making forests.
【making forests.】
うちでは子供の森と畑がある。
畑ではもちろん自分で作物を育てさせるのだが、森に関しては自由だ。
森とは言っても、何haも任せられるわけではないので、年齢に応じた広さということにしてある。
現在、5歳の木春は5㎡。3歳の真雲は3㎡だ。……まあ砂場の延長上みたいな物だろうか。
じゃあ35歳の俺は35㎡なのかというとそれはまた別で、一応裏山全てを管理する必要があるのだった。
子供たちにずるいと言われたら、「お前達も大人になってきちんと森が管理できるようになったら、もっと広い森がもらえるから」とか言ってある。
おのれ、こちらの苦労も知らずにいい気なもんだ……。
まあそんなわけで、子供たちはお気楽に割り当てられた自分の森庭に好き勝手に植物を植えたり、お気に入りの石や人形を飾ったりしてある。
意外と前に木春にせがまれて植えたリンゴが、思いのほか順調に育ったりしていて、親的にも楽しみだったり。
この辺には本人たちのセンスが出るので、その辺りも割りと楽しみだ。
さすがにまだ趣のある枯山水なんかは分からないようで、木春の場合は敷地のど真ん中にシンボルツリーとなるリンゴの木が幅をきかせて植わっている。
真雲のは……とても表現できないな。
……あとはまあ、その辺で見つけた雑草がほとんどだ。子供というのはおもしろい物で、大人が綺麗だと思う花よりも、ちょっと変な物とかを好む傾向がある。結局の所、そういうのが各自の好みって事になるのだろう。
敷地からはみ出たエノコログサを抜かされる身としてはたまったもんじゃないんだが……。
というわけで今日は、大学の先輩夫婦が遊びに来ている。
木春より少し上の、風太君という男の子も一緒だ。
大人たちが適当にくつろぎながら子供たちを見ていると、早速木春は自分の森へ風太君を連れていった。
どことなく自慢げににやにやしている所がまたかわいい。
いつもは俺から色々と注意されているのを真似して、風太君に対しても先生ぶって注意する木春。
「ダメだよ!ヤマカガシがいるから!」
「なにそれ~」
「ヘビだよヘビ!ドクあるんだからね!ダメだよ!」
いつもは真雲に対して言っていることを、今回は自分より年上の男の子に言えることがちょっと嬉しいようだ。
小屋から自分の長靴を持って来て風太君に履かせている。
あとから真雲も続いて木春の森へ探検に出掛けて行った。
「いい?これがリンゴのリンちゃんでしょ?でこっちがサンショウのれーこさん。それからこれが父ちゃん草たちでしょ……」
一生懸命に説明をする木春。いつもながらそのネーミングセンスにはキラリと光るモノを感じさせる。
ちなみにれーこさんとは、ママの友達でいつもいい匂いをさせているかららしい。木春はサンショウの匂いが気に入って植えているようだった。
そして父ちゃん草とは例のエノコログサのこと。なんでもヒゲもじゃだかららしい。そんなに濃くないと思うんだけどな……。
というように頑張って話していた木春だったが、肝心の風太君は全く聞いちゃいない。
「ほぁ!」
「おぉ~すごい~!」
男二人は真雲が捕まえてきたカエルを見て、勝手に盛り上がっていた。置き去りにされている木春。
あ~あ~、しかも綺麗に積んであった石まで壊して……。
「もぅダメーッ!はーちゃんのお城なんだから!壊さないで!」
「あっ、そっちいったそっち!」
「まてまて~」
相変わらず木春の言うことも聞かず、逃げたカエルを追いかける男二人。
……あ~、そろそろやばいかな……。
「ダメって言ってるのに!もう聞いてよ~……ぅ……わぁ~ん!」
あ、泣いた。
「うぁ~んうぇ~んうぅ~っ……ふぎっ」
「よしよし、分かった分かった。おいお前ら、ここは木春の場所だからな。向こうのマサの所行って遊べ」
もはや手遅れだったが、大人が割って入り、男どもを外へ出させる。そして大泣きする木春を抱っこして戻ってくる。
こいつに心の広さを教えてやるのはまた夜にするとして、とりあえずは泣きやませるか。
「ほら、木春。シュークリームおみやげにもらったから。食べるか?」
「ぅ……たたっ……たべっるっ……ック」
泣きしゃっくりを繰り返しながらも、シュークリームをほお張る木春。食べていくうちに段々と泣き止んできたようだ。
子供は簡単に感情が切り替えれるからな。そこがまたかわいい。
そうしていると、男二人もこのお土産に気が付いたようでこっちへ走りよってきた。
う~んまさに動物そのもの。
「「シュークリーム!」」
「おいおい、ちゃんとお前らの分もあるから、先に手洗ってこい」
「「は~い!」」
元気よく返事をして駆けていく二人。
そしてこの後、シュークリームを落として泣く真雲に、自分のをちょっと分けてあげる木春を見て、今日の夜に行われる予定だった「心の広さ」の授業は急遽休講にすることにしたのだった。