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solaの風景  作者: 安楽樹
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choising fields.

【choising fields.】


この場所に決めた理由を話しておかなければなるまい。

今から数年前、新しい土地探しを始めた頃の話だ。


南向きで緩傾斜地、割と東京にも出やすく、それでいてとにかくだだっ広い田舎、というのが候補地の条件だった。


幾つかの場所を巡って、まあまあいい所は見つかったものの、「ここだ!」という場所が決められずに何度か目の旅路に出た時。

そんな時にたまたま一緒について来たのが彼女だった。


それまでは時々畑や山作業を手伝ってもらうぐらいで、特に親しいというわけではなかった。

だが将来的に田舎暮らしを考えているらしく、場所を探してドライブするという話をした時に「私も行きたい!」という意気込みがすごかったので今回一緒することになったのだ。

……う~ん、まだあまり性格がつかめていない。

結構ノリがいいということだけは分かったのだが。



無言の会話を交わせる相手が好きだ。

あまり気の利いた話を振ることもできず、車内はしばらく音楽だけの無言の時間が過ぎる。

何だか急に気まずい気持ちになって、俺は意味もなく話し掛けた。


「あ、あのさ」

「……ん?」


全く気にしていなかったかのように、彼女は返事をする。

その無邪気すぎる笑顔を見た時、きっと俺は恋に落ちたんだと思う。


……世の中の女性はみんな、振り返った時の笑顔の練習をしてるんじゃないか?

そう思わせるぐらいに、あまりにもその光景は自然に素敵だった。

普段の少し大人びた雰囲気からは分からなかったけど、結構彼女は勝手にこの旅を楽しんでいたんだろう。


相変わらず俺は、ギャップに弱いな。



いくつかの場所を巡った後、この場所へ着いた。

全てが完璧というわけではないが、悪くはない。

近くにはきれいな水の流れる川もあるし、朝日がとても綺麗に見えそうだ。

少し歩けば見晴らしのいいスポットもあり、何よりのどかで垢抜けてなさそうな所がいい。


しばらく彼女と、この場所での暮らしについて話が盛り上がる。

……もう少ししたら、帰らなければならない時間だ。

俺たちは最後にもう一度、眼下に広がる清涼な景色を目に焼き付けておくことにした。


高原を渡る風が、彼女の髪を浚っていく。

彼女は髪を浚われぬように手で抑える。

思わず、どこかの絵画の中に迷い込んだような錯覚を覚えた。


……あーなんでこんな時に限ってワンピースなんか着てるんだ。

相変わらず俺は、シチュエーションに弱い男だ。

気が付いたらあの台詞を口にしていた。


「……ここで暮らさないか?」


驚いて振り返った彼女が笑顔で頷いた時、また新しい何かが始まりそうな予感がしたんだ。



「ちょっと、起きて。もう出る時間」

「え?……あ、あぁ。分かった」

「あの子たち待ってるから、早くしてね」

「……」

「……どうしたの?」

「……夢を見たよ」

「え?」

「……あの頃の夢」

「?……あぁ、あの頃のね」

「懐かしいなぁ、最初にここに来た時」

「……そうだね。あれからもう5年かぁ……」

「あん時さ、何で俺の言葉にすぐ頷いたの?……前から惚れてたから?」

「何言ってんの。……ん~、もう覚えてないな」

「そんな訳ないだろ。なんでだよ」

「ほら!早く支度して!お爺ちゃんにお土産買わないといけないんだから!」

「ぉ、おい」


あの時の理由を俺は一度聞いておきたかったのだが、忙しかったせいもあって、妻にはうまくはぐらかされてしまった。

まさか本当に覚えてないとか……?いやまさか。でもあいつに限って……いやまさか。

人を散々急かせておいて、自分は忘れ物したとか言って家に戻ってるし。


「お待たせーっ」

「おい、遅いぞ……って、それ……まぁいいか」


仕方ない。今回はうまくはぐらかされることにしよう。


「……5年経っても、まだ似合ってるな」


妻が着替えてきたのは、あの時のワンピースだった。

さて。じゃあ子供たちを迎えに行く前に、二人であの場所へ寄ってくことにするか。

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