白崎直人と自覚する春①
その人は、唐突に現れた。
桜ヶ丘高校に入学して一月が経った頃、俺の容姿は学年で一番優れているらしく、周囲がざわめきだした。女子たちはまるで行列のできるラーメン屋に並ぶみたいにこぞって告白をしてきて、男子たちは行列のできないラーメン屋の店主のような目でこちらを見てくるようになった。
毎日が、嫌になった。
一人でいることも許されず、知りもしない奴が側に寄って来て、男子はわざと肩をぶつけてきて、女子はきゃーきゃーと色めき立った。痛いしうるさいし、いいことなしだ。
俺も年頃の男子なわけで、女子から好かれたい願望は通常の男子並みにはある。でもそれは、不特定多数に向けてじゃなくて、誰か、そう、言うならば、俺が想いを寄せるその相手一人から向けてもらえれば十分。両手いっぱいに、色取り取りの好意を持つよりも、一つの大きな愛を、抱えたい。
…………。
気持ち悪いことを思った。高校生になったことで、少し大人に近づいた。だからなのか、変にキザっぽかったり迷宮入りしてしまいそうな思考を巡らせることが多くなってしまった気がする。
アホだね、どうも。
嘆息して、俺は帰宅する。昇降口で靴を履き替えている時、見覚えのない女子たちが俺を囲んだ。人数は、五人。女子たちはバラバラに声を発して、俺に身体を寄せてきた。俺は女子たちの身体に押されて、下駄箱にもたれかかった。
「ねーねー、今から遊び行こうよ!」
「君、一年生でしょ? 噂通り、マジイケメンだね。どこ行くどこ行く?」
「あはは、がっつきすぎだって。イケメン君怖がってんじゃん。怖いよねー、あたしは、優しくしてあげるからねー」
「ゲーセンか、カラオケかー。なんなら、ホテル直行とか?」
「っておい! え、六人で? やばすぎっしょ」
「んなわけ。順番順番。ねーイケメン君、一番誰がいい? 当然、あたしだよねー」
「そっちのががっつきすぎじゃん。まあ、いっか。ねー、イケメン君、あたしらと何したいー?」
途中から、彼女たちが何を言っているのか分からなくなった。喋っているのは口元がひっきりなしに動いているのと、ノイズ音のようなものが響いてるので分かるのだが、言葉の単語が聞き取れない。混乱した頭の中を、ムカデが這いずり回っているみたいで、すごい不快だ。
俺は唇を噛んだ。痛みに集中することで、不快感を少しでもなくそうとした。だが、不快指数は彼女たちによって増長する一方で、何も変わりはしなかった。
耐えかねて、右腕が動き始めた。必死に左腕が、それを抑制する。感情に任せて彼女たちを殴りでもしたら、俺はきっと、自分で自分を嫌悪することになる。
俺のことを知りもしないくせに。外見だけを求める彼女たちが、たとえ光に群がる虫のようだと思ったとしても、暴力を振るっていい理由にはならない。俺をひどく痛めつけていながら、正面で馬鹿笑いしている彼女たちを、俺は傷つけてはいけない。
…………。
ぷつん、と。何か音がした。
何故、傷つけてはいけないのだろう。俺に攻撃をしてくる彼女たちに対して、俺は何故、彼女たちを攻撃してはいけないのだろう。
自分で自分を嫌悪する? 違う。それは、ただの偽善だ。敵を排除することに、罪悪感を感じる方がどうかしている。
傷つけられるのならば、傷つけ返す。痛みを与えられるのなら、痛みを与える。
俺は――彼女たちに痛みを与えるべきなんだ。




