青川海斗とあの日の夕暮れ①
小さい頃、近所に歳が二つ上の女の子が住んでいた。彼女の家庭は、一般的な家庭よりも裕福で、その分、お堅い高貴な雰囲気を出していた。そんな、まるでどこかのお貴族様でも住んでいらっしゃるの、と思ってしまいそうな家の隣にあった、小さくて台風がくれば吹き飛んでしまいそうなほどに、そう、言わばボロ小屋とも呼べる家が――俺の住む家だった。
両親は小さい頃から共働きで、俺は小学校低学年の時分から留守番をすることが多かった。初めは当然ながら、俺も小さいわけで、働きに行く親に「出て行かないで」と泣いて縋っていた。それをしなくなったのは、学校で同じクラスの男子から「お前は親に嫌われてるんだ」と言われてからだ。
俺はその日、帰ってからずっと泣き続けた。母親が心配そうに見ていたのを知っていたが、結局声をかけないまま家を出て行ったことで、やはり俺は嫌われているのだ、と悟った。
それから俺は、親と話さなくなった。
嫌われているのなら、俺も嫌いだ。そんな単純思考回路だ。小さい子供なので両親のことを大好きだという想いは強くあったのだが、それは毎日学校で言われた言葉によって洗脳され、薄くなった。
「お前は親に嫌われている」
頭の中にその言葉がずっと居座り続け、ある日、直接両親にそれが本当なのか聞いてみようと思った。父親は仕事でほとんど家にいなかったが、たまたま、母親と父親が二人同時に家にいる日があったのだ。今思うとそれはきっと、俺の様子を心配した両親が、なんとか時間を作ってくれたのだろう。
両親は俺に遊園地に行こう、と誘った。俺は「行かない」と断固拒否した。そして、本心を聞こうとした。「お前たちは俺のことが嫌いなんだろ」と。
結果、出来なかった。あまりにも、怖かったんだ。
俺は言葉を発することなく、抱きかかえようとしてきた父親の腕を思い切り噛んで、トイレに一晩中引きこもった。
それ以降、両親は俺に関わってこなくなった。やはり、俺は嫌われていたんだと思った。
俺は一人学校へ向かい、毎日洗脳の言葉をかけられ、家に帰ると一人で暗い闇に覆われた家の中にいた。寝ても起きても視界は暗くて、頭はずっとぼんやりとしていた。家も学校も、親もなくなってしまえばいいのに。そんなことを思いながら、休日、外に出た。そして、薄暗い視界の中に、隣の豪奢な家が入り込んだ。
こんな家だったら良かったのに。
眺めていると、やがて、お城から出て来たお姫様、と錯覚してしまうほどの美しい情景が、目の前に広がった。
桃音鈴との、初めての出会いだった。




