第3話 深夜 —— 不気味な観察者
ダイニングテーブルには、既に料理が並んでいた。肉じゃが、味噌汁、サラダ、ご飯。
父は既に席に着いていて、スマホでニュースを見ている。
向かいには、弟の奏太が座っている。
中学2年生の彼は、ゲーム好きでマイペースだが、時折妙に鋭いことを言う。
「いただきます」
4人で声を揃えて言う。
「凪、今日は生徒会で遅かったの?」
母が尋ねた。
「うん、資料作成があって」
「そう。大変ね。でも、そういう経験はあなたのためになるわ」
また「あなたのため」。
「姉ちゃん」
奏太が口を開いた。
「ん?」
「その……最近、スマホ見すぎじゃね?」
ドキリとした。心臓が一瞬、強く跳ねる。
「え、そうかな?」
「飯食ってる時も、なんかスマホ気にしてるし。さっきも部屋から降りてくる時、ずっと画面見てたじゃん」
奏太の目は、真っ直ぐに私を見ている。観察している目だ。
——ヤバい。気づかれてる?
「生徒会の連絡が多くて。あと、友達ともやり取りしてるし」
「ふーん。……まあ、いいけど」
奏太はそれ以上追求せず、味噌汁をすすった。けれど、その目は——
「あんま無理すんなよ」
小さく、けれど確かに、そう言った。その声には、心配の色が混じっていた。
私は少しだけ、胸が痛くなった。
奏太は、私の唯一の理解者かもしれない。
彼は私を完全には理解していない。
けれど、私が「無理をしている」ことには気づいている。
「うん、ありがと」
私は小さく答えた。
宿題を終え、風呂に入り、髪を乾かす。
時計を見ると、22時を過ぎていた。
ベッドに入り、部屋の電気を消す。
暗闘の中、再びスマホを手に取った。
《現在のフォロワー:80,843人》
また増えている。夕方から夜にかけて、さらに700人以上のフォロワーが増えた。
このペースなら、10万人到達も近い。
あと2万人弱。
10万人。
その数字は、私にとって何を意味するのだろうか。
タイムラインを見ていると、一つの通知が届いた。
《通知:@truth_seeker さんがあなたをフォローしました》
見慣れないアカウント名だ。
@truth_seeker。
真実を求める者、という意味だろうか。
プロフィールを開く。
フォロワー:0 フォロー:1 投稿:0
空っぽのアカウント。
作られたばかりのアカウントだ。
そのアカウントの「フォロー:1」の部分が気になった。
タップすると、フォローしているのは私だけだった。
——私だけをフォローするために、作られたアカウント?
不気味だ。背筋に、冷たいものが走った。
——と、その時。
《@truth_seeker があなたの投稿にいいねしました》
《@truth_seeker からのリプライ》
リプライが届いている。
私はそれをタップした。
「君は、何と戦っているのか。外側の敵か。内側の敵か。それとも、君自身か」
「……は?」
思わず声が出た。
何だこれ。
ポエマー? それとも、ただの厨二病?
けれど、その言葉は——妙に、心に引っかかった。
私は何と戦っているのか。
外側の敵? それは、偽善者たちのことか。
内側の敵? それは、私の中にある承認欲求のことか。
それとも、君自身? それは——自分で自分を許せないでいる、私自身のことか。
「……うるせぇ」
小さく呟いた。
知ったような口を利くな。
お前に何が分かる。
私はスマホを充電器に繋ぎ、枕元に置いた。
布団を頭まで被る。
けれど、眠れない。
@truth_seekerの言葉が、頭の中をぐるぐると回り続けている。




