46 新しい法王と宣戦布告
邪神との決着がついてから五時間後、既に死んでいるが、法王名義で緊急の会議を開くという旨をこの国の中枢役職に就いている者たちへとコウヘイが報を送った。
そして会議場には教国の重鎮らが席に着いている。
教国の政府責任者の執政官。
ミレ教の13枢機卿ら(一席空席となっていたが、承認式を省略して新しい枢機卿が誕生している)
そして法王の席にはある男が座っていた。
「して、貴公は一体なぜその席に座っておるのかのぉ」
「いえ、私にも何故だか」
困惑する男の傍らにはコウヘイの姿があった。
「俺が答えてやろう、この男こそが次期法王…ユーウェル・アン・ミレ124世だ」
ユーウェル。
この男は以前コウヘイらが立ち寄った教会の神父だ。
そしてコウヘイの言葉に困惑する14人の人間。
「それは一体どういう事か、説明願おうか」
代表して執政官が口を開いた。
「簡単な事だ。前法王は禁忌を犯そうとしたからな、俺が断罪してやったわけだ。で、次の法王を決める権利は俺が有するって事で、俺はコイツを指名したってわけさ」
「法王になる為には、王室と皇室の承認が居るのを知っているので?」
「生憎どちらにもツテはあるんで問題ない」
「儂ら枢機卿一同は別に構わぬが」
枢機卿の一人が執政官に眼をやる。
「お前ら欲がねぇーのか」
「生憎とそういった物を抱ける程、もう若くなくてのぉ~ 信頼のおける若い者が就くというのなら、反対する理由などないのじゃよ。ユーウェル神父の評判は儂らの耳にもちょくちょく入ってきておったしの」
「で、執政官殿。返答をいただけるかな?」
「13枢機卿らが賛成しているのに、私が反対する理由がどこにあろうか」
「よろしい。では略式ではあるが、王国の第一王女に承認してもらおうか」
扉が開かれマリアの登場。
枢機卿らと執政官はすぐさま立ち上がり一礼、ユーウェルも慌てて立ち上がり一礼をする。
そして本当に質素だが、法王の承認がなされた。
まだ皇室の承認が得られていない為、法王代理という役職になってしまったが。
―帝都―
「では、ここに宣戦布告の承認投票を行う」
皇帝ゼノンは高らかにそう宣言する。
この場に居るのは、皇帝のゼノンに妃のマリー、第一皇子に第三皇子、第一皇女に第二皇女と第三皇女の計七名の皇族。
「私は賛成だ」と、ゼノン。
「同じく私も賛成に」と、マリー。
「僕も賛成に一票」と、ギルバート。
「僕は反対に一票」と、ルーベン。
「私も反対に一票」と、アン。
「アタシは賛成に一票」と、ジェリー。
この時点で賛成4 反対2と結果が明らかだが、投票は続行される。
「私は……賛成です」と、フェルト。
フェルトの賛成にこの場に居る誰もが驚きの表情を浮かべた。
何分あれほど反対だと思わせる素振りをしていたのだから、反対に投票すると誰しもが思っていたのだ。
「ただし」と、フェルトは言葉を続ける。
「私に今回の総指揮権を戴けますか?」と、皇帝ゼノンを見て言う。
「そんなバカな事、できるわけないじゃん!」と、第二皇女のジェリーは憤慨する。
「フェルト、いくら君でもそれは言い過ぎというものだよ」と、考えを改めるようにギルバートは促し、
「身を弁えるべきよ」と、アンは静かに憤り。
「フェルト……」と、ルーベンはフェルトを心配する。
「……」マリーは何も言う事無く、ゼノンに視線を向けた。
「理由を聞かせて貰おうか」
「理由はただ一つ……私が次期皇帝だからです」
その言葉に皇位継承権を持つルーベンを除く兄姉らは眼を見開く、何せ今まで皇帝の座に着く事を遠回しに拒んでいたのに、今になってそれを了承したのだ。
こうなっては自分が皇帝の座に着く事は完全に叶わなくなった。
暗殺。なんて手段もあるが、皇帝には代々公にはならない"ある部隊"が引き継がれており、内部の動向は全て把握している。よって暗殺など画策しようものなら"ある部隊"にばれてしまい、、皇帝より問答無用で罰が下るのだ。
実際、ゼノンの弟であるヘイド大公が暗殺を企てていたのだが、何故か計画の詳細までバレテしまい絞首刑となってしまった経歴がある。
「では、次期皇帝の座に就く事を了承するのだな?」
「はい。陛下」
「……よろしい。では、フェルト・バルトラ・ゼリッシュ。貴殿に今回の総指揮権を皇帝の名の元に与える」
兄姉らは『バルトラ』という部分に敏感に反応を見せた。
なにせ『バルトラ』の名を冠する者は次期皇帝内定者のみだからだ。
こうして次期皇帝、フェルト・バルトラ・ゼリッシュは誕生した。
そして、翌日。
教国からの法王承認許可の旨が書かれた書簡が届く前に、ゼリッシュ帝国はレイト教国へ宣戦布告をした。
―予告―
第47話 帰郷
宣戦布告の前にレイト教国を出国して、王国へ着いた一同を待っていたのは宣戦布告の事実、そして一同は―――