霧のような君
月明かりの庭園に、ふと気配があった。
彼女の姿を見つけたのは偶然だった。いや、違う。ずっと探していた。
セーラに形式ばった挨拶をすませたそのあとも、ずっと気になっていたのは、彼女のほうだったのだ。
ルイーゼ
男爵令嬢としてはやや異端な、軽やかで、自由で、近寄りがたく、妙に惹きつけられる娘。
だが彼女の隣には、いつの間にかあの男がいた。
ルーク。
まさかこうして親しげに彼女と並ぶ姿を見るとは思わなかった。
距離が、近い。
微笑んだ彼女の空気に、思わず声をかけるのがためらわれた。
けれど、それでも構わなかった。彼女に話しかけたかった。ただそれだけだったのだ。
「……ここにいらしたのですね、ルイーゼ嬢」
その言葉に、彼女はにっこりと笑って、お辞儀をした。
けれど、期待したような返事はなかった。近寄ったつもりが、彼女の笑みは少しも近づいてこなかった。
「ウィルフレッド殿下。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
そして、ルークにちらりとも目をやらずに、さらりとこう言った。
「けれど、私はそろそろ戻ります。」
彼女は、そう言って、歩き去っていった。
本当に、霧のような人だ。気づけば手の中には、なにも残っていない。
彼女の背中を見送る自分の横で、
ルークが微かに息をついたのがわかった。