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solaの風景  作者: 安楽樹
16/17

star mineⅡ.

BGM:『Bank Band/若者のすべて』


(真雲32歳編)

【star mineⅡ.】


真夏のピークが去った。

夕方六時のチャイムが鳴れば、もう辺りは涼しい風が吹く頃だ。

僕は、Tシャツとハーフパンツというラフな格好で祭りに来ていた。


ドパッ……パーンッ!


体の芯が痺れるような音が鳴り響き、思わず身をすくませる。


……そうか、ここはこれが標準だったな。


尺玉が上がるのは、だだっ広いここらならではだ。

もう都心では、これほどの大きさの花火はどこへ行っても見られない。

真上にまで首をかしげて花火を見上げると、立ち止まってしばらく眺め続ける。


薄暗闇に包まれる公園には、どこにこんな人がいたのかというほどの人々が埋め尽くしていた。

家族連れや、カップル、そして小中学生たち。

独特の雰囲気の中を、イカ焼きを買って齧りながら、人込みをぬって歩いていく。


……あれ?


ふとすれ違った人が同級生だったような気がして、振り返ってしまう。

……あ、違ったか。やっぱり。


思い出すのは、初めて友達と一緒に子供たちだけで祭りに遊びに行った時の事だ。

クラスに気になる子がいて、その子が行くという話を聞きつけて、無理やり友達を誘ってこの公園へと出かけたのだ。

話しかけてくる友達の話題なんて気もそぞろに、チラチラとあの子がいないかと辺りを見回していたっけ。


そして見つけた浴衣姿の彼女。

学校では見られない、結い上げた髪にドキドキしていた。

まだ地元にいるって聞いたような気がするから、もしかすると今日、来てるかもな……。


いるかな……?

いないよな……きっと……いないよな……。


「誰か探してるの?」


妻に呼ばれて振り返る。


「いや、知り合いがいるかもと思って」


大人になった僕は、地元を出て都心で出版社に勤め始めたため、ここに戻って来られるのはせいぜいお盆と年末の二回だけだ。

今はこじゃれた自宅兼カフェを建てた父と母は、この時間も家でこの花火を見ていることだろう。

今でもあの花火師の人たちは来てるのかな……。


ふと、子供の頃に毎年見ていた家での花火大会のことを思い出す。

家族揃って見ていたあの頃の花火大会が、今でもずっと続いていることが嬉しい。

少しずつ何かが変わっても、変わらずにあるものがあること。


……今はどこの国をほっつき歩いているのか分からない姉がここにいたら、何て言っただろうか?


すっかり花火の音にも慣れ、少し感傷的になって昔のことを思い出す。

妻も、それに気付いているのか、特に話しかけても来ずにじっと花火を見上げていた。

僕も花火を見上げたまま、小さく呟く。


「最後の花火に今年もなったな……」

「……そうだね……」


(何年経っても思い出してしまうな……)


年を重ねるごとに、幼かったあの頃の思い出が凝縮されて、段々と色を増していく。

変わらない景色と同調して、変わらない思い出が映し出される。


……気が付いたら。

そのうち、仕事を辞めてこっちに来るのいいかもしれない……と思っていた。

きっと妻も賛成してくれるに違いない。


天の星は全て僕の物だと思っていたあの頃。

それはきっと、気が付かないだけで今でもそうなんだろう。


……最後に大きな音と共に、夜空一杯に星が広がって……そして消えていった。


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