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白崎直人と草むしり④

 そんなこんなで、俺たち三人は二十二時頃まで草むしりをした。途中、ふざけたりしていたせいか、さすがに校庭全部とはいかなかったけれど、それでも、誰が見ても一目で違いが分かるほどには雑草を抜くことが出来た。


 学校の戸締りを終えて帰宅しようとしていた先生に軽く注意されて、俺と圭はすぐさま帰ろうとしたが、会長だけは駄々をこねて、最後までやり切ると、一点張りだった。俺と圭が引っ張って帰って、なんとかって感じだ。


 だから今朝、学校に来て驚いた。

 昨日、帰る段階では残っていたはずの雑草が、全て綺麗さっぱりなくなっていたのだ。俺は、登校中に出会った圭と横並びで歩きながら、顔を見合わせた。もしかしなくても、だ。言葉にせず、二人の意見が合致する。


 クラスに行く前に、二年三組に顔を出してみるか。


 俺と圭は二人で三組の扉を開けて、教室の中を窺った。当の本人は、見当たらない。トイレでも言っているのか? それとも、また生徒会の仕事か?


「青川君? 彼なら、数人の男子に呼び出されてどこかに行ったけど」


 たまたま近くにいた女子が教えてくれた情報。

 数人の男子……となると、要望欄に草むしりを書いたあいつらだろう。わざわざ呼び出して、また何かいちゃもんでもつけるつもりなのかもしれない。いや、それだけで済めばいいが、逆上して暴力手段を取られたらさすがに危険だ。


「圭、急いで会長を探しに行こう」


 圭の腕を掴み移動しようとしたが、圭は動かなかった。動いたのは視線のみで、俺もその視線に従って顔をそちらに向けた。視線の先には、会長を先頭にして、三人の男子生徒が後ろについて歩いている姿があった。


 もう終わった後らしい。会長が普通に歩いているところを見るに、暴力を受けてはいなさそうだ。安心安心。


「いい所にいたな二人とも」


 会長は、存在を示すように大きく右手を上げ、俺たちに声を発した。

――ん? 怪我はなさそうだが、顔色は悪いような気がする。まあ、昨日遅くまで草むしりをして、今朝も早くに登校し草むしりをしていたのだろうから、疲労と睡眠不足で顔色も悪くなるか。


「なんだよ海斗、その後ろの三人は? 何かあったんなら、俺も混ざるぞ」


 圭は、わざとらしく指の骨を鳴らし始めた。正直、この動作で慄くこともないだろうと思う。だって、指の骨を鳴らすのって、やろうと思えば大抵の人が出来るわけだし。筋肉量とか、格闘技術とか、そういうのとは無縁なわけだし。


 俺はやらないけどね。折れたりしそうで怖いから。


「物騒な奴だな。何もないさ。ただ彼らが、俺に謝りたいと言うんでな」

「謝りたい? なんで? そいつら、何かしたんか?」


 圭は気付いていないか。

 それにしても、わざわざ会長に謝りに来るなんて、根は悪い奴らじゃないみたいだ。俺を馬鹿にしていた奴らも後ろめたさはあったようだし、どうも、この学校には良い奴なのに一時のテンションで人を貶したがる人間が多いようだ。

 同調圧力、の結果なのかもしれないけど。


「昨日の草むしりの要望は、彼らが書いたみたいでな。本当はどうでもいいことで、生徒会長を困らせてやりたかった、と正直に話しをしてくれた」


 後ろの三人が、ほぼ同時に軽く頭を下げる。


 登校すると、顔色の悪い生徒会長が土まみれになって草むしりをしている。良心のある者なら、その光景を見て胸が痛み、自分のせいで誰かが苦しんでしまっているのが明白になれば、それだけで自分も苦しむことになる。


 しかも、要望通りの結果付きだ。どうでもいいことだったために、なおさら目を背けたくなることだろう。


 真っすぐな会長のひたむきさが、道を外しかけた生徒の心を救った……なんて言ったら大げさか。


「事情は分かったけどよ、なんで俺たちの所に?」

「いやいや、圭。考えてみなよ、会長の性格」

「……あー。また馬鹿正直にこいつは」


 会長は、謝罪した男子たちに、俺たちが協力したことを話していた。そして、謝罪をするならあいつらにも、という会長の意向に沿って、彼らも俺たちの所へ出向くことになった。


 自分一人の手柄にでも出来そうなのに、正直に手伝ってもらったと、臆面なく言い放てるのは、さすがは生徒会長、いや、さすがは青川海斗、といったところか。


 男子三人が去って、残った会長は目線を逸らせながらもじもじとし始めた。しばらく待ってみると、照れ臭そうに謝礼の言葉が飛ぶ。この人、なんで俺たちにははっきりと物が言えないんだろ。


「距離が近い間柄だと、本心を告げるのは、その……なんだか、恥ずかしいだろ」

「「…………」」

「――なんだ?」

「いやいや、圭さん、今のどう思います?」

「うーん、海斗が女だったらなぁ、って悔しくなりますね」

「何の話だ!?」


 親しい間柄ではない者にはずけずけと言うくせに、身近な人間へはまともに本心が言えず、でも心の中ではいつも感謝しています……って。

 

 真面目眼鏡頭でっかちキャラに、萌えとツンデレをプラスだな。


「よく分からんが、そういえば思い出したことがあってな」

「なんだ?」

「要望の欄に【ハーレムを作ってください】なんてものもあったんだが――」

「――!?」


 あ。圭の目が泳ぎ出した。身体もそわそわし始めて、動揺しているのが丸わかりだな。


「ハーレムの定義って、何人からなんだ?」

「「…………」」

 

 あ。圭の目がどんよりと暗くなった。それから、少し顔色が青くなった。ばれるよりももっと、不安と恐怖に苛まれているみたいだ。

 会長、将来変な奴に騙されないといいけど――。


「ねえ、会長」

「ん、どうした? ハーレムの定義を知っているのか?」

「いや、それは知らないんだけどさ。あのさ、会長のこと、海斗、って呼んでもいい?」


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