はじまる。
屋敷に着くと、自分の部屋に魔石を飾る。
まだまだ透明度の低い魔石たちだが、苦労して手に入れた魔石をよさそうなコレクション棚に並べていく。私の魔石好きは、ずいぶん早い段階で家族にばれ、どうやって集めたのかと聞かれ、森に行っていることもばれた。お母様には呆れられたが、お兄様もお父様も笑って許してくれた。
「お嬢様、今日はもうお疲れでしょう?お茶を淹れますね。」
「ありがとう、マリー」
お茶を飲みながら一息ついていると、マリーが
「もうすぐ、殿下の15歳の誕生日ですね」
あぁ、そういえば殿下も同い年だったな。
「楽しみですね。」
マリーがニコニコしながら私も見つめる。
「何が楽しみなの?」
「何って、殿下の15歳の誕生日は貴族の年の近いご令嬢を招いて婚約者を探すパーティーが開催されるのですよ!たくさん着飾らないと!」
「そうなの」
「もしかしたらお嬢様が将来の妃になられるのかもしれませんよ!」
「それはないでしょう。たかが男爵家の娘よ。それに、魔石が集められなくなるじゃない」
「色恋より、魔石ですか…まぁ、そんな気はしていました。」
パーティーが嫌なわけではないが、まぁ、実りのないパーティーにはなるだろうな。
「まぁ今回の会場はなぜか湖のほとりで開催されるそうです。あそこはまれにですが、魔物が出るのに。」
「魔物!それは気合入れていかなくては。」
マリーが呆れたように笑った。領地の魔物しか見たことないから王都にいる魔物も楽しみ。
そしてパーティー当日
会場に着くと、湖のほとりというから自然にあふれたところかと思えば、タイル張りの広いテラスのようなところだった。それでも令嬢たちはドレスが汚れる。虫がいそうなど、文句を言っている。ほぼほぼ人が集まったころ、入口に視線が集まる。
どうやらシルヴァー伯爵家のご令嬢セーラ様がいらしたそうだ。
そういえば、5歳の時、彼女は闇属性と言われてたな。あんなに苦労して覚えた闇属性が得意分野なんて羨ましいな。
「みて、セーラ様よ。なんておぞましい。」
「ほんと、怖いわね」
闇属性はずいぶんと嫌われている。わかりやすい治癒という光魔法とは違い、闇魔法は吸収だ。あいまいな魔法や、闇という言葉なだけで闇属性は人からさけられてしまうのだろう。とても貴重な属性なのに。
5歳の時に見かけたセーラ様よりずいぶんと暗い顔をしている。
あんなにきれいな人なのに、もったいない。
そのすぐあと、ウィルフレッド殿下が会場に現れ、
簡単なあいさつの後、パーティーが始まった。
令嬢はかわるがわる殿下のもとに向かい、挨拶をし、顔を覚えてもらおうとしている。
私はおいしそうな食べ物を目にし、せっせと自分のお皿にのせる。
湖の近くで食べよう。魚型の魔物もいるそうだし。もしかしたらここにもいるかも。
湖の近くで人の少ないところの机に、セーラ様は一人うつむいて座っていた。
「ご一緒しても?」
顔を上げたセーラ様に二コリを笑いかけると、どうぞ。と席を指してくれた。
「私、ノクスレイン男爵家のルイーゼとお申します。初めまして」
「私は、シルヴァー伯爵家のセーラと申します。」
お互い挨拶を交わして、湖の見える位置の椅子に座る。
湖は風で揺れるだけで、魔物がいそうではない。残念。
「あの、」
「何でしょうか」
セーラ様が声をかけてくれた。そわそわした様子。
「何か用があって私のところに来たのでは?」
「あぁ、湖が近い席だったので。」
「それだけ?」
「それだけですよ。」
「そう…」
大した会話もせず、私は湖を見つめ、食べ物を黙々と食べていく。
「ルイーゼ様は湖が好きなんですか?」
「あ、いえ。何かいるかなと思って。」
「何かって?」
「例えば、ま…」
魔物と言おうとしたところ、湖にスライムが浮いている。水属性のスライムだ!
