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5 リリアン


 ある日五歳になったリリアンが部屋に入ってきた。ニーナを見つけて笑いながら炎玉を放った。アンナは止めようとしたが、ジャンは首を横に振った。


「やっと見つけたわ!どこに行っていたのよ。あなたがお母さまを悲しませるのが悪いのよ!お母さまには娘は私だけなんですって!あのサンドリアンってやつ。嫌なやつ!お父さまもあんなに嬉しそうにしちゃって!」

リリアンは何発も何発も火の玉を撃った。目に涙が浮かんでいるようだった。今日は家に父の愛人ドリアーヌと、父によく似た男の子、サンドリアンが来ていた。


 炎が消えた。ニーナは今回も無事だった。

「やっぱり!なぜだかわからないけどあなた死なないわね!思いっきり撃てて楽しいわ!ふぅ。スッキリしたわ。」

アンナはゾッとした。何という狂気。炎の魔法で理性が焼き切れた者の話は家に伝わっていた。リリアンは危険だ。アンナが声をかけようとするとジャンが止めた。首を横に振る。リリアンは笑いながら部屋から出て行った。


「ごめんなさい。驚いた?」

「ニーナ様!」

アンナはニーナを抱き上げた。

「お守りできず申し訳ございません。お怪我は?」

「大丈夫。毎日私を探していたから一度くらい、と思って。お母さまとおでかけした、とかドレスを買ってもらった、とか言いながら部屋の前を通るでしょう?気の毒になってしまったの。姿を見せたのはワザとだから、」

「ワザと?ニーナ様、そちらへ座っていただけます?」

静かに怒ったアンナのお叱言は、思ったよりも長かった。


 アンナは侍女頭のプリムに報告するかどうか迷った。ニーナが無事な事をうまく説明できる気がしない。それにアマリリスはニーナの育児は放棄しているが、リリアンのことは可愛がっている。ニーナの安全を第一に考え、報告はしなかった。


 ニーナの五歳の誕生日はジャンとアンナが祝ってくれた。

「ニーナ、これ美味しいよ?」

「ジャン、それはなあに?」

「ニーナ様、魚のパイ包みですよ。」

「最近魚料理が多いね。美味しい!アンナは天才料理人よ!」

「まぁ、お上手ですわ。」


 アンナは料理をするようになっていた。ニーナの空間魔法が上達して部屋と部屋を繋げられるようになり、ジャンがどこかのキッチンと繋げてくれた。

「どこのキッチン?」

「ゾーイの家だよ。コウさまの許可は取ったから大丈夫だよ。」

「ゾーイ?」

「コウさまの元お世話猫だよ。ネオコルムに行ったら分かるよ。」


 食材はいつも豊富だった。

「空間魔法便利です!作っておいたものが温かいままなのが嬉しいです!食材は傷まないし。安心です。」

亜空間にあるゾーイの家のキッチンは時間の流れがなかった。


 アンナは野菜スープをニーナの前に置いた。

「ニーナ様が一緒じゃないと私が入れないのはお手間をかけてしまいますけど、使い勝手が良いキッチンで助かります。そういえば、どなたが食材をキッチンに入れてくれるんですか?お支払いは?」


「ドニだよ。お世話猫大会歴代最高得点のお世話猫が選んだ、最高の食材だよ。ネオコルムのものだから良いものばかり。新鮮で安全安心。ユーエラニアの食べ物は元気がないんだよな。魔法で素早く育てるのが原因かな?」

「植物の成長の速さを魔法で変えるの?」

「ユーエラニアは人も多いし、間に合わないんだろうね。」

「国によって違うんだね。」

「どっちが良いとは言わないけど、味はネオコルムの方が好きかな。」

「私もそうかも。でも、アンナのお料理が上手なのが理由かもよ?」

アンナは「ありがとうございます」と言って、次の料理を取りに行った。耳の後ろが赤かった。


 ニーナは食べ終わると髪を結ってもらった。最近は一本に編んでもらうのがお気に入りだ。ジャンが隠伏魔法をかけてくれるので、誰かに会う心配もなく図書室へ向かった。


 ジャンは本棚の間を行ったり来たりしていた。

「うーん。なんでこんなに散らかってるのかな?片付けない家なのかなぁ?」

「バンッ!」

図書室の扉が開いた。ジャンは咄嗟に隠伏魔法でニーナとアンナを隠した。

「なんで本を読まなくちゃいけないの?」

リリアンだった。見たことのない女性と一緒だった。


「リリアン様はパルニア公爵家をお継ぎになる方です。家の成り立ちを学んでいただきたく。」

「うるさいわね!なんの役に立つのよ!どうせサンドリアンが継ぐんでしょう?」」

リリアンはバーン!と扉を蹴った。怯えた目をした女性を横目で見て、リリアンはフンッと体の向きを変えて出て行った。


「もう無理だわ。諦めるわ。」

女性は疲れきった様子で出ていった。他の侍女に話を聞いてきたアンナによると、既に五人目の家庭教師だった。

「図書室は安全ってことかな?読書、嫌いそうだね。」


 家庭教師だった女性が立ち去り、ニーナたちは面白そうな本を探すついでに、バラバラだった本の並びを整えた。

「図書室にも空間を繋げておこうかな。何かの役に立ちそう。」

ジャンは図書室に秘密の扉を付けた。


 部屋に戻ったニーナはジャンから本を手渡された。

「はい、ニーナ。以前虹龍さまから貰ったルドルフの日記だよ。今後の参考にどうぞ。」


 

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