38 教会騎士団
―法王執務室―
「法王様、『終焉を運ぶ王冠』は正常に作動したようです」
「そうだな、念のためもう一度放て」
「心得ております。しかし問題が一つ」
「? なんだ」
「王国の聖人が数名の人間を引き連れて街に入ったとの報告が」
「それは、厄介だな。王女殿下には悪いが…始末しろ」
「かしこまりました」
執務室でそんなやり取りがなされた後、教会騎士団と呼ばれる教国の固有戦力は首都へ散りばり、捜索を開始した。
動員された教会騎士は三百人を超し、一般市民にも「法王の命を狙う者」として見かけたら騎士団に知らせる様に伝達され、教国首都に包囲網が敷かれた。
それに感づいたコウヘイ一同は馬車を覆う様に阻害認識の結界を張って難を逃れていた。
「ますますメンドクサイ事になって来たな、やっぱ枢機卿殺したのは不味かったか」
「そりゃー そうやろ、一応あんなんでも教会の最高意思決定機関の一員やし」
「そうですね。汚職疑惑で有名でしたけど」
「ユリアって意外と容赦ないわね」
「そんな事ありませんよ」ニコッ
相変わらずユリアの笑顔は可愛いな、今度思いきって告白してみるか?
でも断られたら俺…立ち直れる自信ねぇーな、うん。やめとこ。
「コウヘイの張ってくれた結界で難を逃れてるけど、この後どうするの?」
「ここは一旦街を出るべきだろう、王剣を取り返す為の作戦を練った方がいい」
「じゃあ馬車はココに置いて行かないとな、音でバレる」
「その必要は無いぞ!」
全員が声の方へと視線を向けると、純白の鎧を身に纏い、血の様な赤いマントを靡かせる金髪の女性が立っていた。
「おかしいな、見えないし、聞こえないはずなんだけど」
「私は聖人だ。侮って貰っては困る」
この世界では聖人はチートなのか、マリアといいコイツといい、いや…女だから! 女だからなんだな!
あの男の聖人は俺の殺気に当てられて泡吹いて気絶したし、やっぱ女は怖いわ。
侮っちゃイカンナ本当に。
「御忠告どうも聖人の騎士殿。で、何ようかな?」
「貴様たちを捕縛、又は殺せと命令が出ているのだ。おとなしく捕まれ」
おいおい、捕縛は分からん事ないが…王女がいるのに殺せはないだろ、何考えてんだ教会は。
「それは無理な話だな」
あっ、マリア…荷馬車から降りるなってあれほど言ったのに、降りるなよ。
「! まさか、王国の王女殿下が御一緒とは…法王様の御命を狙う理由は何です? 戦争でもしたいので?」
「先程の光…あれが何か知っているか?」
「さぁ、ですが私達が知っているのはただ一つ、法王様は正しい事をしている。という事のみです」
妄信か、どんだけ法王LOVEなんだよ。
所詮ただの人間だろうに、神にでもなったつもりかねぇ。
「そうか。だが、だからと言って他人の者を盗むのは良くないだろ」
「我らは法王様を守る為の剣です」
はいはい、言いたい事は分かるけど剣を抜くのはやめましょう。
肉体言語とかダメですよ、俺が言うのもなんだけどね。
怖いの、ホント女の喧嘩はそりゃーもう目を瞑りたくなるほど怖いの、だからお願い。
ただでさえ怖いのに、それが聖人とか(笑) 冗談じゃ済まないって、トラウマ物だって。
「ならば」
「尋常に」
「「勝負!!」」
ガキンッ! とマリアと女騎士は剣を交える。
袈裟、逆袈裟、突き、と聖人特有のバカ力を余すことなくフル活用、そのせい風が目にしみる。
「はぁぁぁぁ!」
マリアは地面を一蹴りして女騎士の懐に潜り込む。
だが、「甘い!」と、女騎士は言い、真上へ跳んだ。
「奔れ、雷―――」
キュンッ…バァァァン!
また教会から光が西の空へと飛んで行った。
「あれはどう見ても攻撃…だよな。はぁ、なんか本格的にヤバイ気がして来たから、アンタには眠って貰おうか、聖人」
俺は横に手を振ると、糸が切れた人形の様に着地した女騎士は地面に崩れた。
そして漸く女騎士の部下らしき騎士達がぞろぞろとやって来た。
「さて、もう穏便とかめんどくさい方向は無しで行こう。俺らしく正面から入る」
そして俺は言葉を紡ぐ「闇は安堵を生むゆりかご、闇は覆い隠す神秘、闇は奪い取る悪、"神秘の誘拐"」すると、影が騎士達を掴んで影に引きずり込んだ。
さぁ宣戦布告の花火を上げようか。
「"解放"」
すると、上空十メートルくらいの所に穴が開き、「ぎゃあああ!」と醜い声を上げながら数十人の男が地面にキスしようと落ちた。
「汚い花火だぜ」
―予告―
第39話 大国の威信
コウヘイが宣戦布告の花火を打ち上げた頃、帝国では皇族が集まり会議を開いていた。その席にはフェルトの姿もあり、彼女は父である皇帝の選択に疑問を呈する。