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青川海斗とあの日の夕暮れ④

 俺が座りなおすと、男子たちは聞こえない声で、愚痴のようなものを言っていた。俺はどうでもいいなと思い、聞く耳を持たず授業の用意を始めた。すると突然背後が騒がしくなって、何事かと振り返ると、さっきまで俺を取り囲んでいた男子たちが、一人の男子に追いかけまわされていた。


 必死に泣き叫びながら逃げる数人の男子と、大声で威嚇する金髪の男子。小学生の時から髪を染めているなどろくな輩ではないなと思いながら、心の奥底ではいい気味だ、とも思った。少し、意地が悪いだろうか。


 ともあれ、その日以降彼らは俺に関わってこなくなった。両親が俺に関わって来なくなった時とは違って、何処にも痛みは感じなかった。

 代わりと言うわけではないが、例の金髪の男子がよく声をかけてくるようになった。俺はまた面倒なことになるのも嫌だったので適当にあしらっていたのだが、それでも奴は毎日俺に声をかけた。罵声でも嫌味でもない、ただの気持ちの良い挨拶を、奴はずっと俺にし続けた。


「おはよう!」


 幾度目かの挨拶。俺は不思議に思っていたので、思い切って聞いてみた。何故俺にそんなに執着するのか、と。俺を馬鹿にしていた連中は、このクラスでのカーストで言えば上位に入る連中だった。そんな連中に反抗したのである。俺は、クラスでは浮いた存在だった。別に、そのことに不満があるわけではなかった。だから、変な同情で絡んで来ているのならやめて欲しかった。俺は、同情されて人に好かれたい、とは思っていない。


「お前が良い奴だから! だから、友達になりたくなった!」


 金髪のそいつは、無邪気な笑顔でそう言った。馬鹿なのか、と思った。何を根拠に俺を良い奴だと言っているのか。頭の色も頭の中も、お花畑だ。俺は一笑に付して、そいつを無視した。それでも奴は、そのまま喋り続けた。


「自分が信じることを信じるって、すげー格好いいなって思った。あとさ、お前……ええと、海斗はさ、親のこと大切にしてんだなって! だから、良い奴なんだなって思った!」


 後頭部を、鈍器で殴られたのかと思った。


 俺が、親を大切にしている? なんで、そうなるんだ? 俺はただ、俺がしたいようにしているだけで、大切にしているだとか、そんなことに繋がるようなことは――


「信じるって、それは大切にしてる証だろ? 大切じゃないと、信じること出来ないじゃん! どうでもいいことは、どうでもいいもんな」


 どうでもいいことは、どうもでいい。


 どうでもよくないから、信じることが出来る。大切だから、大事だから、かけがえのないものだから、大事に出来る。


 俺は、奴に背中を向けながら「あっち行け」と言った。声の震えがばれないように、必死に冷静を保って言った。

 奴は「ちぇっ」とおどけたように言った。風の流れで、奴が後ろを向いたのが分かった。俺は互いに背を向けたのを感じてから――


「おはよう」


 と、言った。


 俺は、俺を信じている。それはつまり。俺にとって俺は――大切だということなのかもしれない。

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