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7 魔力


 翌日からニーナはゾーイの家のキッチンで魔力玉を作り始めた。段々上手くなっていって、様々な大きさの魔力玉ができた。ジャンは玉を見比べて、癒しの力が多いものをシロが眠る泉に入れに行った。ニーナは役に立てたような気がして嬉しかった。


 試しにニーナは自身の魔力を抑えてアマリリスに近づいてみた。ジャンの隠伏魔法で姿を消してもらった。意外と近づけた。

「お母さまとリリアン。」

母を初めて見た。母と姉が幸せそうに笑い合う様子を見たニーナは動揺し、制御が乱れた。

「いやぁぁぁ!」

突然悲鳴を上げて震え出したアマリリスを見て、ニーナとジャンは部屋に戻った。


 落ち込んだニーナがキッチンへの扉を開けると大きな猫が二本足で立っていた。

「初めまして。やっとお会いできました。」

「初めまして、ドニ。いつも美味しい食材ありがと。」

「光栄です。なんとお可愛らしい!」


 ドニは両腕を広げた。ニーナは少し躊躇ったが思い切って胸に飛び込んだ。

「ふわっふわだ。しあわせ。」

ニーナは目を閉じた。なぜか涙が込み上げてくる。母親に抱きしめられた記憶がないニーナ。アンナの目に涙が浮かんだ。


「ニーナ様は立派にお育ちになりました。」

ニーナは頷いた。何か話そうとすると涙が溢れて言葉が出ない。


「お世話猫はあまりお世話したくない主人は所持者、生涯この人、と決めたらアルジと呼ぶんです。好き嫌いは誰にでもあります。お互い様です。家族だからって理由で好きにならなくても良いんです。好きになってほしい気持ちがいつも報われるわけでもないんです。残念な事ですけど。それに、恐怖心というのは厄介で、簡単に克服できないものでもあります。相性が悪かったんです。」

ドニは肉球でニーナの背をポンポンと叩いた。


「アンナさんやジャン様のことはお好きでしょう?その仲間に是非ドニも入れてください。」

「いいのか?」

ジャンがドニに聞いた。


「はい。決めました。ニーナ様、アルジとお呼びしてもよろしいですか?」

ニーナは頷いた。まだ声が出せなかった。嬉しい。私のお世話猫。ニーナは親に愛されるとか愛されないとか、もうどうでも良いや、と思った。私は私で生きていく。大事にしてくれる人も居る。


「ドニ、今まで以上によろしく頼む。」

「ジャン様、かしこまりました。ニーナ様、末永くどうぞよろしくお願いします。」

ニーナは何度も頷いた。


 リリアンが十歳になった。聖堂に行く日は、アンナが御者に教えてもらった。ニーナは誘われなかった。


 ニーナたちはその日、横開きの門の所で隠伏魔法で姿を隠し、魔道具が反応しないギリギリの所で、アマリリスとリリアンが乗った馬車が門を出る瞬間を狙っていた。


「今!」

ジャンの合図で門に飛び込む。どこに母親が座っているか分からなかったから不安だったが、『一緒にお出かけ』判定になったようだ。魔道具は反応しなかった。


「やった!出られた!」

ジャンは門を確認した。

「問題なさそうだね。やっぱり出る時だけ制約があるみたいだな。」

ニーナたちは街へ向かった。


「アンナが見せてくれた絵本にも聖堂が描いてあったね。」

「そうですね。ただ、あの本はマリー様の時に描かれた物で、今の聖堂はルドルフさんが再建されたものなんです。街が燃えさかる中絵本を守った、と伝えられています。再建する時はルドルフさんに絵本をお渡ししたそうなんですよ。絵本の絵に合わせて外観はつくられていますから、見た目は同じです。」

「楽しみだわ。」


「聖堂の儀式は何かと時間がかかりますから、まだ余裕がありますよ。初めての街歩き、楽しみましょうね。」

「うん。本物の街を歩くのは初めてだわ。」


 人気のないところでジャンは隠伏魔法を解いた。ジャンは猫型になってアンナが持つ籠の中に入った。ドニが作ってくれた平民が着ていそうな服。ニーナの可愛さが隠せていなかったので、ジャンはやっぱり隠伏魔法をかけた。誰かいるのは分かるけれど、誰だったかは覚えていられない魔法。


「良い匂いがするわ。」

「ニーナ様、きのこの串焼きです。食べてみますか?」

「あの果物も美味しそう。ネオコルムからのものだ。あっちのスープも美味そう。パンは焼きたての香りがする!」

籠に入っているジャンがうるさい。ニーナとアンナはベンチに座った。籠を膝に置いて話を続ける。


「ネオコルムからのものがあるの?」

「二国は橋で交易をしているんだ。アンナは行ったことある?」

「父は行ったことがありますよ。立派な橋がかかっていて、お店が並んでいると聞きました。」

「ユーエラニアの人々は知らないけど、野菜や果物は体力がある獣人型の猫族が作っているんだ。売りに来てるのは人型の猫族。耳や尻尾を帽子で隠してるんだよ。」


「ネオコルムの果物は高級品ですよね。お値段以上の美味しさです。」

ニーナとアンナは串焼きを食べた。カップに入ったスープとパンも食べた。

「味はアンナの料理には勝てないけど、こうやって外で食べるのも楽しいね。」

「ニーナ様。光栄です!」

二人でコソコソ話すのも楽しかった。


「聖堂だわ!絵本の中に来たみたい!」

生き生きとしたニーナの姿に、ジャンとアンナはあたたかな気持ちになった。


「じゃあ、そろそろ中を見よう。」

ジャンは目立たない場所で完全に見えないように隠伏魔法をかけた。ニーナくらいの大きさの獣人型に変化したジャンを先頭に、アンナと手を繋いだニーナは聖堂に入った。


「わあ〜!」

ニーナの弾む声を聞いて、ジャンとアンナは嬉しくなった。

「ここは色ガラスが入っているんだ。時間帯によって入る光の色が変わる。美しいな。」

「うん。色んな青が混ざって綺麗。空の中に立っているみたい。」


 ジャンの案内で聖堂内をまわり、中庭に来た。芝生が広がっていて、中央に背の高い木があった。ニーナは木を触った。

「空気が澄んでいて気持ちがいいわ。」



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