21 エリーゼの攻防
エリーゼと呼ばれる街は商業都市として有名だという話だった。
陸路で王都に物資を運ぶ際に必ず通るルートだからだそうだ。
エリーゼには宿泊所や商会の支部、生活に必要な物すべてが揃っていて、王都より便利なんだとか、治安も騎士団を派遣して安定していて、教育設備も整っており、移住の申請が年中ある。というのがシャーリーの説明だった。
だが、目の前には変わり果てた街しかない。
あちらこちらから黒煙が上がり、数メートルほど前方には惨殺された死体、中には脳らしき物が垂れているものすらある始末だ。とても治安が安定していて名高い商業都市なんてものじゃない。
「どうなってるや」
「そんな、うっ」
「エリーゼで、暴動?」
「ありえん、騎士団は何をやっている……ッ!」
「御姉様、統括官の所へ行きましょう」
全員が驚きの表情を浮かべていた。
俺からしてみればエリーゼの第一印象は最悪の一言に限る。
他の奴らは何回か来た事ある風な感じだ。
たぶん、本当は活気があったんんだろうな、俺もそんな時に来たかった。
「でも、そうは行かないみたいだぞ」
俺は前方を指さす、そこには武装した民間人らしき集団がいた。
中には騎士甲冑を身に着けている者もチラホラと見える。
「クソ、騎士ともあろう者が暴動に加担するなど……ッ!」
「おい、マリア落ちつけよ。ここは穏便に逃げようぜ、非戦闘員の事も考えろ」
「うっ」
ちなみに非戦闘員というのはシャーリーの事だ。
攻撃系魔法はてんでダメで、防御魔法も怪しく、唯一評価できるのは治癒魔法だったので、非戦闘員と俺が命名した。
「分かった。と言いたいが逃がしてはくれそうにないぞ?」
「コウヘイ! ぎょうさん撃って来たで!」
空には無数のファイアーボールやウォーターランス、地面からはグランドンニードルがこちらへ向かって来ていた。
「ちっ! マリアは特攻、アリスはここを守れ! 俺は攻撃を落とす!」
「任せろ! 我が剣の錆にしてくれる!」
「任せなさい!」
マリアは剣を構え、聖人の力を全開にし、前方へ跳躍して特攻、その際にグランドニードールを一掃した。
マリアのおかげで俺は空から降ってくる物に狙いを定め、手を空へ向ける。
「朽ちて無へと帰せ、"物質回帰"」
俺を中心として、空間に波紋が広がると攻撃魔法は全て最初から無かったかの様に、存在を消した。
いや、性格には魔力に戻しただけだが、それでも敵は驚愕の表情を浮かべて動く事を忘れてしまう。
そしてマリアはその卓越した身体能力で次々と驚愕している敵を無効化していく、命を刈り取るのは騎士のみ、暴徒と化した一般市民は意識を刈り取るだけに済ませている辺りが王の器ゆえか。
そしてざっと見まわして敵を呼べる者が居なくなった事を確認すると、シャーリの案内で馬車を進ませる。
目指すのはエリーザの統治を任されている統括官の所だ。
その道中、何度か暴徒と出くわすがマリアが難なく無効化してくれる御蔭で差ほど時間をかけることなく、統括官が居ると思われる建物が見えてきたのだが。
「あれ俺ら入るの無理じゃね?」
「ワイもそう思ったとこやで」
「で、でも行かなきゃ……ダメ、なんですよね?」
「わ、私としては、反対。かな」
「お、同じく」
「何を言っている、前からダメなら後ろからだ。それも無理なら、上から行けばいいだろう」
((((いや、それは貴女とコウヘイだけでしょ!))))
「おー ナイスアイディアだ。それで行こう」
((((だから、それは無理だってば))))
「でも、俺とお前しかそれはムリだろ?」
「いや、二人ずつ担げば問題ない」
「なるほど、でも振り分けは?」
「お前にはエセ関西弁とアリスを、残りの二人は私が引き受ける」
「大いに納得いかないが、まぁ事態が事態なんで妥協するか」
「ちょ、ちょ待ち! 馬車はどうするんや! 運べんやろ!?」
(ワイは嫌や、担がれるんやらマリアさんの方がえぇ!)
