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5話 第二層の洗礼

 「魂蝕(こんしょく)傀儡窟(かいらいくつ)」の第二層に足を踏み入れると、冷たい空気がエリオットの肺を満たし、鼻をつく腐臭(ふしゅう)と、そこら中に漂っている魔力(まりょく)にたじじろぐはめになる。苔むした石壁には不気味(ぶきみ)紋様(もんよう)(きざ)まれ、松明の揺らめく光も届かぬ闇が(うごめ)いている。


 エリオットの薄紫の瞳には警戒と決意が宿る。隣を歩くアリアは、黒髪を短く切り揃えた頭を軽く振って汗を払い、灰色の目で周囲を鋭く見渡す。彼女の革の胸当てが松明の光を鈍く反射し、両手に握った双剣が微かに震える。二人の足音が石畳に反響(はんきょう)し、緊張が張り詰める。


「気をつけろ、エリオット。二層は魔物だけじゃなく、トラップも凶悪になってるよ。」

 アリアの声は低く、ダンジョンの闇に溶け込むようだ。エリオットは頷き、錆びた短剣を握り直すと、【闇の囁き Lv.1】が耳元で囁く。『敵が近い。天井に潜む。』

 その瞬間、頭上から粘つく糸が落下し、エリオットの足元をかすめる。【亡魂の視界 Lv.1】が糸の魔力線を捉え、罠の存在を感知。青い線が天井に伸び、巨大な影を察知する。


「アリア、上だ! 避けろ!」

 エリオットが叫ぶと同時に、二人は横に()ぶ。糸が石畳に落ちてくると、ジュワっという何かが溶けるような音が響く。毒だ。


「毒の糸か……また厄介な魔物(まもの)だな。」

 アリアが双剣を構え、灰色の目が天井を貫く。すると、闇の奥からのそりと巨大な毒蜘蛛(どくぐも)が姿を現す。体長は馬車ほどもあり、八本の脚は鋼のように硬く、黒い甲殻(こうかく)の表面には緑の毒液(どくえき)(したた)る。無数の赤い目がエリオットとアリアを捉え、口から毒の霧が漏れる。

「……」

 蜘蛛は言葉を発さず、ただ無機質(むきしつ)な目を光らせる。その沈黙が、逆に恐怖を煽る。エリオットの心臓が跳ね、汗が短剣を握る手を滑らせる。毒蜘蛛はその巨体を感じさせぬ速さで天井(てんじょう)()い、糸を放ってくる。粘つく糸が(あみ)のように広がり、エリオットとアリアを閉じ込めようとする。


 エリオットは敏捷性を活かして身を(ひるがえ)す。だが、糸が肩をかすめ、服が溶けて毒が肌に触れる。焼けるような痛みが走り、苦痛に眉をひそめる。

「くそっ、強酸性(きょうさんせい)の毒だ!あいつは遠距離からも俺たちに致命傷(ちめいしょう)を与えられる 」

 アリアが動く。双剣が旋風(せんぷう)のように舞い、糸を切り裂く。彼女は毒蜘蛛に肉薄(にくはく)し、一本の剣を甲殻に振り下ろす。だが、剣は(はじ)かれ、火花が散る。毒蜘蛛が反撃し、今度は霧状の毒を吐き出す。アリアは咄嗟(とっさ)に後退し、霧を回避(かいひ)する。

「エリオット、気配を追って! アタシが動きを止める!」

 アリアの声に、エリオットは頷く。【闇の囁き】に全神経を集中。毒蜘蛛の脚がガサゴソと石壁を叩く音、毒液が滴る微細(びさい)な音、周囲の空気の振動――それらすべてを捉え、動きを予測する。薄紫の瞳が青白く光り、闇の中で蜘蛛の輪郭(りんかく)が浮かび上がる。

「そこだ!」

 エリオットは短剣を投げ、蜘蛛の目のひとつに命中させる。緑の体液が噴き出し、蜘蛛が身をよじる。アリアがその隙を見逃さず、双剣で脚を狙う。脚の関節を一本切り裂くことに成功しただけでなく、甲殻が砕けた箇所ができる。より狂暴(きょうぼう)になった巨大な毒蜘蛛は咆哮(ほうこう)のような振動音を出し、毒の霧を広範囲(こうはんい)()()らす。

「……」

 蜘蛛の赤い目が憎悪(ぞうお)に燃え、足を一本失ったことを忘れさせる速度で突進してくる。エリオットはアリアに向かって叫ぶ。

「右に跳べ!」

 アリアが跳び、触れるか触れないかの距離で回避する。そしてアリアは仕返しとばかりに、手に持った双剣を蜘蛛の甲殻の隙間の柔らかな腹部に突き刺す。緑の体液が大量に噴き出す。蜘蛛はよろめくが、残った力で糸を放ちアリアを絡め取ろうとする。だが彼女が再び双剣を振り、ダメ―ジの重なった蜘蛛の甲殻の一点を突く。甲殻が砕け、赤い心臓部が、むき出しになる。すかさず放ったアリアの連撃は、その赤い心臓を捉える。毒蜘蛛はたまらず、崩れ落ち、ビクリと一度振動した後には完全に動かなくなった。

 

 エリオットは息を整え、肩を押さえる。服はボロボロで、毒液が触れた箇所(かしょ)火傷跡(やけどあと)のようになっている。さすがのアリアも息を切らしながら、双剣につたう緑色の体液を振り払う。

「二層の餌はよっぽど栄養が豊富(ほうふ)なんだろうな。毒蜘蛛があんなにデカくなるなんて。」

 エリオットが呟くと、アリアが小さく笑う。

「かもね。それにしても、アタシらの連携(れんけい)(さま)になってきたじゃないか」

 その言葉に、エリオットは頷いたが、心の奥底は揺れていた。確かにアリアの実力は頼りになるが、彼女の復讐と俺の復讐は、本当に同じなのだろうか?もしも今後彼女と敵対することになったら、俺の力であの剣聖(けんせい)を圧倒することは出来るのだろうか。


 エリオットは蜘蛛の死体に近づき、【魂の刻印 Lv.2】を発動。(てのひら)をかざすと、魔物の魂が薄い光となって吸い込まれる。こいつも――ただ食欲と生存本能のみ、所詮は虫けらだ。だが、毒への耐性(たいせい)が向上したのは思わぬ収穫(しゅうかく)だった。この先、必要になることもあるだろう。

「俺はこのダンジョンで必ず強くなる。」

 アリアが剣を鞘に収め、静かに応じる。

「そうしてもらいたいね。ここから先はアンタを守りながら戦う余裕なんてないんだから。」

 二人は再び闇の通路へ踏み出す。


 === ===

 ◆エリオット

【禁忌スキル:亡魂の視界 Lv.1】

【禁忌スキル:闇の囁き Lv.1】

【禁忌スキル:魂の刻印 Lv.2】

【スキル:隠密Lv.1】

【スキル:毒耐性 Lv.1】

【Lv.5、敏捷性+5】

【クラス:逃亡者】

【筋力+5】

【耐久+5】

【敏捷性+5】

【短剣の扱い】

【格闘の基礎】


 ◆アリア

【Lv.11、敏捷性+5】

【クラス:剣聖】

【筋力+15】

【耐久+15】

【敏捷性+20】

【双剣術の達人】

【格闘術の達人】

 === ===


次回も来週金曜日に更新予定です。

引き続きがんばっていきますね!!


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