねぇよ!」
「そぉんなこといって~、またちかげちゃんの愛情こもったチョコを期待してるんでしょw わかってるんだから☆」
ちっ、まったくなんでこう自信満々で人生を謳歌してるんかねぇこの娘は。
「わぁったわぁった。ありがたく頂きますよ」
「なにそれぇ、ぜーんぜん感謝してないじゃなーい、毎年作るの大変なんだから―」
ゴチャゴチャうるさいちかげの話にうんざりした俺は、ムスっとした顔のちかげを横に、教室を後にすることにした。
2.
「おまえ、マジうらやましいよなぁ」
そう感嘆しているのは俺の友人、マサトである。教室を出てすぐの廊下でバッタリ出会った。
「まったく、どうしてお前はあんなにかわいい娘がいるというのに、避けるのかねぇ・・・」
「うるさいなぁ、あいつは小学校の時のただの幼馴染で、クラスもずっと一緒で、まとわりついてるだけだよ」
「でもアレだぜちかげちゃん、この学校でかなりモテてるんだぜ。後輩からは連日告白されてるし、昨日なんて3年生の先輩から告白されてるの、俺体育館の裏で見かけちゃったしな」
そんなバカな・・・あいつがそんなに人気あるわけないだろ。
「みんなどうせ、あいつの外見に惑わされてるだけだろ」
するとマサトはニヤニヤしながら、
「ほう、外見は認めちゃってるのねw かわいいやっちゃww」
「う、うるせえな! 」
でも正直最近は「うざい!」「ただの幼馴染!」という枠を越えて、「かわいい」というフレーズがピッタリあってきてる気はするかもな・・・まぁ口では言わないけど。
「今度オレ勇気をだして、ちかげちゃんに告白してみようかなぁ。俺なんかでいいのかわからないけどな。明らかにフツメンだし、特にスポーツできないし、オタクだし・・・ブツブツ―」
「あぁ~もう勝手にどうぞ~」
話にも飽きてきた俺は、廊下を後にしてマサトと別れることにした。
あいつ少しマジな顔してたけど、まぁ気にしなくていっか。
あいつはいつも好きな子ができると、こうなるからな。
3.
ちかげの評判の良さに少し頭を悩ませながら、俺はフラフラと廊下を通り抜け、1階の昇降口にまででた。
いつのまにこんなところに来たんだ? ホント暇だな俺。
「なんかやることねぇかな~」
と独り言を言いながら、俺は学校の外に出ていた。
昼休みとはいえ、このまま学校の外に出て暇つぶしを探すのは、さすがに良心が痛むというものだ。
だがしかし、ここで立ち止まっていれば、探すもんも探せないしな。
学校にいても、面白いことないし。
という実に直観的な思考で、俺は外に出るという選択肢を、無意識の間に選んでいた。
4.
しばらく歩いていると、小さいころお世話になった駄菓子屋さんや、母親に毎日連れてかれたデパートや、学生がたしなむ洋服屋、カラオケ、ファーストフード、結構何でもある。 まぁ駅チカだし当然っちゃ当然だが、意外と住んでいるとありがたみに気が付かないものだ。
と意味もなく感慨深くなって歩いていると、一人の美少女が信号の前で佇んでいた。
その美少女は推定年齢俺と同じくらいか? いや年上に見えるな。制服着てないし、大学生かなにかかな。
見るとハンカチとサイフらしきものを落としていたので、俺はそれらを拾いに信号まで走った。
なんとか大学生美少女(?)に追いつきそうになり、ハンカチとサイフを渡そうとしたのだが、信号が赤に変わってしまったので、既に横断歩道を渡り切った彼女に、渡すことはできなかった。
んー、ちょっと惜しかったな。
5.
ハンカチとサイフは、とりあえず交番に届けようとしたのだが、よく見るとハンカチの方に名前が書いてあった。
『青空 千歳』
今時、ハンカチに名前を書いている大学生などいないと思っているのは、俺だけなのだろうか、と心の中でつぶやいていると、サイフの中に、学生証らしきものが飛び出していたので、直感的にソレを引っ張りだした。
「恋愛学園2年・・・青空 千歳・・って、オレとタメじゃねーか!」
と人目もはばからず俺は大声を出していたせいか、周囲の人から白い目で見られていたのは、決して気のせいではなかっただろう。
そんなことよりも、あの大人っぽい美少女が大学生ではなく、タメだったことに驚きが傾いていたため、周囲なんてとうに気になどしてはいなかった。
ここで選択肢が生まれた。
1、『このまま交番に届ける。』
2、『どうせ学校で会うので学校で渡す。』
とまぁ選択肢が出てる時点でおかしいのだが、
俺はなぜか2番を選んだ。
「美少女に渡してお礼を言われたい!」などと、下心見え見えなことを考えていたわけではないのだが、やはり同じ学園なので気になるところ。
その人自身に、興味を持ち始めたというのが、正しい答えかもしれない。
「交番まで2kmとか言ってたなぁ、どちらにせよ、明日学校で渡すほうが手っ取り早いな。」
とおおよその結論が収束し、俺は学校へと戻り、いつもと変わらぬ授業を淡々と消化してから、家路へと着くのであった。




