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現状確認2 (侍女たちのお仕事編)

ため息を飲み込みつつ、すべての食事を終えれば、今日の分の書類だという非常に少ない書類を手渡され、一昨日のあの書類の量の異常さをしみじみと実感していれば、マリヤが嬉々としてそれらの書類をいくつかに分けていく、そうしてにこやかに。

「今日からわたくしがアルフディアのお仕事の付き人も務めさせて頂きます。」

 昨日のような状況では、学院を卒業したばかりの身には、まだまだ荷が重いので、侍従長が部下の方を派遣してくださいましたが。

 と言われアルフディアは、まじまじとマリヤを眺めてしまった。

「学院…とは、あの学院…?」

 思わず聞き返すほどの衝撃だった、そんなアルフディアの様子に、侍従長はさもありなんという表情で。

「学院は国内の優秀な人材が貧富を問わず集まり学ぶ場所ではありますが、基本男子に限ってありますからな。」

 と笑えば、マリヤが誇らしげに。

「わたくしは特例ですの、止めの妃を娶る際に、仕事の付き人になれる人材をと、数年前から王都では女子にも簡単な基礎教育を始めていたんです、その中でも優秀な人間には貧富を問わず家庭教師がつけられ、特別に学院への入学が認められ、あとは陛下御自らわたくしどもにお会いになられ、わたくしはそこではもったいなくもお付きのお役目を侍女のお役目とともに頂きました、アルフディア様付きの6人の召使たちも皆同じ学院で学んだ仲間たちです、あと数人学院の仲間がおりますが全員王宮内で役職

ある方々の元で働かせていただいております。」

 と言うので、それこそ信じられないものを聞いたように、アルフディアは首を振った。

 今の王が即位したのが4年前、23歳の時だったはずだ、立太子になったのがさらに三年前つまりその頃から止めの妃を娶るつもりだったとしか思えない、いったい何を思ってそこまで止めの妃にこだわるのか、何か事情があるかもしれないがご苦労な事である。

「しかし、止めの妃は男なんだ、普通に男の付き人でよかったのではないのか?」

 ふと気が付いたもっともな意見を口に出せば、侍従長とマリヤが笑いをかみ殺しながらお互いの顔を見合わせ。

「…それがですなあ、陛下が止めの妃様に男の付き人は付けぬとおっしゃられて。」

 そこまで言って、とうとう耐え切れず笑い出す侍従長の後を引き継ぎ、今度はマリヤが。

「男とはいえ止めの妃は自分の妃として王宮に居る者なのに、その横に自分以外の男が四六時中侍っている姿は想像するだけでも腹が立つ、仮にその男が不埒なことを考えたらどうする、と仰って…。」

 そこで限界が来たのか、マリヤも盛大に肩を揺らし笑い出した。

 言われた当の止めの妃はぽかんと、口をあけ。

「こんな小汚い髭面の30男に手を出す輩もいないだろうに…。」

 我が陛下はどこか思考がずれておられる。

 心の中でそっとそうつけたしながら小さく呟けば、マリヤがハッとこちらを向き、ものすごい勢いで。

「そうですわ!アルフディア様!そのお髭は普段から整えていらっしょいませんの!?」

 と言われ、勢いに押されつつ、素直に伸ばしだしてからまともに整えた事など無い、と言えばすさまじい形相で。

「そんな事では駄目ですわ!ほかの妃様方から軽く見られてしまいます!そのばさばさの御髪を整えて、お髭もきちんとした形に整えましょう!今すぐ!」

 言うや否や、浴室に連れて行こうとする、マリヤや召使たちにおののきつつ、思わず侍従長のほうを見やればにこやかに。

「行ってらっしゃいませ。」

 と言われてしまい、味方がいないことを知る羽目に陥った。

「マリヤ!私はこの髭の状態が気に入ってるんだ!髪も一応整えてる、これ以上は…」

「大丈夫ですわ、わたくしどもが腕によりをかけて、アルフディア様を美しく磨き上げさせていただきます!」

 必死の抗議も目の据わったマリヤに一蹴され、アルフディアは数人の召使により、浴室に押し込まれ、娘と同じ年頃の少女たち相手に、抵抗しあぐねている隙に一気に衣服をはぎ取られ、いつの間にかわかされていた湯船にあっさりと押し込められ。

「さあ!気合を入れるわよ!あの女狐に負けてなるものですかああああ!!」

「「「「「おおおおおおおおおーーーーーーーーー!!」」」」」

 よくわからないマリヤの台詞と、ほかの面々の少女らしからぬ凄まじいトキの声の前に中年男は沈黙するよりなかった。


 そうして浴室で、ガシガシと全身を洗われた「そこは自分で洗う」という台詞も無視され、本当にがっつりあらぬ所まで洗われ、髪を洗い始めれば、全員の目が爛々と輝きだした。

