44 信仰を集める愚者の最期 (4)
変わり果てた法王の姿、瞳は黒と紅に染まり、背中からは異形の翼。
纏うオーラーはすでに人のものではなく、魔の者へと変わっていた。
〈j73hip@30k〉
「何言ってんのか分かんねぇーよ」
〈hufep8hnio;wfeqhui4!!〉
咆哮を上げて法王は口からビーム的なものを打ち出す。
「うおっ!」
それを横へ跳んで避けるコウヘイ、
「ソドムを焼きし焔を再現! 灼熱の焔戒!」
ゴウ…ッ!
と、焔は勢いよく法王を呑み込むがGYAAAAという叫び声と共に焔が四散した。
「俺は大概チートだと思ってたけど、お前はバグか? 今の結構自信があったんだけどな~ さすが邪神様ってか」
〈huip98ghpi!!〉
「だから、何言ってのか分かんないってんだろぉぉ! がぁっ!」
跳躍しての飛び膝蹴りが法王に決まり、法王の首が百九十度右に回った。
「げっ、ホラーだな」
だが、未だにうめき声を上げているようなので、御存命の様子だ、
そして法王の前方に黒い魔法陣が展開され、
〈ヘル・gyuo78!!〉
という叫び声と共に禍々しい黒い炎が魔法陣より射出される。
「……ッ! 展開、四方を守護する天使!」
コウヘイは慌てて言葉を紡ぎ、自分を囲むように白いラインを走らせ、天使の結界を構築と共に黒い炎が結界に到達、瞬間ヒビが入るが、こうなる事を予想していたコウヘイは冷静に次の言葉を紡ぐ。
「聖典『February』、第二編四章三節より抜粋! 守護する天使に神の加護を、敵に立ち向かう子らに大いなる恵みと全てを断つ父なる楯を与えたまえ! 顕現せよ、父なる聖楯!」
金色に輝く白い盾をコウヘイは手に持ち、結界には刺繍でもしたかのように金色のラインが新たに奔り、ヒビは消え去った。
「焦ったじゃないか! 畜生が!」
少し涙目のコウヘイだった。
今の一撃は神すらにも傷を負わせることができる一撃だったのだ。
少しずつ邪神の意識がはっきりしてきた為に、法王(邪神)の強さはレベルアップしてしまった。
〈久シブリニ、外ノ空気ヲ吸ッタゾ。ガキ〉
「あー 邪神?」
〈如何ニモ、邪神ノ■■■■■■だ。? ドウヤラ、コノ世界デハ俺ノ存在ハ許サレテナイヨウダナ〉
「じゃあとっとと還れよ、在るべき場所に…っと、その前に元神の居場所教えてくんない?」
〈俺ニ勝ッタラナ、小僧!〉
『ヘル・フレイム!』
「効かないって、ソレ!」
まだ展開している結界と楯によってやり過ごせるように思えたが、数秒で均衡は崩れて一気にコウヘイを包みこんだ。
「グアァァァァ! グゥゥゥ、聖水ィィ!」
コウヘイの断末魔の様な声と共に、コウヘイの真上に黒い穴が空いて水が流れ出て、黒い炎をかき消す。
「ハァハァ、ゴホッ!ゴホゴホ、ふぅー」
息を整えつつ、焼き焦げた皮膚は再生を始めた。
爛れた肉も、皮膚も、炭化した腕すらも、塗り潰すように以前の状態に戻っていく。
「これ結構痛いんだよなぁ、術式から痛みだけは消せなかったからよぉ」
呪う様に低い声色でそう文句を言うコウヘイ。
「今ノデ殺セナイカ、低級ノ神ハ殺セルンダガ」
「生憎と、俺に憑いてる神様はかなり偉いらしくてな」
「ソノヨウダナ」
「さっき思い付いたんだけど、神殺しの剣ってネーミングセンスはいいと思うんだ」
「?」
「って事で、我が手に宿るは神殺しの概念を宿す聖剣!」
「!!」
「行くぞ邪神! 死ぬ覚悟はできたか、俺に痛みを感じさせた代償は高いぞぉぉ!」
―用語解説―
『February』
February=二月
テージニア大陸でポピュラーなミレ教の聖典の一つ。
二月に起こったとされる人と神らと悪魔達の戦いを描いたもので、概念魔法で多用される聖典。
使用できるのは一部の実力者のみ。
―予告―
第45話 信仰を集める愚者の最期 (終)
邪神との戦いはクライマックスを迎える―――が、世界は止まらない。
動き始めた歯車を止める事は、神すらも叶わぬ。