「大丈夫だ。俺が結界張って認識阻害魔法かけるから」
(わ、ワイはもう終わり。か)
何でコイツは落ち込んでんだよ。
俺だってお前やアリスなんて担ぎたくねぇーよ、マリアが羨ましくて堪んないよ。
だがなぁ、俺だってガマンぐらいできるんだよ!
「よし、馬車はこれで大丈夫だろう。ほれ、二人はよ来い」
アリスとエセ関西弁は渋々俺の手招きに従い、二人を担ぐ。
「俺は一蹴りの跳躍で行けるけど、そっちはどう?」
「問題ない、行くぞ!」
一秒後、さっきまで六人のいた場所には砂埃が俟っているだけだった。
その頃六人は人類が夢見た空にいた。
スタン。
無事、統括官がいると思われる建物の敷地内に着地。
にしても、高い壁だな~ 魔法障壁まで張ってあるよ。しかも三重ときた。
まぁ純粋な脚力で超えれる高さじゃないからな、俺らみたいなの以外は。
「で、統括官ってのは本当にいるのか?」
「そのはずです。ここはエリーザの政治中枢の役割を果たしてますから」
「でもよー」
「人気が全くあらへんで?」
「おそらく地下に潜ってるんだろう、門を閉じて障壁を張ればそう簡単に中には入れんからな」
「俺らは以外はってか」
しばらく歩くと、避難用の扉が見えたのでノックしてぶち破った。
が、中にも人の気配は全くなかった。
「地下にはどう行くんでしょうか?」
少し声を震わせながらユリアはマリアに質問する。
マリアは顎に手を当てて少し考えると、
「確実なのは統括官の部屋からの直接避難口経由だな」
「という事は、まずは統括官の部屋へ向かうちゅう事やね」
「階段を登れって事ね。ユリア、大丈夫?」
「へ、平気です」
少し顔色が優れないが、まぁスプラッタな光景を目の当たりにしたんだから仕方ないか。
シャーリーも。
まぁ、この先も見ることになるだろうし。
いい経験。かな?
しばらく階段を上ると、『統括官室』とプレートが埋め込まれているドアを発見。
中に入ると、避難口らしき入り口を発見。
本棚か。
「よっぽど慌ててたんだな、閉め忘れてるよ」
「あぁ、情けない」
「ワイでもこんなドジ踏まんで」
「ほんと、男は情けないわね」
本棚をくぐると、ちょっとした小部屋になっていた。
「この床の魔法陣を使っての移動だな」
「確か魔法陣の移動って、バカげたくらい魔力使うけど、短距離しか移動できなかったよな?」
「あぁ、大かた地下だ」
「で、誰が魔力行使するんだ?」
あのー 何でこの場面でみなさん俺を見るんでしょうか?
おーい 唯一の癒し成分のユリアまで、そんなに俺は規格外か!
『そりゃー そうででしょ、私でもそう思うもん』
あーあ、結局俺か。
『おーい 無視しないでよ?』
は~ 仕方ないな、やるか。
『むぢぢないでよ」
あー 解りました無視しませんから、なくのやめてください神様。
『だっで、はぢめでむぢされて』
あー 俺が悪かったですよ。
『なら、いいけど。もう無視しないでよ?』
はい。でも今は忙しいんで、また今度って事で
『分かった。今日はもう帰る』
「だんだん幼稚化してないか、神様よ」
「? 何か言ったか?」
「いえ何でも、じゃあ行きますよ」
俺は魔力を魔法陣に流し込む。
すると、魔法陣は淡い紫色に輝き、次第に場の空間を捻じ曲げる。
シュン!
音がすると、魔法陣は輝くのをやめ、小部屋から人が消えた。
―予告―
第22話 エリーゼの暴動
魔法陣を経て辿りついたのは避難室兼作戦指令室、そこで告げられるのは暴動の原因だった。それを聞いた一同は―――