star mine.
【star mine.】
やっぱり花火はだだっ広い所に限るな。
縁側にテーブルを広げて、近所のみんなでワイワイと飲みながら見物するのだ。
つまみは今日の畑の収穫。冷えたキュウリとトマトを生で食うのがうまいんだまたこれが……。
ちょうど畑ではスイカが採れた所だったので、浴衣を着てスイカの種を飛ばしながら花火を見ていると、やっと夏の夜が満喫できたような気がしてくる。
自分でフルーツ作るのって、何か凄く贅沢な気がするよな。
子供たちもブルーベリージュースを飲んで御機嫌だ。……ちなみに俺も、自家製果実酒を飲んで御機嫌真っ最中だった。
ドン……ドンパン……ヒュ~ッ……パーン……
花火ってのは、火を扱うようになった人間の最大の発明だな。
そんなことを考えながら、ほろ酔う。
真雲が花火が開くのと同時に飛び跳ねているのが微笑ましい。
……打ち上げ花火を見終わった後は、今度は手持ち花火の番だ。
振り回してはしゃぐ子供たちをほっといて、一人飲みながら、なんかこー線香花火っぽい燃え方をする奴の研究をする。
「むぅ、何だこの芸術品は……」
「ちょっと~、あの子達注意してよ。危ないから」
妻が追加の氷を持ってきながら俺に言う。
……何気にこういう気が利く所がいい女なんだよな~。
見てないようでちゃんと見てますよって合図なんだ。
「ちょっと、そんなお世辞はいいから。あの子たち連れてきてよ」
あら、口に出てたか。割と酔ってるっぽいな俺。
「いーんだよ。ほっとけほっとけ。火傷でもしたら懲りるだろ。それより見ろよ、この火花の細かさ。すげえよな……」
「もぉ~……」
呆れたようにため息をついて、妻は行ってしまう。
……こうなってしまった時の俺は、全く頼りにならないことを知っているのだろう。
そうこうしていると、男二人がやってきた。
今日のイベントの立役者、花火師の源さんと半農半花火師というレアな職業のツバサ君だ。
「おお、お疲れ~」
「お疲れ様です。ビールでいいですか?」
「ああ、いいよいいよ。適当に飲むから。……あ~あちぃあちぃ」
二人は近所に住んでいるので、終わった後はうちに合流することになっていたのだ。
そして今年の花火の出来などの話に花が咲く。
「今回は結構キャラクター物の奴が多かったですね」
「……ふん、あんなの花火じゃねえよ」
「おやっさん、でもやって欲しいって人がいるんだからさ~」
「おい、坊主いいか?……俺たちゃ空に花咲かせてんだよ。どこにドラえもんが咲く花があるってんだ」
「……はぁ~、そんなこと言ってるからみんなから煙たがられんですよ」
「うるせっ!煙たがられてねえ!」
酒が入ったのをいいことに、師匠と弟子で言い合いが始まる。
まあ二人をよく知ってる俺たちからしたら、いつものことだ。
「あー始まった」
*
最後の手持ち花火が消えて、一瞬辺りが暗くなる。
みんなでいるとたまにある、あの例の一瞬だけ訪れる、ふとした静けさが俺達の間を通り過ぎた。
「あ」
最初に口を開いたのは木春だった。
「……花火!」
みんなその声につられて、空を見上げる。
……が、どこにも花火なんて上がっていない。
でも木春の見上げている先を見て、段々とこの子が何を見ているのか分かってきた。
「わはっ、さすがだな。嬢ちゃん。星が花火ってか」
木春は、夜空に浮かぶ星を見て、花火と言っていたのだ。
……空一面に浮かぶ、満天の花火。
いつまでも消えない。
「そんじゃあ俺たちは、さしずめ星職人ってことですかね?」
「おっ、おめえも洒落たこと言うな。わっはっは」
「……何あれ。もう仲直りしちゃってるよ」
「いーんだよ。ほっとけほっとけ」
「何か今日は良く飲むわね~。大丈夫?」
「いいんだよ。俺はうまい肴でうまい酒が飲めれば何だって。……花火だろうが星だろうがね」
いつものように、夏の夜の涼しい風が俺たちの間を通り抜けていく。
遠くから、花火の残り音が聞こえたような気がした。