「これは、染めてらしたのですね。」

「まあ、なんて素敵な髪質!」

「肌も思ったより日焼けしておられません。」

「うふふふふふふふふ、これならあの女狐に勝てるかもしれませんわ。」

「さあ!メインディッシュはお髭です!」

 怪しい視線に負け、苦行を行う僧侶の様に沈黙していたアルフディアが弾かれたように逃げ出そうとした瞬間、ガシッと全員の腕に阻まれ、誰かが拘束用の魔術を展開し出すに至り、アルフディアは何度目かの抗議を叫んだ。

「たかが髭を剃るのにそこまでするか!?」

「「「「「「当然です」」」」」」

 抗議はまたぞろ、今度は全員に一蹴された。

そうして、髭を剃りだした一同は一瞬にして結論を出した。

「「「「「アルフディア様、お髭が似合っておりません!」」」」

「いっそ全部剃ってしまいましょう。」

 恐ろしいほど清々しい笑顔で断言するマリヤに、一瞬で血の気を引かせ止めようとするも一歩遅かった。

「待…!」

 待てと言い切る間に、顔に冷たい刃物の感触が当たり、ジョリ!と一気に髭を剃り落とす音が響く、しばし呆然としていれば、目の前の少女たちが満足げに頷いている。

 なかなか髭の生え揃わない質の為3年近くかけてようやく生えそろわせ、10年以上保ち続けた髭の最期はあっけなく訪れたのだった。

 軽く涙目のアルフディアを完全に無視しその後も少女たちは楽しそうに中年男の髪に油を塗りこみ、マッサージだと言って顔どころか全身をこねくり回し、すべてが終わる頃には、アルフディアの顔色は白を通り越し青白くなっていた。


 そうして、二時間近くも浴室に拘束され続けたアルフディアが、這う這うの体で戻ってこれば、すっかりくつろぎながらお茶を片手に、部下たちの持ってきてくれた書類に目を通している侍従長が居た。

 自分が苦行を受けているときに、一人優雅に仕事をこなしていたらしき侍従長を思わずにらめば侍従長は一瞬、はて?と言いたげに首をかしげてから、ハッとして。

「アルフディア様…?」

 と疑問形で呟かれ、ますます眉を顰め。

「私以外の誰に見えると?」

 ときつい調子で言ってやれば、ますます唖然として。

「御髪は…。」

 と聞かれああ、と得心し。

「染めているんだ、悪目立ちしないように、これは魔力の低い者の特徴らしい、私の髪を見ればわかるだろうがほとんど銀髪だからな、魔力の低さをさらけ出しながらの旅など襲ってくれと言っているようなものだろう?」

 だから普段は家族と同じ栗色に染めていると言われ、ようやく得心が言った顔で頷きさらに、アルフディアの顔をまじまじと眺め。

「しかしお髭で顔を覆われていたのは何故でございます?隠すのがもったいないほどのお美しいお顔立ちではありませんか。」

 50過ぎの侍従長にストレートにそう言われ、軽くため息をつきつつ。

「だからだ…、このなりで戦場など行ってみろ、夜中に一人でいようものなら、テントか茂みに引きずり込まれるんだぞ。」

 と言ってやれば、ああと微妙な笑みが返ってくる。

 実際十代の時いやという程体験し、亡き父の親友であり師父である隣の領主や、古くから家に仕えてくれていた老齢な騎士たちがいなかったらどうなっていたか考えるのも恐ろしいという目に何度もあっているので、自己防衛の為の髭だったのだ。

 ちなみにそのせいで十代の頃から口の悪い騎士の間では彼のことを、姫君などと呼んでからかう連中が後を絶たず、その不名誉なあだ名は30を過ぎるまでついて回った。

 実力はともかく、魔力のない者はその気配が弱弱しい、そのうえ同年代のものよりも発育も遅れがちになる、そうして魔力の無さからくる髪や瞳や肌の色の色素の薄さ、とにかく存在自体が儚げでまるで壊れ物のような存在で思わず周りの者に庇護欲か破壊欲を持たせてしまう、本人にとっても迷惑極まりないがそんな連中が彼の周りには昔から掃いて捨てるほど寄って来ていた。

 幸運なのは身近な家族や知人友人、家臣たちが皆庇護欲よりの感情を持っていたおかげで、幼いころに無体な目に合うことがなかった事だろう。

「しかし、これでは、陛下の気遣いを笑えませんな。」

「……そうだな、まさかこんなことになるとは思ってもなかったからな…、ありがたいご配慮だった。」

 でなければ自分は早晩側付きの誰かに襲われていたろう。

 先見の目のある国王に心から感謝するアルフディアだった。


 弱そうな髭面のおじさんが、儚げな美中年に変身しました。


 あくまで外見だけですが…。

 

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