34 教国の暗部
日が落ちてからどれくらいが経っただろうか、私の名前はシェリー。
今、私はデロベセット枢機卿の依頼である物を盗み、枢機卿に手渡す為、教国内の枢機卿別宅へ向けて馬を走らせている。
「なぁ、報酬少しくらいは色を付けてくれるだろうか?」
この難いのイイ男は、ユウリという元奴隷。
その図体で奴隷闘技場を繁盛させていたらしいが、縁あって枢機卿に雇われたのだとか。
「さぁ、ミレ教の枢機卿共はガチガチの脳みそを持っているますからねぇ。報酬は変わらないでしょう」
この男はミレ教ではなく、イベルト教なる辺境の宗教を信仰しているらしい。
軽口なのは良いが、毒舌なのが偶に傷だ。
「枢機卿の前ではそういう事言うなよ?」
「分かってますよ。依頼主の癇に障って報酬をケチられたら元も子もないですからね~」
「そうだな。さすがにお前も分かっているよな」
「えぇ勿論、でないと御二方に何をされるか」
「ぎゃはははは、分かってるじゃないか!」
「うるさいぞ、あまり目立つような事は控えろと……ッ!」
「んな事言われてもよぉ、俺の図体は目立ちまくりだぜ?」
そう言われると返す言葉もない。
!
「もう追いついて来たぞ」
「意外と速いですねぇ」
「御託はいい、飛ばすぞ!」
「「応ッ」」
「いや~ コウヘイにはホンマ驚かされてばかりやわ~」
「そうよ。こんなに早く馬車を走らせる事が出来るなら最初からしなさいよ!」
「「ZzzzZzzz」」
「アリス、あまり大きな声を出すな…二人が目を覚ましてしまうではないか」
「ご、ごめん」
「あ~ それにしてもホンマ、癒されるわ~」
ギラッ!
「え、え~と。あれやわ、かわええから」
キュイン…ドーン!!!
「「ZzzzzzZzzz」」
「幸せそうに寝てんな~ おーい生きてるかー?」
「な、何とか」
「全く、そんな目で見ないでほしいわ」
「同感だ。シャーリーを視るな」
「視るなって、幾らなんでも酷いわ~」
「あんまり騒ぐなよ、気取られるだろ?」
ここが枢機卿別宅、ホント金持ちってのは癇に障るわ。
これが本当に神に仕える者の家?
豪華絢爛すぎよ、もっと貧相でもいいでしょうに。
「待て! 何者だ」
全く、門番風情が邪魔してくれんじゃないわよ。
「私達は枢機卿に雇われたサーカス団よ?」
「…あぁ、そうか。失礼した。通ってくれて構わない」
センスのない合言葉よね。
さて、これで一先ず依頼達成ね。
「なぁ、あれが枢機卿別宅か?」
「そうだ」
「ありゃー ちょっと豪華すぎると思うのは俺だけだろうか?」
「いや、ワイもそう思うで。ミレ信徒として恥ずかしいわ~」
「わ、私も少しそう思います」
「ふん。どうせ暴れんだから壊せばいいじゃない、別宅なんだし」
「そうだな。私も少々苛立って来た。本宅が無事なら別宅ぐらいかまわんだろう」
おいおい、壊す事前提で話が進んでいるんだけど、この人達…隠密行動取る気ないのか!
正面からカチコミですか!?
今時そんなまっすぐな戦法とらねぇーよ、マリアならそれくらい分かるだろ?
聖人だし、騎士達からも信頼厚そうだし、頭良さそうだから!
それにユリアには似合わないし!
暴れるユリアなんか見たくない、それ以外なら視ていたいけどね!
「よし、状況を開始する」
マリアさん、アンタカッコイイよ。
「よくやった。褒めてつかわそう。ほれ、これが報酬じゃ」
膝をついて首を垂れる私達、コイツ…どこぞの王族にでもなったつもりか……ッ!
腹立たしい、甘い汁だけ吸う害虫が、こんな輩が居ると思うと法王様の気苦労が心配だ。
(あまり気を荒立てないでください)
(分かっている。だがな、私の様なミレ信徒かすれば…コイツは)
(そこを抑えろ、こんな所で捕まるなんて俺はごめんだぞ?)
「もう良い、下がれ」
「はい。では、これで失r---」
「よし、コウヘイ。一発大きいのを頼む」
「あ~ はいはい。久々にいっちょ頑張りますか」
俺達が今いるのは別宅の敷地を囲む塀の外、俺の一発で塀をぶっ飛ばしてカチコミするそうだ。
まぁなんとかユリアを参戦させるのだけは阻止できたから俺はどうでもいいけど。
「え~ また私は留守番?」
「仕方ないだろ、ユリアを残していくんだ。非戦闘員とユリアだけじゃ心許ないだろ」
「うっ…それはそうかもしれないけど」
「お姉ちゃん、ごめんなさい」
「ゆ、ユリア。いいのよ、私は気にしてないから」
涙目のユリアも可愛いな~
よっしゃ~ 癒し成分補給完了!
右手を掲げて~
「罪ある者には罰を、求める者には救いの手を、断罪の刃を構成し、立ち塞がる壁を払え、"天使の断罪刃"」
いっきに振り落とすと、あーら不思議。
まばゆい光の刃が、塀を、建物をブチ壊したじゃ、あ~りませんか。
どうよ、俺のオリジナル魔法。
最強の名は俺の欲しいがままさ。
何だ! いきなりバカデカイ魔力を感じたと思ったら、この建物が崩れたじゃないか、攻撃か?
いや、しかし仮にもここは枢機卿の土地だぞ。
そんな無粋な輩が……そうか、追っ手か。
あいつら、まさかこんな強引な手に出るとは……。
「クソ。おい貴様ら、追加報酬を出すから不届き者を蹴散らして来い!」
(おい、どうすんだ? アンタがリーダーだろ)
(私としては追加報酬は欲しいですが―――)
(あぁ、敵は桁違いに強いぞ。さてどうしたものか)
「聴いておるのか!」
「はい。では先払いでお願いします」
(絞り取れるだけ絞り取って、死んでもらおうか)
「まぁよかろう」
そう言ってもう一袋投げ渡してきた。
くくく、脳みそはすでに腐りきっているようだな、これで法王様の悩みだねも一つ減るだろう。
「よし、行く(にげる)ぞ!」
「「応!」」
この時は思いもしなかった。
追加報酬など求めず、さっさと逃げておけばよかったとは。
―予告―
第35話 枢機卿の思惑
数教別宅へ乗り込んだ一同は、神父の話していら人相と一致する三名と出会う、そして枢機卿の手には一振りの剣が―――