表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《裏垢魔法少女》ミッドナイト・ヴェノム  作者: リコリスト
第1章 偽善者の日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/12

第4話 翌朝 —— 侵食の始まり

《火曜日・朝》


翌朝。

目覚ましが鳴る前に、目が覚めた。

時刻は6時15分。

私は身体を起こし、スマホを手に取った。


《現在のフォロワー:82,194人》


寝ている間に、さらに1,351人増えていた。

通知欄は、真っ赤に染まっている。

私の投稿が、トレンド入りしていた。

そして、それがネットニュースにも取り上げられていた。


『「感謝の連鎖」キャンペーンに物申す! 匿名アカウント「ミッドナイト・ヴェノム」の辛口投稿が話題』


「……マジかよ」


私は思わず呟いた。

ネットニュースに取り上げられるなんて、予想外だ。

嬉しいのか、怖いのか。

両方だ。

承認欲求は満たされる。

けれど、同時に、注目されすぎることへの恐怖もある。

注目されればされるほど、特定されるリスクも高まる。



学校に到着し、教室へと向かう廊下で、何人かの生徒たちが話しているのが聞こえた。


「ねえ、これ見た?」

「あー、ミッドナイト・ヴェノム?」

「そうそう! めっちゃバズってるよね」


足が、一瞬だけ止まった。

けれど、すぐに歩き出す。平然を装う。


——話題になってる。


私が昨夜、暗い部屋で打ち込んだ「毒」が、今、この教室で話題になっている。


「おはよ、凪ちゃん」


不意に、背後から声をかけられた。

振り返ると、水瀬優莉が立っていた。

いつも通りの完璧な笑顔。

けれど——やはり、目の下にうっすらとクマがある。

昨日よりも濃くなっている気がする。


「みんな、あの『裏垢』の話で持ちきりだね。凪ちゃんも見た?」


優莉はスマホの画面を私に見せてくる。

そこには、私の投稿が表示されていた。


「……ううん、まだ見てないかも。流行ってるの?」


とぼける。

心拍数が上がる。

掌にじわりと汗が滲む。


「私、こういう匿名の陰口みたいなの、好きじゃないな」


彼女はフッと冷笑的な色を瞳に浮かべた。

そして、すぐにまた甘い笑顔に戻る。


「言いたいことがあるなら、堂々と表で言えばいいのにね。……そう思わない、凪ちゃん?」


試されている。

そう直感した。


「……そうだね。人を傷つけるような言葉は、良くないよね」


私は優等生の仮面を必死に支えながら、同意した。

自分の投稿を、自分で否定する。


優莉は「だよねー!」と明るく頷いた。


「やっぱり凪ちゃんは、ちゃんとしてるよね」


そう言って、彼女は自分の席へと戻っていく。


——勘が鋭い。


優莉は、私が思っている以上に観察力がある。

けれど——あいつの目の下のクマ。

あの疲れた表情。

何か、良くないことが起きている気がする。

ホームルームのチャイムが鳴り、担任教師が教室に入ってきた。

いつもの朝。

いつもの教室。

いつもの授業。

けれど、今日は何かが違う。

私の投稿が、この教室の中で話題になっている。

私の本音が、誰にも気づかれずに、この空間を侵食している。

それは、恐ろしくて——でも、少しだけ、心地良かった。


《現在のフォロワー:85,721人》


10万人まで、あと14,279人。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