sunset cicada.
BGM:ヒグラシの声
【sunset cicada.】
カナカナカナカナ……
なんて、どうやっても聞こえないけどな。
昔の人は、なんて感受性が豊かだったんだろうか。
俺にはどうやってもこういう風にしか聞こえない。
リリリリリリリリ……
畳の上に寝転ぶのが気持ち良すぎる。
一般的には、ヒグラシは秋が近づいた頃に鳴くと思われているが、実は気温に反応しているようなので、ここでは夏の始めから、夕暮れが近づくと鳴き始めるのだ。
リリリリリリリリ……
この声を聞くと、「この季節が来た!」って感じがするな。
何故かヒグラシの鳴き声は、時間が止まったような錯覚を起こさせる。
そのせいなのか、お昼に素麺を食べた木春は、縁側に座布団を敷いて既に昼寝の体勢だ。
後でタオルケットでも掛けてやるか。
そんなことを考えながら、俺も眠くなってくる。
この時期は、朝早いせいで昼寝の時間が必要なのだ。
日中は暑くて活動できない、という理由もある。
なので早々にお昼を食べて、ごろんと横になって庭を見る。
代わり映えのない風景。季節と共に移りゆく緑。
風さえ通ればかなり涼しい、というのがこの地域の最高に贅沢な部分だ。
湿度も低いので、日陰に入るだけで十分過ごしやすい。
なので、ひんやりと冷たい畳に寝転びながら、ぼんやりヒグラシの声を聞いている。
リリリリリリリリ……
この声を聞くと、夏が終わるような気がしてしまうのは、都会にいた頃の名残だろうか。
……キリリリーン……
風鈴が揺れた。
チラリと見ると、まだのんびり素麺を食べ続けている真雲も、手にフォークを持ちながらウトウトと目が半開きだ。
……危ねえな、フォークを回収しないと……と思いながらも、俺ももう半目状態だった。
あぁ、夏の縁側という楽園よ。
お前はなんて罪な天国を作るのだ……。
この幸福感には、誰も勝てやしない。
いつもなら、とっとと俺より早くフォークを取り上げるであろう妻が静かなのが気になって、再びチラリと目をやると案の定、真雲に釣られたのか妻も珍しくウトウトしている。
……おい、起きろって。
そんな声を掛けたような気がしたのは、どうやら既に夢の中だったようだ。
リリリリリリリリ……
誰も言葉を発さない、真昼の夕暮れ。
辺りには、ただヒグラシの鳴き声だけが時を刻んでいたのだった……zzz