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6話 祝福と呪い

  第二層の通路を進むエリオットとアリア。巨大な毒蜘蛛(どくぐも)を二人で倒した高揚感(こうようかん)が残るが、エリオットの心は晴れない。薄紫の瞳が青白く光り、蜘蛛の魂を吸収しきった【(たましい)刻印(こくいん) Lv.2】がエリオットに新たな力を与えてくれることになる。吸収した魂の力を得て【亡魂(ぼうこん)視界(しかい)】スキルがLv.2に進化――罠の遠隔(えんかく)操作(そうさ)が可能になり、視認(しにん)可能な範囲も広がった。エリオットは試しにと、部屋の出口付近にある罠を感知。床に隠された毒針の仕掛けが青い魔力線として浮かび、位置を特定。そしてエリオットは眉間に力を込め、魔力線の中心に意識を集中し、針の起動を無効化を目論(もくろ)む。カチリと音が響き、罠が沈黙した。

 

「便利なスキルだな。罠を遠くから(つぶ)せるなんて、初めてアンタが頼もしく思えたよ。」

 アリアの軽口にエリオットが何か返答しようとするが、上手く言葉が出て来ない。手が震え、額に冷や汗が(にじ)む。突然母の叫び声を思い出し、暗い牢獄(ろうごく)(くさり)(つな)がれた母と姉の姿がフラッシュバックする。その映像にゴルドの憎悪(ぞうお)に満ちた笑い声が重なる。エリオットの頭の中に、ゴチャゴチャとした負の感情が、大量に流れ込む。呼吸さえもまともに出来なくなっていく。

 

「エリオット? 大丈夫か?」

 アリアが心配そうに近づく。彼女の灰色の目の奥には、仲間への気遣(きづか)いが浮かぶ。エリオットは(ひたい)を押さえ、うめくように答える。

祝福(しゅくふく)(のろい)いでもあるってわけか……亡魂の視界のスキルレベルが上がってから、自分が自分でいられなくなるような感覚(かんかく)がある。」


 禁忌(きんき)スキルの代償(だいしょう)という表記があったことを嫌でも思い出す。敵の魂を吸収するたび、その記憶と感情が精神を侵食(しんしょく)する。確かにいまエリオットの心の中には憎悪や、恐怖心や、猜疑心(さいぎしん)といった負の感情が急激に膨張(ぼうちょう)し、渦巻(いずま)いている。いままでは母と姉を救う為、復讐を遂げる為にという思いでただひたすらダンジョンの奥へと進んできたが、もしかすると復讐の為の力を得ることの代償に、この先で自我(じが)を失うということすらあるかもしれない。

 もし自我を失ったら、俺には家族を救い、復讐を()げるという目的を成し遂げることができるのだろうか。おそらくそうなった時は、その二つの目的も果たす事が出来なくなる。目的を果たしたあとは、どうなってもいい。ただ、成し遂げるまでは、明晰な思考と自我は失うわけにはいかない。このままやみくもに奥へ奥へと潜っていくのが得策なのか、判断しなくてはならない時がそろそろくるかもしれない。


 呼吸の乱れが少なくなってきた俺をみて安心したのか、アリアは俺の方を覗き込むのを中断して、通路の先をいつもの厳しい表情で見据えた。

「……そういえば、不死(ふし)の王は紫の瞳。そんな題の(いにしえ)の物語の一節(いっせつ)があったのを思い出したよ」

 エリオットが眉を寄せるが、アリアはそれ以上語らない。クローヴェル家の秘密は自分の瞳が絡んでいる気がする。クローヴェル家の当主だけが知る秘密があり、その秘密の為に父は殺され、母と姉は捕らえられたのではないか。何かの鍵が〈クローヴェル家の瞳〉だとしたら、俺や姉が殺されなかった理由もわかる。疑問はつきることはないが、いずれの答えも闇の中にある。触れられるくらいの距離に近づかなければ、その輪郭(りんかく)すら知ることは出来ない。


 通路の先で魔物の気配。【闇の囁き】が囁く。『右の通路、ゴブリン三匹。罠が近い。』エリオットはアリアに視線で合図を送る。

「右の通路、ゴブリンどもは俺が罠で足止めする。アリアが、とどめをさしてくれ。」

 アリアが頷き、双剣を構える。エリオットは【亡魂の視界 Lv.2】で罠を感知。通路の床に電撃の魔法陣が隠れている。魔力線を操作し、ゴブリンが踏み込むタイミングで起動。ゴブリンが魔法陣に足をかけると、青白い雷が走り、一匹が黒焦げになって倒れる。肉が焦げる嫌な臭いが広がり、残る二匹が怯えた声をあげて立ち止まる。すかさずアリアが動く。双剣が(ひらめ)き、一匹の首を()ねる。血が()き出し、頭が床に転がる。もう一匹が棍棒を振り上げるが、アリアは身を低くしてかわし、剣で腹を切り裂く。臓物(ぞうもつ)が床に溢れ、ゴブリンの悲鳴が途切れる。

「なかなかいいパーティーになってきたね、エリオット。」

 アリアが笑うが、エリオットの瞳はまだ揺れる。(ほふり)り、吸収し、養分にしてきた敵たちの魂が無数の声となって自分に語りかけてくる――「誰も信じるな」。その声が、耳をふさいでも、止むことない。エリオットは短剣を握り直し、震える手を抑える。

「アリア。あんたの知る物語の結末はどうだったか知らないが、この物語の結末は決まってる、黒衣の騎士の息の根をとめる。絶対に。」

 アリアの灰色の目がエリオットを見据える。彼女は一瞬黙り、静かに答える。

「二人で?」

「……。」

 その問いには答えないが、エリオットの心は揺れる。アリアを信じてみてもいいのかもしれない。俺はそうしたいのかもしれない。自分の中に芽生える相反(あいはん)する感情にエリオットが気づきかけた時、【闇の囁き】の警告の声が聞こえる。『敵が迫る。複数だ。』エリオットとアリアは互いに背を預け、戦闘の準備を整える。

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