表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《裏垢魔法少女》ミッドナイト・ヴェノム  作者: リコリスト
第4章 仮面の下の共犯者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/12

第12話 観察者の視線

《日曜日・昼》


土曜日の夜、商店街で優莉と偶然出会ってから、一日が経った。

私は自室のベッドに横たわり、天井を見つめていた。

昨日、ルミエが感知した警告が頭から離れない。


『水瀬優莉。初期段階のメンタルモンスター、幼体が形成されつつあります』


優莉の中に、モンスターの種が芽吹き始めている。

そして、@truth_seekerの予言。


「次に壊れるのは、君か。それとも、君の『鏡』か」

「君が最も恐れるものに、なる」


——優莉が、モンスターになる?


あの完璧な笑顔の裏で、彼女は何を抱えているのか。

スマホを手に取る。


《現在のフォロワー:94,800人》


昨日から約450人減。

自然減だ。

更新頻度が落ちているから、仕方ない。

けれど、今はそれどころじゃない。


《ピロン♪》


DMの通知。

送信者は——水瀬優莉。


「凪ちゃん、昨日はごめんね。なんか変な顔してたでしょ、私」

「今度ちゃんと話したいな。来週、時間ある?」


私は画面を見つめた。

彼女は、何かを話したがっている。

昨日の商店街で見た、あの表情。

能面のような無表情の奥にあった、絶望と焦燥。

あれは、限界寸前の人間の顔だった。

私は、返信を打った。


「大丈夫だよ。私こそ、声かけてごめんね」

「来週、放課後とかどう?」

「ありがとう! じゃあ月曜の放課後、教室で待ってるね」


月曜日。

明日だ。

私は、スマホを枕元に置いた。

優莉と、何を話せばいいのか。

彼女を救う方法なんて、分からない。

自分のことで精一杯なのに。


——でも、放っておけない。


彼女の目が、私と同じだったから。



《月曜日・放課後》


放課後の教室には、私と優莉だけが残っていた。

西日が斜めに差し込み、机や椅子の影を長く伸ばしている。

私は生徒会の日誌を書いていた。

今日の委員会報告、備品の確認事項、来週の予定。

退屈な作業だけど、こういう「やるべきこと」があると落ち着く。

優莉は窓際の席で、スマホの画面を見つめていた。

いつもなら自撮りの編集をしているはずだ。

光の加減を調整したり、肌の色味を微調整したり。

けれど、今日の彼女は——ただ画面を見つめているだけ。何も操作していない。


「ねえ、凪ちゃん」


不意に、優莉が口を開いた。スマホの画面から目を離さないまま。


「最近、何か変わったことない?」

「……変わったこと?」

「うん。なんか、疲れてるように見えるから」


優莉が、私を見た。

いつもの完璧な笑顔——ではなく、どこか探るような目。


「凪ちゃん、最近スマホよく見てるよね」


心臓が、一瞬跳ねた。


「……生徒会の連絡が多くて」

「ふーん」


優莉は椅子から立ち上がり、私の方に歩いてきた。


「私ね、気になってることがあるの」

「何が?」


優莉は私の机の前で立ち止まった。

逆光で表情が読み取りにくい。西日が彼女の輪郭を金色に縁取っている。


「水曜日、カフェで話したでしょ? 私が『変なアカウントから通知が来る』って言った時」


——あの時だ。


私は「フォロワー0で、投稿も0のやつ?」と聞いてしまった。

口が滑った。


「凪ちゃん、あの時すごく動揺してた」

「……そう、かな」

「うん。『SNSでそういうアカウントがいるって聞いた』って言ってたけど——」


優莉が、一歩近づいた。


「本当は、凪ちゃんのところにも来てるんじゃない?」


心臓が、握り潰されるように痛んだ。


「同じアカウント。フォロワー0、投稿0。でも、私たちの投稿を全部見てる」


優莉の目が、私を捉える。


「私たち、同じ存在に監視されてるんだよ」


——バレてる。


完全にではないかもしれない。

けれど、優莉は何かを確信し始めている。


「……なんで、そう思うの?」

「勘、かな」


優莉はふわりと笑った。

けれど、その目は笑っていない。


「私ね、凪ちゃんのこと、ずっと見てたの」

「……見てた?」

「うん。クラスで一番真面目で、優等生で、誰にも嫌われない凪ちゃん。でも、時々すごく疲れた顔してる」


優莉は、私の目を真っ直ぐに見た。


「私と、同じ顔」


その言葉が、胸に刺さった。


「表では笑って、裏では壊れそうになってる顔。私、毎日鏡で見てるから分かるの」


優莉は椅子を引いて、私の隣に座った。


「ねえ、凪ちゃん。私たち、似てるよね」

「……」

「だから、聞きたいの。凪ちゃんは、どうやって耐えてるの?」


その問いかけに、私は何も答えられなかった。

どうやって耐えてるか?

