41 信仰を集める愚者の最期 (1)
―法王執務室―
「何だ今の叫び声は!」
「は、はい! 詳しい事は分かりませんが、騎士団が壊滅したとの一報も……」
「な、何!?」
「落ち着け」
慌てる部下たちに法王は落ち着きを取り戻す様に促し、一呼吸おかせた。
「我々には神器があるのだ。心配する必要はない」
法王は毅然とした態度でそう告げる。
その姿は"王"たる資格を有する者独自の雰囲気を身に纏っていた。
「そ、そうですな」
しかし法王も内心は不安が燻っている事に気付いていたが、部下の手前そんな顔もできるはずもなく、ただただどう事を運ぶかを再度考える程度に留めた。 それが『神器』という人の身に余る力を手に入れた慢心だとも気付かずに。
「して、神器の方は?」
「はい。『殲滅姫』 『終焉を運ぶ王冠』 『神殺しの杖』全て降臨の石碑に納めました」
「そうか、ではあとは聖人の到着を待つばかりだな」
「えぇ、まさか王国の聖人がノコノコとやってくるとは思いもしませんでしたが」
「これも主の御導きだ。それに我々の聖人の到着は明日の予定だったんだ。時が早まるのは良い事だろう、だが王女殿下の始末はできなかったか」
「はい。シャーリー王女殿下はいまだ健在の様です」
「あの方が亡くなればマリア殿下は御しやすかったのだがな、真に厄介なのはあの能無し王女だからな」
法王の不安はまた一つ募る。
―城下―
「クシュン!」
「どうしたシャーリー、風邪か?}
「いや、違うと思うんだけど。なんか寒気が」
シャーリーもまた違う不安を感じ取っていた。
「大丈夫か? 今から老害共のトコに乗り込むってのに」
「そうやで~ 風邪引いた美少女が豚共の前に出たらイケナイ事さ―ブフォッ!―」
マリアの鉄拳がエセ関西弁の右頬に炸裂した~!
エセ関西弁は最後の抵抗と言わんばかりにマリアの胸にソフトタッチして地面に崩れた。
しかし、「ッ~! 貴様ッ!」と顔をゆでダコのように真っ赤にしたマリアに踏まれるエセ関西弁。
この時、何故かエセ関西弁は笑みを浮かべていた事にコウヘイは気が付き、そっちに目覚めない様に静かに祈りをささげたりした。
「さて、この世の癌(エセ関西弁)を排除したし、行くか」
(マリア、いささかそれには無理があるんじゃ? 一応仲間だし)
マリアの制裁により一名脱落となってしまったので、荷馬車で介護役が急きょ必要になったので、ユリアとアリスが介護役兼護衛役となった。
「あ~! 癒し成分がァァァ! 俺の楽園がァァァ!」
と、コウヘイは半ば狂った痛い人の如き叫び声を上げながらマリアに引きずられて行かれた。
「お姉ちゃん、コウヘイさんどうしたんだろうね?」
「そうね、緊張でもしてるんじゃないの? (クソッ、まさかコウヘイ…ユリアの事を!?)」
メラメラと炎を焚くアリス、この時コウヘイの背中に電撃が走った事はコウヘイしか知らない。
―城門―
その衛兵は信じられない光景を目の当たりにしていた。
いつもと変わらぬ時間を過ごしていたはずだった、だが突然姿を見せた美しい二人と、所謂イケメン一人が、鉄壁と言われたこの門を守護する教会騎士団第三守衛部隊の面々を汗一つ掻かず、息を乱すこともなく、涼しい表情で無力化していく様を理解できなかった。
そして何処にでも居る様なモブキャラAの衛兵は意識失う。
「メッチャよわ!(笑)」
「確かに、これが噂に聞く鉄壁とは思えんな」
「あれじゃないですか? 噂の独り歩きっていう」
「「あぁ」」
シャーリーの言葉に納得した両名、よくよく考えてみれば『ミレ教総本山』の門を守る衛兵らが戦って(・・・)負ける(・・・)何て事ありえないのだ。大陸に住まう殆どの人々が信仰する宗教なのだから、誰が好き好んで戦いを挑もうか。
「コウヘイ・タカバタ、○○○ム 行きます!」
「「???」」
―法王執務室―
「今度は何だ!」
「た、大変です! 門が突破されたと!」
「! それで、『賊』はどのような者たちだ?」
法王はコウヘイらを『賊』と明確に位置付けて衛兵に聞く。
「はっ! 報告によれば、美しい女性が二人に…と男が一人です」
「どんな手段を使っても止めろ、あと…聖人殺しの聖具、対悪魔殲滅用聖具の使用を許可する」
「せ、聖人殺しの聖具…ですか?」
「あぁ、女の片方は聖人だ。それは間違いない」
「し、しかし、という事は…あのお方たちは」
動揺を隠せない兵士に苛立った法王は
「侵入者は『賊』だ」
と言いきった。
「は、はいーッ!」
法王の迫力にけおされて衛兵は執務室を出た。
「法王様、まだ準備の方は」
「分かっている。いざとなったら私も前へ出る」
すでに法王の計画は狂い始めていた。
いや、コウヘイというイレギュラーが現れた時点で法王の計画は破綻への道を歩むことは決定していたのかもしれない。
―次回予告―
第42話 信仰を集める愚者の最期 (2)
法王はついに前線へと姿を現す、その身に神殺しの聖具を宿して―――