39 大国の威信
―帝都ゼノン・地下会議室―
「陛下、フェルト姫様が御着きになりました」
「うむ、これで皇族は大方揃ったな」
皇帝、ゼノン・バルト・ゼリッシュを頂点に、第一皇子、第三皇子、第一皇女、第二皇女、第三皇女たるフェルトが集まっていた。
「陛下、今回の召集は報復の件について。で間違いないのですか?」
「フェルト、お前が争い事が嫌いなのは知っているが、今回ばかりは戦いは避けられんのだ」
「しかし、相手はこの大陸でもっとも信仰されているミレ教の総本山なのですよ? 戦いを仕掛ければ……」
「言いたい事は分かるがな、もう話し合いで解決するには…超えてはならん一線を越えてしまっているんだ」
ゼノンの言葉には皇帝たる威厳が圧し掛かり、フェルトは言葉を紡ぐのをやめてしまう。
「陛下…いえ、この場ではあえて"父上"と呼ばせてもらいます。父上、まさか"ディズ"の仇打ちを取ろうなんて露程も思っていませんよね?」
第一皇子は睨みつける様な眼でゼノンに尋ねる。
「当たり前だ。皇帝が判断を下す時は全て国の為だ。私情が入る余地は一切もない」
「安心しました。それで報復の具体的内容ですが―――」
「んなの、妄信ジジィ共を一匹残らず吹き飛ばしゃーいいじゃんかよ」
紅い髪で大胆なドレスに身を包む二十代くらいの女性が声を上げた。
「ジェリー、君は相変わらず口が悪いね」
「兄上ほど人間出来ちゃいないんでね、それにアタシは戦う事しか能のない女だからさ」
何が悪い。と開き直るジェリーだが、
「ジェリー、場を考えなさい」
眩しい笑顔で第一皇女、アンは言うがその眼は笑ってなどいなかった。
「ね、姉様……すいません」
先程までの威勢は何処へやら、ションボリと背を丸める様子はつい数秒前までは予想もできない光景だ。
「兄上達は相変わらずだな~ ねぇ、フェルト」
「ルーベン、貴方も大概イイ性格してるよ」
こうフェルトに切り返させたのは、フェルトの双子の兄であるルーベン。
性格はのんびり屋だが、しっかりとした一本の芯を持っている。
「家族の団欒の時間ではないのよ!」
突然会議室に憤った怒りを含む声が上がった。
「マリー、ようやく来たか」
「えぇ…あの子と最後の別れを、ね。それより、貴方達いい加減にしなさい」
「ふぅ~ 全員揃った事だ、本題に入ろうか」
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「では、そう言う事で皆異論は無いな」
「「「はい」」」
「えぇ」
「了解~」
「……」
「フェルトは不服そうだな」
「……これで終わりでしたら、失礼させてもらいます」
そう言ってフェルトは席を外した。
―次回予告―
第40話 皇女の憂い
皇帝による報復案を聞かされたフェルトは一人悩み、自身の騎士へ助言を請い、覚悟を決める。