4話 共鳴する理由
「魂蝕の傀儡窟」の、迷宮のように入り組んだ第一層を、さらに奥へと進んでいく。俺は疲労に蝕まれた体を引きずるように歩いていた。隣を歩くアリアは、双剣を鞘に収め、冷静な足取りで進む。Lv.10の剣士としての余裕か、彼女の灰色の目はダンジョンの闇をまっすぐ見据えている。奴隷商を一瞬で切り捨てた実力は認めざるを得ないが、俺の心はまだ彼女を信じきれずに揺れている。母と姉の手がかりを追う俺にとって、味方は必要だ。だが、もしも裏切り者の手先だったら? その疑いが消えない。「母さん、姉さん……待っててくれ」
呟きが石壁に反響する。アリアがちらりと俺の方を見たが、何も言わない。
彼女の目的は何か? 本当に偶然俺を助けたのか?
通路を進むと、開けた空間に出た。中央に古びた祭壇があり、苔に覆われた石像が崩れかけている。祭壇の周囲には、薄暗い光を放つ青い結晶が散らばり、不思議な力があたりには漂っている気がする。俺は祭壇に近づき、休息を取るため腰を下ろした。疲労が限界を超え、膝が震える。
「少し休ませてくれ。いざという時に、逃げることも難しくなるから。」
アリアが頷き、祭壇の反対側に座った。彼女は双剣を膝に置き、周囲を警戒する。俺は息を整えながら、彼女を見据えた。
「アリア、やっぱりお前が何者か分からないままじゃ、この先一緒に進むことは出来ない。俺を助けた理由を聞かせてくれ。」
アリアが小さく笑い、灰色の目が俺を捉えた。
「お前みたいな強い奴が、俺に手を貸す理由が分からない」
アリアが一瞬黙り、視線を周囲に散らばる青い結晶に落とした。彼女の表情が硬くなり、声が低くなる。
「理由なら……たぶんお前と同じだよ、エリオット。復讐だ」
その言葉に、俺の心が揺れた。アリアが続ける。
「アタシの母は、殺された。二年前、村が襲われて、母はアタシを庇って死んだ。黒い甲冑の騎士が剣を振るって、母の胸を貫いた。アタシは生き延びて、あの黒い甲冑の騎士の正体を探っていた。奴隷商は黒騎士の手先だ。だから、アタシは奴隷商の追手からアンタを助けた――あの黒い甲冑の騎士から追われているアンタの側にいれば、いつか黒い甲冑の騎士が向こうからやってくるんじゃないかと思ってね」
アリアの声に、憎悪と哀しみが滲む。黒い甲冑の騎士――ゴルドの記憶にちらついた誰かの影も、黒い甲冑を身にまとっていた。彼女の母を殺し、俺の家族を奪った奴と同一人物なら、アリアは境遇と目的を同じとする同志だ。だが、信じるにはまだ足りない。俺は目を細めた。
「お前が本当のことを言ってる証拠はない。裏切り者の手先が、こんな芝居を打つ可能性だってあるだろ?」
俺は短剣を構え、疲労で震える体を無理やり起こす。アリアも立ち上がり、双剣に手をかけたが、彼女は剣を抜こうとはしない。
「そうだね、作り話かも。信じるかどうかはアンタ次第だ。ただアタシは必ず母の仇を討つ。その為に強くなってスキルを開花させたんだ。少なくとも黒い甲冑の騎士に再び巡りあうまでは、アタシはアンタを見捨てないよ」
その言葉に、嘘は感じられない。俺の疑いは完全には消えないが、彼女の言葉に少しだけ心が動いた。確かに彼女は俺と同じ、瞳の奥に同じ闇をかかえている。それに、これ以上ダンジョンの奥に進む為には彼女の助けを借りるしか俺には選択肢はない。俺は短剣を下ろし、呟いた。
「……分かった。信じてみよう。だが、お前が少しでも裏切る素振りをみせたら、容赦はしない」
アリアは、ニヤリとした笑みを浮かべ。「アンタとは気が合うな、エリオット。逆にアンタがアタシを裏切っても、この双剣が黙っちゃいないよ」
俺たちは互いに物騒な言葉を並べつつも、出会ってから初めて小さな信頼を築いた。
その時、祭壇の結晶が一瞬強く光り、【闇の囁き Lv.1】が発動。「気配が近い。敵だ。準備しろ」と耳元で囁く。俺は短剣を構え、アリアが双剣を抜いた。
「て、敵?」
俺が呟くと、アリアが目を細めた。「足音も気配も完全に消してる。気をつけろ、エリオット」
次の瞬間、風切り音が背後から迫る。俺は【亡魂の視界 Lv.1】でなんとか動きを捉え、短剣で受け流すが、敵の姿はみえない。刃が空を切り、肩に鋭い痛みが走る。血が滴り、俺はよろめく。
アリアが叫ぶ。「アサシンだ!奴らは隠密のスキルを使う!」
彼女の双剣が旋風のように振るわれるが、空を切るばかり。突然、アリアの腕に切り傷が走り、血が飛び散る。俺たちは見えない敵に囲まれていた。
「くそっ、敵の数さえわからない……!」
俺は膝をつき、息を荒げる。
「たぶん、二人だね。姿はみえないけれど、気配は感じる。」
その瞬間、血飛沫が宙に舞った。アリアが双剣を振り抜き、そのまま敵の腕を切り落としたのだ。姿は見えないが、血が床に落ちる。
「アリア。血飛沫だ、血飛沫が奴らの姿を明らかにする。」
俺は敏捷性を活かして、不自然に赤い血痕が途切れた場所に短剣を突き刺す。肉を突き刺す感触と共に短い悲鳴が響き、初めてアサシンの姿が現れた。運よく喉に貫通したようで、あらわれたアサシンは物言わぬ死体となって、ただ血だまりの中に倒れた。
アリアはそれを一瞥することもなく、別の血飛沫を追う。双剣が交差し、見えない敵の胸を切り裂く。血が噴きだし、姿が現れて崩れ落ちる。静寂が戻る。俺は息を切らし、アリアが血に濡れた双剣を拭う。
「隠密か……厄介な敵だな」
アリアが頷く。
「確かにね。でも、ちょっと不思議な手品が使えるだけだったね。」
俺は倒したアサシンの魂を【魂の刻印 Lv.2】で吸収。記憶が流れ込む――「隠し砦」「裏切り者が軍を率いる準備」。映像に黒い甲冑の男が映る。
「隠密Lv.1……使えるスキルだな」
アリアが言う。「もう少しで第二層に入る。第二層は、第一層とは桁違いにヤバい化け物がいる。それから、きっと、もっと強い追手もやってくる。ほら、アタシに出会えて良かっただろ」
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◆エリオット
【禁忌スキル:亡魂の視界 Lv.1】
【禁忌スキル:闇の囁き Lv.1】
【禁忌スキル:魂の刻印 Lv.2】
【スキル:隠密Lv.1】
【Lv.4、耐久+5】
【クラス:逃亡者】
【筋力+5】
【敏捷性+5】
【短剣の扱い】
【格闘の基礎】
◆アリア
【Lv.10】
【クラス:剣聖】
【筋力+15】
【耐久+15】
【敏捷性+20】
【双剣術の達人】
【格闘術の達人】
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