魔石、まだ持ってないんだよね。近いうちにまたここにきて、探索しよう。
「今日はパーティーに来てくれてありがとう。」
スライムに夢中になっていたら、後ろから声がした。
どうやら殿下が挨拶をしに来てくれたようだ。顔を見ると、視線は私ではなく、セーラ様を見ていた。まぁ、シルヴァー伯爵家の娘で貴重な闇属性の持ち主となれば、婚約者の第一候補だろう。
「こちらこそありがとうございます。」
と丁寧にセーラ様がお辞儀するのに合わせて、私もお辞儀をする。
「そちらの令嬢は?」
キャー!!!
殿下が私に視線を向けたときに、近くにいた令嬢が悲鳴を上げた。
どうやらさっきのスライムを見つけてしまったらしい。
スライムは私たちのすぐそばのテラスの柵の上にいる。スライム自体は攻撃性は少ないが魔物の見慣れていない令嬢にはとんでもない恐怖だろう。
「キャー!」
セーラ様が慌てて椅子から立ち上がりそのままバランスを崩し、柵に頭を打ち付け気絶してしまった。
「殿下、剣を」
すぐ隣にいる殿下の小指に魔道具をつけ、小声で話しかける。
殿下はびっくりして私の方を向くが、すぐにスライムに向き合い、スライムを切りつけた。
スライムは魔石になり、静寂が訪れる。
「お見事です。殿下。」
私の一言で、他の令嬢たちがわーわーを殿下を囲う。私も令嬢たちの輪に入り、どさくさにまぎれ、小指につけた魔道具を回収する。
セーラ様は会場にいた騎士にすぐに運ばれていくのを見て、あとをついていく。
テラスの近くにある屋敷で休んでいる彼女を椅子に座って意識を戻るのを待つ。
打ち所がよく、頭にけがもないそうだ。
さっき殿下につけたのは、力とスピードが増す魔石が入った指輪型の魔道具。
殿下に魔物を倒す技術があるかわからなかったから一応でつけてもらった。結果よかったんじゃないかな。あまり倒し慣れている剣さばきじゃなかったし。
「うわぁああ!!!」
セーラ様が飛び起きた。びっくりした。起きた瞬間、ぶつぶつと一人で話始めた。
「大丈夫ですか?セーラ様?」
「セーラ?私、セーラっていうの?!あの悪役令嬢の?!」
悪役令嬢?
「ってことはここは、あの乙女ゲームの世界?!」
・・・まじか。目の前にいるのはあのラノベではやっていた悪役令嬢転生ものの主人公ってこと?ってことは私が転生したのは剣と魔法の世界じゃなくて、乙女ゲームの世界で悪役令嬢に転生しました系ってこと?
「失礼ですが、あなたの名前は?」
「私はノクスレイン男爵家のルイーゼと申します。」
「…知らない名前だわ」
・・・どうやら私は乙女ゲームの世界には名前もないモブらしい。
「セーラ様、大丈夫ですか?」
「ありがとう。なんかでも記憶がぐちゃぐちゃになってて・・・」
まぁ、そうだろうな。でも、表情が明るくなっててよかった。
「今日は、ウィルフレッド殿下の誕生日パーティーです。そこでセーラ様は頭を強く打って気絶してしまったのですよ。」
「そう、物語はまだ始まってないのね・・・」
「どこからが物語なんですか?」
「学園に入学するころよ。ウィルフレッド様はセーラの婚約者で主人公尾の邪魔ばかりして、最後の卒業パーティーで婚約破棄をされるの。そのあとは・・・わからない・・・悪役令嬢の結末なんて書いてなかった・・・」
まぁ、悪役令嬢がどうなろうと主人公が結ばれればハッピーエンドよね。
「って!私!こんなことこの世界の人に話しちゃダメなんじゃ」
「あら、あなたもこの世界の人ですよ。
・・・でも、ほかの人には話さない方がいいかもしれないですね。」
「じゃあ、二人だけの秘密ってことで」
「そうですね。」
二人で笑いあい、パーティーは終了した。