向日葵
安宿の『娯楽部屋』には窓が無い
外は今日は晴れていて、街は楽しさに胸をいっぱいにした人達で溢れかえって居るのだという
座った姿勢で、向かい合って抱かれて居る
親が赤児でも慈しむ様な姿勢だ
現実にはこの男は、自分の腕の中で僕が小さな躰を苦悶に震わせるのを、喜んで居る
そのため、わざと出血が増える突き方をする
それならまだ優しい方で、行為の最中に僕を窒息させて遊ぶ事もある
だが、それは別に良い
この男は金払いが良かった
「お前、こんな事ばかりやってると死ぬぞ」
欲のままに僕を苛んでおきながら、行為のあとに男はこうした言葉をかける事が多い
口答えはしない
強い言葉は男の加虐心を誘い、疲れ切った僕の躰を弄ぼうという気持ちを起こさせてしまうからだ
過去に経験があるが、もうあんなのは嫌だ
本当に死ぬとしてもそうでないとしても、金を積まれても二度と体験したいと思わなかった
「お前」
「なんで、あんなに俺から薬を買ってるのに、頭がちゃんとしてやがるんだ」
ただ聞けば良いだけの事なのに、男は嘲るように僕の頬を平手で打つ事を忘れない
『ベッド』とは名ばかりの、俎板の様な台の上に叩かれて倒れながら、僕は「それは」「言えません」と答えた
暴力が始まる
男は、僕の顔に傷を残した場合『宿の主』から制裁を受ける事を知っている
だから、僕は『それ以外総て』を殴られる
満足し終えると男は多めに金を支払い、僕に『薬』を渡した
「まあいいや」
「話したくないなら、こういう遊びも出来るしな」
「大方、親に薬をせびられてるとかだろ」と言うと、男は僕に興味を失い、安宿の一室を後にした
─────
幸運な事に今日も、僕が帰宅しても君の酩酊は続いて居た
君は唾液をあちこちに垂れ流しながら座って、それがとても愉しいものであるかの様に真っ白な壁を視詰めて居る
念の為、両手首と足首を麻縄で拘束しては居るが、きっと今の君には、縄の解き方など皆目解らないに違いなかった
……にも関わらず
君はそんな状態になってもなお、僕の姿が視えると嫌悪を隠さない
一日の中で唯一、そして一番、心臓が錐で刺したように痛む時間だった
用意した食事に薬を混ぜ込んで、差し出す
終わらなく、毎日繰り返されている地獄
君は破壊された理性の中であっても、食事を拒み続ける
しかし最後には飢えの中で、死を感じ始める
精神が拒んだものを、肉体は食み続ける
慟哭が聴こえる
僕はいつも泣けば良いのか、嗤えば良いのか解らずに居る
慟哭が聴こえる
僕は、はじめはこんな事をしたかった訳では無い
いま、ようやく僕は気が付いた
慟哭は総て、僕の声だった
泣きながら、恐る恐る君の拘束を外す
君はふらふらと立ち上がり、意識があるかも解らないような姿で、この部屋から逃れようと歩き始める
僕は「待って」と声を掛ける
君は首だけで軽く振り向くと、僕を一瞥した
シャツをはだけ、その下の躰を君に視せる
噛み傷と打撲痕だらけになった、白く骨の浮いた躰を
「これ……」
「君と生きたくて、お金を稼ぐ為に負った傷で………」
なんで、恩を着せようとして居るのだろう
そもそもこんな話で、恩が着せれる訳が無い
君は、気持ちの悪い化け物を視たような表情を一瞬視せたあと、よろめきながらこの部屋を去っていった
「助けて………」
「誰か、助けてよ………」
扉が閉じれば、この部屋には光が差さない
安宿の娯楽部屋と同じだった




