6 ルドルフの日記
ルドルフの日記は、難しいところもあったが、知らない事ばかりで読んでいて興味深かった。生まれる前隣国が攻めてきて国が燃えた。その混乱がまだ残る中ルドルフは生まれ、両親の元で育った。魔力量は市井の者としては平均的で、魔力を増やそうと苦労していたようだった。
ニーナは逆に魔力が多いのだが、ルドルフが実践していた方法は応用できそうだった。それは魔力玉を作るという方法で、ルドルフは自身の魔力を空にして段々増やすことに使っていた。その魔力玉を猫族に渡すと大変喜ばれ、猫族の保護活動に役立ったとあった。
魔力玉を作るには、ニーナにとっては繊細な制御が必要で、試しに作ってみると綺麗な丸にならなかった。ニーナの魔力に驚いたジャンが、パルニア家の屋敷でなくゾーイの家で作る事を提案し、魔力玉作成は明日から試すことになった。
「ルドルフさんは虹龍さまと仲が良かったんだね。ジャンは知っている人?」
「ボクは会ったことないなぁ。あ、そういえば、シバとルリが今ユーエラニアに居るよ。ボクの眷族仲間で、ガネリア公爵家とララニア公爵家に行ったんだ。どこかの公爵家の子どもが聖堂で魔力量検査する時は四家が集まるらしいから、その時会えるかも。ん?四家では今、ニーナが一番年下なのかな。」
「そうなの?魔力量検査、私も連れて行ってもらえるのかな?」
「ニーナは生まれた時のお披露目会をしていないから、連れて行かないかもしれないな。」
「お披露目会かぁ。まだお父様とお母様にお会いした事がないの。お母様は私が怖いんですって。誰かが言ってたわ。魔力の制御が上手くできたら会えるかしら?」
「ニーナ、ごめんね。人の気持ちはボクには難しいけど、魔力制御ができる方がニーナにとっては良いと思うな。ニーナの魔力適性、空間魔法と転移魔法、あと癒しの力だと思う。繊細な制御が必要なものばかりだよ。」
「分かったわ。制御できるように頑張るわ。」
「ニーナ様、お茶をお入れしましたよ。あたたかいうちにどうぞ。」
アンナがお菓子と紅茶を持ってきた。ジャンの分は少し小さかった。
「へー!ユーエラニアとネオコルムは元はドルムエラル王国だったんだって。シロが分けたって書いてある。シロって?」
休憩後、また日記を読み始めたニーナはジャンに聞いた。
「白虹さまのお名前だよ。」
「シロ。かわいい名前だね。いつか会える?」
「シロさまは眠っていることが多いから、起きていたら会えるよ。」
「会ってみたいな。」
「いつか必ず会えるよ。」
「あと、猫族って?」
「猫族はネオコルム王国の住人で、コウさまが保護活動していた一族だよ。それがきっかけでルドルフと出会って友人になったって聞いたよ。」
「保護活動が必要だったの?」
「人に虐げられていたって聞いたよ。乱暴な扱いをされていたり、尊厳が守られなかったり、ボクも猫族だけど、死にそうになってたところをコウさまとシロさまに助けてもらったんだよ。」
「ジャンが生きててくれてよかった。コウさまとシロさまにお礼を言いたい気分よ。」
ニーナはジャンを撫でた。ジャンは嬉しそうにしていた。
「そうそう、猫族は猫型・獣人型・人型・お世話猫の四つの種があるよ。」
「切ってある!ほら、ここ。」
ニーナはジャンの話より日記の不自然な切り口が気になってしまった。
「何かあったのかな。」
「ルドルフの事はボクには分からないな。クロさまなら分かるかな。会えたら聞いてみる?」
「そうだね。聞いてみたいな。クロさまは黒龍さまよね?」
「そうだよ。黒龍のクロさま、虹龍のコウさま、紅龍の紅さま、碧龍の碧さま、白龍のシロさま、シロさまは白虹さまが名だよ。」
「白虹さま。」
ジャンはニーナから日記を受け取ってパラパラとめくる。
「あはは。ゾーイに怒られたっていう話が書いてある。オレは悪くない、コウのヤツが先に花を摘んだんだ。俺は止めたのに!って。そうか!最初一つの国だったから早い段階でお世話猫に会ってるんだな。」
「あ、お世話猫ってなに?」
「ニーナのドニの仲間だよ。」
「歴代最高の?」
「そう。癒しの猫とも呼ばれてるよ?」
「癒しの猫?」
「胸毛がふわふわなんだよ。僕のもちょっとそうだけど、ドニは大きいからもっとふわふわだよ。」
「大きいの?」
「アンナくらいかも。でもドニはお料理はしないよ。掃除、護衛、癒す事が得意なんだよ。アルジを得たお世話猫は家も建てるよ。」
「そういえば、お世話猫大会って何?」
「コウさまが始めたんだよ。お世話猫のお世話したい気持ちを発散させるって言ってた。今では他の猫族も参加してて、年に一度のお祭りみたいになってるよ。」
ジャンはしばらく思い出し笑いをしていた。
「お世話猫大会は、掃除力、護衛力、もふもふ度を競う大会だよ。ドニはもふもふ度で歴代最高得点を獲得したんだ。」
「もふもふ度って?」
「主に触り心地かな。日々の手入れで全然違うから、丁寧さとか気配り力とかで差がつくんだって。ドニの胸に懐かれると幸せになると云われているよ。」
「会ってみたいな。」
「僕だけならニーナのキッチンから移動できるんだけどね。あ、キッチンにドニに来てもらえば会えるな。」
「ドニに会ってみたいな。」
「そういえば、来年リリアンが聖堂で魔力検査を受けるよね。その時なら紛れて門から出られるかもよ。そのピアスが門で反応する魔道具でしょ?アマリリスが馬車で出る時なら一緒に出られるかも。」
「試してみたい!私も屋敷の外に出てみたい。」
「行ってみよっか。もし抜けられたら聖堂を観ようよ。綺麗だよ。屋台で何か食べるのも良いなぁ。聖堂は愛し子の絵本に絵があったよね。」
「転移魔法は使えないの?」
「行ったことのある場所じゃないとボクの力だと転移が難しいんだ。シロさまならどこでも行けるよ。ニーナの中に居る龍玉が上手く使えるようになれば転移できるんじゃないかな。」
「龍玉が私の中に?」
「え。言ってなかったっけ?」
「うーん。初めて聞いたような?」
「ニーナは龍玉が選んだ白虹さまの愛し子だとボクたちは考えているよ。」