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solaの風景  作者: 安楽樹
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digging potatos.

理想の暮らしの断片。


【digging potatos.】


すっかり6時間睡眠が習慣になった。

いくら前の日に肉体労働をしていても、次の日にはスッキリ目覚められるのは、この場所に来たおかげだろうか。

隣で眠る子供たちを起こさないようにして、布団から出る。

いつものように、布団からはみ出して寝ている二人の子供を元通りに整頓して、上に布団を掛けてやる。

子供たちが寝た後と、起きるまでの少しの時間が俺の自由時間だった。


昨日のうちにあらすじだけ書いておいた活動報告を清書し、ネットに更新すると、そろそろいい時間になってくる。

窓からは大分明るくなった朝日が差し込み、鳥たちのお喋りにも熱が入ってきていた。

朝ご飯の用意をする時間だ。

子供たちを起こしに行く。


「ほら、起きろ。朝のお仕事の時間だぞ。」


5歳になる長女の木春こはると、3歳の長男真雲まさくも

まだまだ眠そうだったが、今日の仕事のことをちゃんと覚えていたらしく、むにゃむにゃと寝ぼけながらも木春は真雲の面倒を見て身支度をする。よしよし、昨日あらかじめ言っておいた甲斐があったな。


子供たちが着替えている間、俺は納屋へ行き、今日の朝のお仕事の準備をするのだった。


「みんな整列!」

「はいっ!」

「今日は、ジャガイモ掘り大会をやります。おーっ!」

「いぇーい!」

「ぇーい!」


どうも遊びになると真面目っぽくやりたくなってしまうのは、俺の昔からの癖だ。

朝日を浴びながら畑に出るのは本当に気持ちがいい。

昼頃には大分暑くなりそうだったが、今ぐらいならちょうど涼しいぐらいだ。畑のジャガイモが掘り時だったので、我が家では毎年恒例のジャガイモ掘り大会をすることが今日のお仕事なのだった。


一人で全部掘るにはかなりしんどいので、猫の手よりはましだと子供たちにも手伝わせようというのが事の発端だ。

もう一つの理由としては、朝ご飯の材料調達はお母さん以外の役目なのである。


妻の○○(あなたの名前を入れてください)は、例によって昨日遅くまで何かを作っていたらしい。

工房を見ると、作りかけの何かが置きっぱなしになっていた。

一体何時に寝たのかは分からないが、子供たちが横で着替えている時にもぐっすりと寝ており、全く起きる様子はなかったことから、そこそこの時間まで起きていたに違いない。

……これは今回の作品には期待が持てそうだな。

律儀に毎回俺と子供たち三人分を作ってくれるのは、さすがとしか言いようがない。


まあそんなわけで、俺たちが食材を調達する間までが彼女の睡眠時間。

共働きの我が家では、それぐらいは許される範囲だ。

一方ジャガイモ掘り部隊は、それぞれに自分専用の武器を装備して畑へと向かうのだった。

もちろん縦一列に整列してだ。


ジャガイモ掘り大会とは、果てしなく植わっているジャガイモたちの中から、これだと思うものを選んで掘り出し、最も大きいジャガイモを掘り当てた人がチャンピオンとなる。

そんなタモリンピック的な日常のイベントのうちの一つだ。


これで優勝した人は、本日のデザートが少し多めになるという、正に一日のやる気の源となる重要なイベントなのである。


「はーちゃんこれ!」


早速木春が目ぼしいものを選んだようだ。そしてそのままスコップで掘り始める。

決断力も行動力もあるのは、長女の資質なのだろうか?

なんにせよ、勢いがいいのはいいがイモまで真っ二つにしないでくれよ……?

そんな事を思いながらも、俺も自分のブツを選ぶことにする。


「決まったか木春。父ちゃんはどれにしようかな~?」


なかなか難しいのは、必ずしも地上部の大きさと比例するわけではなく、種芋がどれだけの栄養を小芋に分けているかという部分は経験と勘でしか分からない。

もちろん地上部が弱々しいのはそれなりの物でしかないのだが、大きいのとなるとまた難しい。

初心者の域を出ない俺には、まだそれほどの勘は身に付いていなかった。


適当なものに目星を付けて掘ると、既に収穫を終えた木春がにんまりとした顔で走り寄ってくる。


「へっへっへ~。父ちゃん掘れた~?」

「お、自信ありそうだな木春。父ちゃんも負けねーぞ。」


掘り出した芋は、予想に反して小粒ばかり。こりゃ形勢不利か……?

と思ったその時。最後に残っていた芋がその巨体をついに表した!


「ほら見ろ、木春!」

「おおーっ、やるな父ちゃん。」


出てきた芋は、木春が持ってきた中で一番大きいのと同じサイズぐらいだ。

これは重さを量ってみるまで勝負は分からんぞ……?

そう思っていると。


「こえ、こえ。」


アリの行列をずっとじっと眺めていた真雲が、ようやく混ぜて欲しいとばかりに自分の決めた株を指差していた。

どうやらこっちの盛り上がりを見て気になったらしい。


「マーちゃん見てみて。はーちゃんのこんなおっきいーよ。」

「おぉ、おっきいー。」


そう言って二人して、大きい芋を頭上に掲げてぐるぐる回りながら、意味がよく分からない踊りを踊っている。

俺も一緒に踊れと促されたので、ちょっとだけ付き合って踊ってやった。

ジャガイモを頭上に掲げて、収穫ダンスを踊る親子三人。


ともかく、収穫が嬉しいことだというのは分かってくれているようなので良かったかな。


「マサ、決まったか?……どれ。」


そう言うと、真雲は駆けていって指差していた株の側にスコップを入れる。

もちろん真雲一人では掘り切れないので、木春と二人で手伝って掘ってやることに。

例によって、まだ見た目ではどうだか分からない。


……ん、この手応えは……?


「うおっ!でかい!」

「マーちゃんのお芋、おっきーい!」


出てきた芋は、大げさに言うと真雲の頭ぐらいに大きかった。

戻って計量をしてみても、結局今日の勝負は真雲の勝ちだった。



「ありがとね、マーちゃん。」


妻はそう言ってイチゴを一つ口の中へ放り込む。

真雲が勝った場合は、同時に妻にもその優勝商品を手にする権利が与えられるのだ。

ちくしょう、真っ赤に熟れたイチゴが山から減っていくのを、俺と木春は文字通り指をくわえて見ていることしかできなかった……。


「はい、あーん。」


そんな二人を見かねて、妻は一つずつイチゴを分けてくれる。


「ママありがとう!」

「ママ大好き!」

「ママ綺麗!」

「ママセレブ!」

「ママロハス!」


隙あらば一つでも多く獲得しようと、二人で妻を褒め称える。……ナイスだ、木春よ。

このスウィィィトなイチゴが食べられるのであれば、悪魔に魂を売ったって構わないぜぇぇぇ。

おべっかの一つや二つ、幾らでも言ってやるさ。


「はいはい、分かったから。もう一個だけね。」


妻の機嫌も上々の様だった。


うちはいつも、朝食は軽く済ませるのが常だ。

さっきの大会で採ったジャガイモを子供たちが台所へ持っていき、ついでに妻を起こす。

妻と子供たちでジャガイモを茹でて朝食を作っている間に、俺は残りの果てしないジャガイモを一つ一つ掘っていくのだ。


それが梅雨入り前の、うちのいつもの風景だった。

そしてその風景に、赤いイチゴは常に欠かせないのだ。

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