裏垢で毒を吐いて、フォロワーの承認で自分を保って、魔法少女として戦って——

そんなこと、言えるわけがない。


「……私も、分からないよ」


それだけ答えた。

嘘ではない。

本当に、分からないのだから。

優莉は、少しだけ寂しそうに微笑んだ。


「そっか。……ごめんね、変なこと聞いて」

「ううん」

「じゃあ、私行くね。また明日」


優莉は立ち上がり、鞄を肩にかけた。

教室を出ていく彼女の背中を、私は見送った。


——彼女は、何かを探っている。

——私の秘密を。


けれど同時に——


——彼女自身も、限界に近づいている。


ルミエの警告が、頭の中で響いた。


『初期段階のメンタルモンスター、幼体が形成されつつあります』


優莉の中で、黒い種が育ち始めている。

私は、何をすればいいのか。

答えは、出なかった。


《月曜日・夜》


帰宅後、私は自室でスマホを開いた。

裏垢のタイムラインではなく、匿名掲示板の検索結果。

数日前から気になっていたスレッドがある。


【特定】@midnight_venom の正体を暴くスレ Part.8

1 名前:名無しさん 前スレ落ちたから建て直し。 有力情報まとめ↓

・都内近郊の高校生(ほぼ確定) ・進学校っぽい(言葉遣いと知識

量から) ・女子(文体分析で99%確定) ・生徒会関係者?(「仕事

押し付けられた」発言) ・来週文化祭がある学校(投稿内容から)

胃が重くなる。

第2章で危惧していた通り、特定班の分析は着実に精度を上げている。

スレッドをスクロールする。

28 名前:名無しさん 文体分析の続き ・「〜じゃん」の多用 ・句読

点の打ち方が丁寧 ・皮肉の切れ味が鋭い ・たまに古典の知識がチラ

つく → 文系、国語得意そう

35 名前:名無しさん 投稿時間のデータ更新 ・平日は主に21時〜24

時 ・休日は昼過ぎと深夜 ・最近、投稿頻度が不安定 → 何かあっ

た?

42 名前:名無しさん 都内近郊で来週文化祭、進学校、生徒会 これ

で絞れる学校、何校ある?

43 名前:名無しさん >>42 調べた。候補は5校くらい


——5校まで絞られている。


私の学校は、その候補に入っているはずだ。

このペースで調査が進めば、遅かれ早かれ——

画面を閉じた。

これ以上見ていると、気が狂いそうだ。

スマホを握りしめる。

特定班、優莉の接近、減り続けるフォロワー、優莉のモンスター化兆候——

問題が多すぎる。

一つずつ対処するしかない。

けれど、どれから手をつければいいのか。


《ピロン♪》


ルミエからの通知。


『凪殿。メンタルモンスターの反応を感知しました。距離約1.2キロ、駅前

方向です』


——また、か。


私は立ち上がり、窓に向かった。


「行くしかないか」

『お気をつけて。今回の反応は、かなり強力です』

「強力?」

『これまでのモンスターとは、レベルが違います』

私は黒いパーカーを羽織り、窓から外へ出た。


《月曜日・夜 21:30》


駅前の大通り。

仕事帰りのサラリーマン、買い物袋を提げた主婦、塾帰りの学生たち。

人波が絶えない繁華街のど真ん中。

ズン、と地面が揺れた。


『凪殿! 直上反応! 極大レベルです!』


見上げる。

駅ビルの屋上。

そこに、巨大な影があった。

コンクリートと鉄骨を無理やり継ぎ合わせたような、無骨で巨大なゴーレム。

全長は10メートルを優に超えている。


——これは、ヤバい。


これまでのモンスターとは、明らかに格が違う。

ゴーレムの体表から、黒い靄が噴き出していた。

それが街路に降り注ぐ。


『……期待……シテル……ゾ……』


声が、脳に直接流れ込んでくる。


『……失敗……スルナ……』

『……ガンバレ……ガンバレ……ガンバレ……』

『……オ前ナラ……デキル……ハズダ……』


重い。

音にならない叫びが、物理的な圧力となって降り注ぐ。

周囲の人々が、突然その場にしゃがみ込んだ。頭を抱える者、膝から崩れ

落ちる者。


「何……これ……」

「頭が……痛い……」

「やめて……もう無理……」


精神感応攻撃。


「期待」という名の善意が、「重圧」という名の暴力に変わっている。


『プレッシャー・ゴーレム。人々の「過度な期待」が実体化したメンタルモンスターです』


——過度な期待。

——知ってる。私も、ずっとこれに押し潰されてきた。


「人通りが多すぎる……!」

私はビルの裏手に回り込み、人目のない路地に駆け込んだ。

裏垢アプリを起動する。


《現在のフォロワー:94,200人》


自然減で少し削られている。

けれど、まだ通常域だ。

戦える。


「変身!」


光が私を包む。

黒髪が銀色に染まり、瞳がデジタルパープルに変わる。

手の中に、ソウルフォンが現れた。

私はビルの外壁を駆け上がり、屋上へ飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