31 聖人VS聖人
「何者だ?」
オーディル候は突然の乱入者に冷静な対応を見せる。
一方マリアは少し、というかかなり機嫌が悪いらしく。
「どけ、斬るぞ?」
とドスの効いた声で脅す。
だが、地形が変わってしまうほどの戦闘をこんな間近でされては堪ったもんじゃないので、引き下がるわけにはいかない。
「あのな、お前ら聖人だろ? そんな二人がぶつかってみろ、ここいらは吹っ飛ぶぞ?」
「何を言っているのかしら、貴方怖いの?」
なにあの姫さん、怖いに決まってるじゃん…っていうか貴女は怖くないんですか?
「怖いですよ、何せ―――」
「御姉様、がんばって~!」
シャーリーの言葉を聞いたマリアの目の色が変わった。
そして溢れんばかりの魔力が…噴き出した。
聖人怖っ! これ、下手したら俺より強いんじゃね?
「行くぞ! 王国の聖人!」
「来い! 帝国の聖人!」
互いに一歩踏み出しただけで、その恐ろしい脚力で剣を交えた。
俺はなんとか後ろに跳んで凌いだが、この人達……俺の事無視してたな。
なんか、俺って存在感薄いのかな~
両者は一合、二合と剣を交えていくうちに、その衝撃で地面は抉れ、木々は木っ端みじんになり、水面には波紋が広がり、空間は振動する。
まぁ俺が魔力で人体保護の防御魔法を掛けてるから人的被害は無いけど、これ立派な環境破壊だよな。
「うぉぉぉぉ!」
オーディルは袈裟切りを仕掛けるが、マリアは靴裏に魔力コーティングを瞬時に施し剣を蹴って空中に舞い、カウンターを仕掛けるが、オーディルは見切っていたぞ! と言わんばかりに後ろへ下がり、マリアの一撃を解する。
しかし、マリアもあきらめずに「奔れ雷光!」と魔法を繰り出す、負けじとオーディルも「爆ぜよ、炎光!」と魔法で迎え撃った。
そして両者一定の間合いを取る。
睨みあうその視線は魔物すら殺せるレベルの物だった。
周囲の地形は最早原形をとどめておらず、隕石でも落ちたのかな? なんて思えてしまう。
「はーい そろそろストップ!」
「止めるなコウヘイ!」
「そうだぜ、横やりはよろしくないな」
「何言ってんの、マリアはこの国の王女でしょ? 何王族みずから国の地形変えてんの、それにそっちの騎士は何他国で暴れてんの? 戦争したいんですかこの野郎」
「「……」」
「そんでそこの姫さんにシャーリー、アンタらが止めんでどうするよ?」
「でも、アイツがムカつくもん!」
「私だってアンタを見てると、ムカつくわよ!」
バチバチ、っとこの二人も火花を散らせてる。
あれか、これは前々から仲が悪いってパターンだな。うん。
何があったかは何か想像つくけど、そこ突いたらもっとややこしくなるだろうし、はぁ~
「とにかく、二人は剣を治めろ……戦争は嫌だろ?」
最後だけ出来る限りの殺気を放って言ってみる。
だってこうでもしないと、俺の存在感がないじゃん!
それにマリアとオーディルなんてビクンて体震わして、マリアなんか「ひゃう」って可愛らしい声出しちゃって、オーディルはあれだ、なんか気失ってた。
やっぱマリアって強いんだな、これから気を付けよ。
っていうか最初からこうすれば良かったんじゃねぇ?
「でも、どうするんですか? これ」
ユリアが辺りの有様を見て言葉を漏らす、確かに……『精霊の湖』なんて立派な名前を付けているんだから、観光地だったのは間違いないよな、向こう側にコテージっぽいの見えるし、それに近くに街っぽい気配も感じるし、元に戻した方が色々と都合がいいよな、たまにはいい事もしないとダメだよな、せっかくそれだけの力があるんだし。
「我願い、神の業を用いて奇跡を起こさん、"現象復元"」
白く、神秘を感じさせる粒子が俺を中心に辺りに拡散すると、何事もなかったかのような風景が広がった。
完全に、寸分たがわずに戦闘前の風景がそこにあった。
コウヘイを除いた一同はあまりの出来事に言葉を失っていた。
そしてこう思った。
(((((これなら、命すら創れるんじゃないか?)))))
そう思われている当の本人は、
(中々の出来栄えだ)
と、満足げに頷いていた。
「さてと、姫さん。詳しい話を聞かせて貰おうか?」
―予告―
第32話 帝国の姫君
事情を聴く一同に、帝国の姫は思い口を開いた。