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プロローグ

 青い…、それが第一印象だった。

 目の前の男は、とにかく青かった、青い衣装、蒼い瞳、髪すら青み掛かった黒だった、肌の色が唯一健康的な小麦色、それ以外は見事に〝青い”その男を前に、気付かれぬ様に気を付けながら、小さくため息をついた。

 そんなことは知らぬげに、目の前の男は豪奢な椅子に座ったまま、にこやかに言い放った。

「よく来てくれた、これから長い付き合いになる、よろしく頼む、我が妃殿。」

 妃と言う言葉に激しい抵抗感はあったものの、彼はそのすべての感情を隠し静かに答えた。

「グリフデン領元領主、アルフディア・ダグ・グリフォーデンでございます。このような年寄りにもったいないほどのお役目、誠心誠意努め上げさせていただきます。」

「こちらこそすまぬな、子息に家督を譲り隠居の身であったはずの貴殿をこのようなところまで引っ張り出してきた上に、男である我の妃になってもらうのだ、生活には一切の不自由がないようにとり図るゆえ、好きなように過ごすとよい、これから一生を添い遂げるのだ、遠慮は要らぬ。」

 にこやかにそう告げる若い男に、深々と頭を垂れ、改めて彼は思うのだった。

 なぜ自分なのか。

 この国の王妃となるアルフディアと、若き国王ジルフォード・クレイム・グリフォードの結婚はすでに大々的に、国内外に発表されている、しかしそれに異を唱える者はいない、たとえ両者が男同士であろうとも、アルフディアが3人の子持ちの寡夫であろうとも誰も気にしない。

 なぜなら彼らの結婚は完全に形ばかりの物だからだ、若くまだ妃達の間に子が居ない王がこれ以上他国や国内の貴族から、妃候補を送り込まれないために作られた特別措置、同性を妃として娶りこれ以上妃は必要としないと国内外にする暗黙の意思表示時、それこそ「止めの妃」と呼ばれる特別な妃であった。

 要するに、一生後宮の一画でただ存在することのみを求められる立場に、わざわざ前途ある若者をあてがうよりは、すでに役目を終えた年寄りに任せる方が良いとの判断され、その上で若い国王と並ぶとき、少しは小奇麗な姿の者の方が良いとなり、寡夫な上にまだ40にもなってないアルフディアに白羽の矢が立ったのだ。

 その上、グリフデン領は王家と同じほど古い歴史があるにもかかわらず、政治の表舞台にはほとんど立たず、王家に納めるワイン造りだけに心血を注いでいると言っても過言ではない地味な存在であることも、王家としては都合が良かったのだ。

 王命ならばと仕方なくやってきたアルフディアはそんな事情は分かり切っているものの、やはりなぜ自分なのかと、もう一度溜息を付くのだった。


「お初にお目にかかります、アルフディア様、わたくしはアルフディア様付きの侍女マリヤと申します。」

 あてがわれた部屋に案内されれば、末の娘と同じ年頃の少女がにこやかに迎えてくれた。

「初めましてマリヤ、私はアルフディア・ダグ・グリフォーデンだ、よろしく頼むよ。」

 穏やかに名乗れば、うれしげに頭を下げられた。

「それにしてもすまないね、よりによって止めの妃のお付きとは、外れを引いたな。」

 はっきり言ってしまえば完全に閑職だ。

 王のお渡りもなければ、貴族の奥方同士のお茶会もない、日がな一日静かに過ごす止めの妃の話し相手なのだ、これが閑職でなくて何が閑職かと言うほどの閑職だ。

 そういう意味を込めて、マリヤに笑って言えば、マリヤの方が心外だとばかりに。

「いいえ!外れなどではございません!アルフディア様のお付きになれて本当に光栄です!」

 と意気込み、小さく悪戯っぽく笑った。

「それに、アルフディア様も、ご自分で思っておられる程暇にはならないと思います。」

 その言葉に疑問を持ったがそれはすぐに解決した、侍従長により、大量の書類が運ばれてきたのだ。

 唖然としていれば、侍従長も嬉しそうに。

「いやいや、百年ぶりの止めの妃様でございますが、これで私どもの仕事も少し楽になります、止めの妃様には後宮のすべての管理をお願いしております、まずはこれだけの書類、明日までのご決済をお願いしたく…。」

 部下五人の顔が見えないほどの書類を明日までと言うのは何の冗談かと思ったが、侍従長が本気であることは五人目の部下が、とりあえず仕事の補佐につくとおいて行かれた時だった。

「…まだ式を挙げていないのだが。」

 アルフディアの小さな呟きは見事に黙殺された。


 

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