08 騎士見習い (後)
「で、誰が代表なの?」
「そりゃー やっぱ班名発案者のコウヘイやろ」
「そうだ。絶対勝つから期待して待ってろ」
「でも、コウヘイさんは私用の杖とか剣……持ってないですよね?」
ユリアの言葉にアリアとエセ関西弁は固まる。
何で?
「コウヘイ! どうなの? 持ってるわよね? お願いだから持ってるって言って!」
「そや、練習用の杖なんかクズや、私用の杖と比べたらゴミや! やから私用の杖を持っているとゆうてくれ!」
「いや、持ってないんだけど」
ガ~ン!
流れる絶望の空気、アリアとエセ関西弁は顔を下へ向けて暗いオーラを放つ。
いや、訳わかんないんだけど。
「ねぇユリアちゃん、私用の武器ってそんなに強いの?」
「え、えぇ。貴族は名誉とかに固執しますから、学園など他の貴族と接する機会が多い場所では高級な杖を持たせて行くんですよ。だから学園などでは平等に評価するために練習用の杖・剣を各人に配布して、それで授業を受けるんです。
でも、賞品とかが懸かった大会の様な催し物やギルドとかでは私用の武器の使用が許可されているんです」
「なるほど、つまり。高級な武器だから大量生産品と比べると質が良いと」
「まぁ要するにそういう事ですね」
なるほど、いつの世も金か。
まぁ俺もその金を目当てに頑張るんだけど。
「まぁ大丈夫、武器の質なんて俺には関係ない」
「えらく余裕な発言ね、一体どこからそんな自信が湧いてくるんだか」
アリア、そんな恨むような目で見ないでくれ。
なんか俺が物凄く悪い事をした人間に見られるじゃないか。
「神様の加護があるのさ」
「はぁ? 神様の加護、私をおちょくってるの?」
「いや、いや、至って真面目な事さ」
「コウヘイ、ワイは金が欲しい。やから体調不良でワイと変われ」
エセ関西弁、お前お調子者的なキャラだと思ってたのに……そんな真面目な表情出来るんだな。
「大丈夫だって、俺の検査見てたろ?」
「でもあれって、故障じゃなかったんですか?」
アリアとエセ関西弁はジト目で俺を見てやがる。
く~ 見返してやるからな!
「いいや、実力さ。まぁ見ててよ」
あ~ 神様聞こえてますか~?
『はいはい、こちら神様。感度良好だよ~」
良かった。俺の実力って今どんくらい?
『う~んとね、各代表とあんま大差ないね。しかも武器の性能差もあるから……負けるね♪』
……あの~ もうちっと上げてくれませんか神様。
『無理、だって成長過程が面白いんだもん』
そこを何とか、お願いします神様。
『じゃあ後で私の前で女装して写真撮らせてくれる? あとビデオ撮影も』
いや、さすがにそれは…無理、かな。
『じゃあ負けてアリアにボコボコにされちゃえ~』
……分かったよ、女装でも何でもやってやろうじゃねぇーか!
『OK~ じゃあLV.UP!』
何も変わってないような気がする。
『大丈夫、戦えばわかるって。もうリミッターは外したから、最強だよ。じゃあ撮影楽しみにしてるからね~』
で、俺は今一回戦の相手と対峙している。
名前は、忘れたけど。
イケメンだからボコボコにしてトラウマ植えつけてやる!
もう絶対負けない! 絶対泣かしてやる! 失禁させてもう人前に出せなくしてやる!
「さて、この俺様に勝てるかな平民」
そんなお約束な台詞を言って如何にも"高級"そうな剣を構えるキザ野郎。
「ふん、お前なんかに負けるかよ」
「その生意気な口を利けなくしてやる! 凍てつく氷の雨、アイス・レイン!」
キザ野郎の周りに無数の氷柱が現れて、ミサイルの如く俺に飛んでくる。
「我、拒む」
バリィィン、氷柱はクッキーが割れたように散り、涼しい風が俺に届いた。
「いや~ 涼しいそよ風をありがとう。お礼に面白いものを見せてやる」
俺は人差し指を空に向け『我望む、業火の裁断者』と笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。
すると、空から灼熱の火柱がキザ野郎を中心に円状に落ちてきた。
「な、何だこれは!」
キザ野郎は見た事もない魔法にオドオドしている。
いい気味だ。
「何、面白い事さ」
「こ、こんな魔法は知らないぞ!」
「当たり前だ、俺のオリジナルなんだからな」
「なっ、魔法を作ったのか……」
「それより、注意しろよ」
と火柱を指差して丁寧に俺は注意する。
そうよく見ると全ての火柱上に悪魔の様な存在がいるのだ。
「悪魔、なのか」
「いいや、裁断者さ。さぁ裁断者よ、彼の者の剣を裁断せよ」
「バカが、この剣は賢者と呼ばれたウロロ・バウデルが三日三晩鍛えぬいた逸品だぞ! そう簡単に―――」
その瞬間、剣に炎が灯り。
豆腐のように綺麗に真っ二つに断った。
「なぁ、手間暇かけたら面白い物が見れたろ?」
「な、べ、弁償しろ!」
「やだよ、高そうだし」
「高いんだよ! 我が家の家宝だぞ! どうしてくれるんだ!」
「じゃあそんな物持ってくんなよ」
「ぐっ」
もっともな事言われて言い返せないだろ~
や~い 悔しいか? 悔しいだろうな、縁切られるかもな~
ザマ―見やがれ~!
まぁ、失禁させなかった分ありがたく思えよ。
「せんせー」
「あ、あぁ。勝者 七班代表、コウヘイ」
その後、二回戦の相手が腹痛を理由に棄権、準決勝の相手は立ち眩みでドクターストップ。
あっという間に決勝戦、相手はハイドなんたら君。
「さっきのアレはさすがの僕も驚いたよ、だが君は僕には勝てない!」
「あー はい、はい、救いようのないバカなんですね。分かりました」
「負け犬の遠吠えか? みじめだな」
いや、なんか話が噛み合ってないような気がするんだが。
まぁいいか、こういうバカには一発お見舞いして黙らせるのが一番だし。
「では僕の一撃をく『ジャッジメント・レイン』なんだ!」
光り輝く矢が空より雨の如くハイドなんたらに襲いかかる!
ハイドなんたらは固まって動けない、攻撃が当たったようだ。
ハイドなんたらの目の前が暗くなる。
ハイドなんたらは気を失ったようだ。
「せんせー」
「……勝者、コウヘイ。よって金貨10枚は七班の物だ」
「ようやったでぇ~」
「やった~ 洋服代ゲット~」
「あの魔導書が、ウフフフ」
各々に喜びを噛み締める仲間達、俺はやっぱ武器代かな。
神様の頼み事あるし。
『嬉しい事言ってくれるね、じゃあ頑張って御堕神(元神)殺してね~』
分かってるって神様、っていうか本当に暇なんですね。
『そうなんですよ。仕事ぜ~んぶ部下に任せたら暇で、暇で』
働けよ! なに仕事部下に押し付けてんの! 神様なんだろ!?
『神様ですよ、だから使える権力を使ってるんです。だって仕事ってダルイから』
……もう何も言いません。
『そうですか、じゃあまた会いましょう』
―予告―
第9話 グリードの森
野外実習という名のハントに出かけたSクラス、森で待っていたのは何と―――