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白崎直人と黄金井圭③

 一年生の頃の黄金井(こがねい)(けい)のクラスでの立ち位置は、良く言えばムードメーカー、悪く言えばお調子者だった。


 誰とでも当たり障りなく交流し、わざとおどけたりしてクラスの笑いを取っていた。それゆえ、友人も多い。校内の人間の連絡先は三桁近くスマホに登録されていて、複数のグループLINEにも属している。


「おっす圭!」

「よーっす! 二年生もよろしくな!」


 二年生になっても、友人との距離は変わらない。大切な友達だと思っているし、何気ない会話やくだらない話で盛り上がって、騒ぎ過ぎだと先生に注意されるのは日常茶飯事だ。


 友人のいる学校生活は、圭にとって順風満帆と言っても過言ではなかった。


 だがしかし。そんな圭には、一つだけ悩みがあった。


――彼女が欲しい。


 多感な男子高校生なら誰でも思うことを、圭も思っていた。


 女子と話すのはそもそも苦手ではあるが、だからと言って全く話さないというわけではない。圭が明かるい人物だと知っている女子たちは、女子の側から話しかけてくれることもしばしばあるのだが、どうにも【いい奴】の殻は破ることが出来ず、友人知人の枠を飛び越えることが出来なかった。


 もっとぐいぐいいけば、ワンチャン? いやでも、嫌われたら嫌だしな。


 そんな心理が渦巻いて、気になる女子がいても、目の前でふざけるばかり。連絡先を交換することになっても、一回か二回やり取りをしたら、それ以上何かしらのメッセージを受け取ることも送ることもなかった。


 面と向かってならば、たとえ対応を間違っても幾らでも繕ってごまかせる。だが、文章だけのやり取りだと、こちらの意図が伝わらないことがしばしばある。変な誤解をされて嫌われてしまうことが、圭にはあまりにも恐ろしかった。


(二年生では絶対に彼女をつくってみせる!)


 そう意気込んで、圭は一段階上がった自分のクラスへと向かった。


「お、圭と同じクラスじゃん! やりー」

「黄金井君、おっはー」

「おいおい圭、見たかよ!? 赤塚(あかつか)先生、今日ストッキングだったぞ!」


 教室に入るや否や、見知った顔が一斉に声をかけてくる。瞬時に笑顔を繕って、ONのスイッチを入れる。


「え、ちょっ!? ストッキングはやばすぎだろ! 俺、まだ見てないって! 何処にいんの? 俺、今すぐ行ってくる!」


 おどける圭。確かに美人の教師の姿を見たい気持ちはあるが、別に今すぐ見たいわけではない。こう言えば皆が笑ってくれるのを知っているから、そう言うのだ。


「黄金井君、きもいよー」

「あたしらも履いてこようか?」


 女子たちからの声。彼女を欲している圭にはなんとも嬉しい声だが、悲しいかな、今の状況でおどける以外の選択肢は、圭の中にはなかった。


 女子たちの前で土下座して、頭を伏せる。


「お願いします!」

「えー、ガチじゃん」


 笑声が木霊する。圭も顔を上げて、つられて笑う。


「あ、今スカートの中覗こうとしなかった?」

「してないしてない! 冤罪だって!」

「お、圭って冤罪なんて難しい言葉知ってんだな」

「おお!? 馬鹿にしやがったな、もっと難しい言葉知ってるぞ! 汚名挽回!」

「名誉挽回、な!」


 どっと、笑いが起こる。圭も、笑う。


 知ってるわ、そんなこと。それに、汚名挽回も、本来は間違ってないから。


 ひとしきり皆が笑い終えると、圭は黒板に記された自分の席を確認した。

後ろから二番目の、窓際からも二番目の席。そこが自分の席だった。特に文句もない位置だったが、気になったのは自分の席の隣、【白崎】と書かれた席だった。


「圭、白崎の隣だもんな。最悪じゃん」


 友人の言葉通り、最悪だった。白崎直人といえば、校内一のモテ男で、何十人もの彼女がいると噂されている男子である。彼女がいない圭とは真逆に位置する男子で、それゆえ、やはり苛つく。


 イケメンであることは認めるが、自分もそれなりに悪くない、という周囲からの評価を受けている。だというのに、愛想のない暗いあいつばかり何故モテるのか。あんな奴、見た目だけが取り柄の根暗男子だろうに。


 視線を自席へと移すと、その先に三人の女子と、白崎直人の姿があった。ああ、はいはい。二年生になって新しく同クラになった女子たちとお楽しみ時間ですか、と圭はふてくされる。


 唇を尖らせて、更には眉根が寄った。よく見れば、白崎直人を囲んでいる女子たちは、去年、一年生女子ランキングの中で上位に食い込んだ三人だった。


 あまりにも贅沢すぎるだろう、それは。


 無理矢理割って入って、邪魔をしてやろうか。そう思ってみたが、確実に女子三人に嫌われる気がする。俺もあんな可愛い子たちに囲まれて過ごしてみたい! 圭は、目が血走りそうになる勢いで憤慨した。何より、可愛い女子たちに囲まれてなお、面倒そうな表情を見せている白崎直人が気に食わない。


 三人の女子たちが白崎直人の周りから去って行ったのを確認してから、圭は自席へと向かった。椅子に腰を下ろしながら、白崎直人に声をかける。先程の会話の途中で聞こえたが、どうやらこいつはあの三人と遊びに行くらしい。

 男一人と、美少女三人。

 そんなのありえていいのか!?


「おお、俺も……俺も一緒に、遊びに行っちゃ駄目でしょうか?」

「…………三人に聞いてみれば?」


 出来るかそんなこと! 緊張して、「おおふ」以外の言葉が出てこんわ!


 やっぱり、白崎直人はいけ好かない奴だと、改めて思わされた。

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