Marry white X'mas!
【Marry white X'mas!】
年末が近づいた頃、初めてのまとまった雪が降った。
ここでは冬には土が凍ってしまって畑はできないため、もうこの頃には農閑期だ。
なので、俺はボードウェアに着替えると、昼間っから子供たちを連れて表に出る。
「おおっ、真っ白だ!」
「ホントだ、真っ白~っ!」
さすが、だだっ広い所に来た甲斐があった。
見渡す限り真っ白の視界は、いつも暮らしてる町じゃないような幻想的な雰囲気になっていた。
音を吸い込んだ雪が、俺たちのこだまも吸い込んで消えていく。
「いちばんのりぃ!」
「まぁも!まぁも!」
感傷的な俺のことなど全くお構いなしに、ガキどもは走っていき……そしてコケる。
でも痛くないので、転んでも大笑いだ。
その笑い声に、感傷もどこかへ吹き飛ばされてしまった俺は、やれやれ……とため息を吐きながらその後に続く。
「おい、溝に落ちるなよ!」
去年、木春が落ちて大泣きしたことを思い出しながら、新雪に足跡を付けて遊ぶ子供たちに注意する。
本人もその事を思い出したのか、畑の広い方に行って遊び始めるのを確かめると、俺は田んぼの土手に登った。
そして一息吸い込むと。
「……ひゃっほうっ!」
そのままスノーボードで土手を滑り降りた。
子供たちに負けないぐらいの歓声を挙げながら、一際高い土手から滑走し、田んぼの中までランディング。
……そう、冬の田んぼはミニスキー場だった。
夏の間は、ただひたすらに厄介なだけの高い土手も、冬になったら一気に遊び場に変わるのだ。
そしてようやく外に出てきた冷え性の妻も合流し、再び降り出した雪の中、家族みんなでソリ遊び。
「危ない危ない危な……うわぁ~っ」
「わぁ~!」
「わ~!」
わざとソリを倒して、三人で土手を転がり落ちる。
水分の少ない新雪は、封を開けた砂糖のようにサラサラだ。
顔中真っ白になって、鼻水を垂らした顔を見合わせては笑いあった。
やっぱり冬は寒くないと、なんだか物足りないな……とこんな時だけは思う。
*
遊び疲れた大人たちがウッドデッキで休憩する横で、子供たちは疲れを知らないように遊び続けている。
「もう年末か……」
「いい浮気相手が見つかるといいね~」
ふと漏らした呟きに、妻が意地悪い笑みを浮かべて答えてきた。
……それに対して何とも言えず、俺は手にしたコーヒーをすする。
年が明けてから、俺は春まで出稼ぎに出かけるのだ。
まだ、冬の間をのんびり過ごせるほどの稼ぎは無い。
この家も、元の持ち主の方からは好意で安くしてもらっているものの、できるだけ早く買い取れるようにしたかった。
なので協議の結果、土が凍って畑ができない1~2月の間は、俺だけでも働きに出ることにしたのだった。
今年は西表島。
この時期になると妻も淋しいのか、珍しく嫌がらせをしてくるようになる。
まあ気持ちは分かるので、何だかんだと宥めるしかないのだが……。
でも、このぐらいなら今年はまだいいほうだ。
2年目の時なんて……思い出したくも無い。
「やだよ~父ちゃんいっちゃやだ~っ!!!」
出稼ぎの話をしているのが分かったのか、気付いた木春が駆け寄ってきて、駄々をこね始めた。
真雲はまだ分かっていないようだ。
急に騒ぎ出した姉の様子を見て、キョトンとしている。
「またすぐ帰ってくるから。母ちゃんのこと手伝ってやるんだぞ?」
「やだ~……やだ~」
聞き分けなく、服を掴んで駄々をこね続ける木春。
……こういう時、大人は何と言うのが正解なんだろうか。
気持ちは嬉しいだけに、俺は困って頭をかくばかりだ。
その様子を見た妻が、仕方ないという風にため息を吐くと、代わりに助け舟を出してくれた。
「ほら、帰ってケーキ食べよ」
「あ、そういえば今日クリスマスか」
「……クィスマス?」
知らない単語を聞き、不思議そうに真雲が繰り返す。
ケーキと聞いて、ようやく服を放してくれた木春が得意そうにクリスマスを説明しようとして……止まる。
ちょっと小首を傾げると、俺に向かって聞いてきた。
「ねぇ父ちゃん。……クリスマスって一体何の日なの?」
「ああ、クリスマスか……。クリスマスっていうのはな……」
まだちらほらと降り続く粉雪を見ながら、ふと遠い春のことを思い描く。
……今年はあと何回、雪が見れるかな。
子供たちの頭をぽんと叩くと、俺は家の方へと歩き出す。
その途中で、後ろを振り返って答えた。
「みんなが一番、冬に感謝する日さ」