48 帝国の使者
翌日、コウヘイが起きてみれば場内は騒がしかった。
何か"嫌な事が起こった"といよりかは、思いもしなかった客が来た感じだ。
ドアを開けて通りすがったメイドに聞いた話では、帝国から使者が来たとの事で、その対応に追われていた。
コウヘイは取りあえずマリアかシャーリーと話し為に、場内を歩いていると。
どう見ても、偉い人ですよ~ という格好をした女性を発見した。
「丁度いいや、お前。謁見の間まで案内を頼む」
と、開口一番の台詞がそれだった。
しかし、生憎とコウヘイは場内の造りに詳しくはなく、結局
「すいません。生憎と城の造りは分からなくて」
「なんだ。お前も客の類か?」
「はぁ、まあそんな所です」
「そうか。だが、客にしては大層な実力者だな」
(この人、バトルマニアの臭いがする!)
「どうだ。私と一手死合わないか?」
(言葉が物騒だ~)
「ジェリー皇女殿下! 探しましたよ。勝手に城内で迷子にならないでください」
「何を言うカイト、お前らが勝手に迷子になったのだろう」
「全く。早く来てください、国王様を待たせてどうするんですか、我々が訪ねてきたというのに」
ため息交じりに騎士の格好をしたカイトという男はジェリーを連れて行った。
ジェリーは去り際に、「いずれ戦場で」と、恐ろしく不吉な事を言い残して。
「笑えねぇーな」
―謁見の間―
やっと帝国のじゃじゃ馬姫の到着か、相変わらず自由奔放な性格をしている。
「それで何用かな?」
「言わなくたって分かってんでしょ、通らせなさいよ。珍しくフェルトもやる気みたいだしさ」
全く、簡単に首を縦に振れんという事が分からんのか。
ゼノンやギルバート辺りに何も言われなかったのか?
あの二人なら礼儀作法の注意くらいしてもいいものだが、時期が時期だけにその暇も無かったか。
「残念ながらすぐには返答しかねるな」
「言い訳は結構、王なんだkら独断しなさいな」
「部屋を用意しよう、今日は休まれよ。長旅で疲れたであろう?」
「チッ、ちゃんと考えとけよ」
ようやく引き下がったか。
「父上」
「マリア、あまり殺気立つな」
「すいません」
全く、この性格さえ直れば一皮剥けるのだが、まぁ今後に期待するか。
私も早く隠居したいな、胃が痛い。
しかし、本当に困った。
断れば帝国と国境で一戦交えるかもしれんし、許可すれば民が許すはずもない。
どうすればいいのか、戦ともなれば……実に三十五年ぶりか、私も年老いた物だ。
この年では最前線には行けんな。
「はぁ~」
―客室―
「殿下、あまり無礼な事は控えるようにとフェルト殿下に」
「うるさい。私はこういうのには向いてないんだよ! 兄上か姉様、ルーベンに来させれば良かったってのに…なんでアタシなんだよ!」
「そう言われましても、フェルト殿下がお決めになった事ですから」
「そもそも、あんな甘ちゃんに王が務まるのか?」
どうにも返答しかねる質問にカイトは黙り込む。
「まぁいい。明日には帰れそうだしな」
「王が許可すると?」
「いや、戦争だよ」
と、ジェリーは嬉々とした笑みを浮かべる。
―ユーウェル―
困った。
本当に困った。
何故戦争が起こったのだ。
私は何もしていないのに、いやいや、それ以前に人が争い死ぬなど、ミレ神が嘆かれる。
法王として何かできる事はないのか?
言葉を発した所で帝国には届かぬだろうし、公国も翁を亡くしたばかりで沈黙を貫くだろうし、打つ手なしか?
それともコウヘイ殿が何か事を起こすだろうか?
あの方ならば戦争の一つや二つ、どうとでも出来そうだが……政務官は外交で休む暇がない、枢機卿らも結界の構築に尽力しておられるし、私には何ができるのだ?
一体、何ができるという。
―コウヘイ―
あー 戦争の臭いがする。
こりゃー 近くでっかいのが起こるな、どうするか。
なるべく人は殺したくないが、最善の手は一つだけだしな~
どうしようか、本当に。
―次回予告―
第49話 加速する情勢
帝国、王国、教国の三国を取り巻く緊迫した情勢は一気に加速する。
進む先にあるのは、戦争か? 和平か? それとも―――