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3 セルジュ


 ユーエラニア王国とネオコルム王国。湖を挟んだその二つの国は、大きな橋で結ばれていた。二つの国はそれぞれ結界が張られていて、自由な往来はできなかった。


 橋の上には店が並び、二国間の交易が行われていた。ネオコルムにはユーエラニアの工芸品や魔道具、ユーエラニアにはネオコルムの野菜や果物が好評だった。橋で獲れる魚も人気だった。


 交易場には許可証を持った者だけが買いに来られる。無理に入り込む者もおらず、決まった場所以外から出入りする者もいない。そもそも聖堂が発行する許可証がないと結界から出られないし、結界の外は魔獣が闊歩している。規定通りが一番効率的だった。


 ユーエラニアの現在の王、セルジュ・トリニアは問題を抱えていた。王太后デルフィーヌ。高い魔力量を誇る先代王妃。セルジュが王になって二十年経つが、未だに権力を持っていた。


 先代の王は色狂いで、好きなだけ妻を増やした。デルフィーヌは正妃として君臨したが子は授からず、それをいい事に妻も子もどんどん増えた。しかしその子どもたちは成長の過程で、早ければその母親ごといつの間にかいなくなっていた。結果、先代の王の血筋は一人も残らなかった。

 

 デルフィーヌが王に成り代わり、国を治めた数十年間。その治世で発展したのは彼女を着飾るドレスや宝飾品関連だけだった。


 食べ物が足らず魔法を使って育てるようになり、効率的にはなったが味が変わった。道路や水路は土魔法の得意な者が直した。王家に頼らなくとも暮らせるように市井の者たちは工夫を凝らしたが、限界はあった。貧富の差が広がり、治安の悪い地域ができた。


 そんな中、毎年どこかの街が選ばれ、服や装飾品など様々な物を上納するように要求された。上納しない街はデルフィーヌに何をされるか分からないと脅された。


 結界から出られない人々は新しく何かを探しに行くわけにもいかず、他の国に逃げるわけにもいかず、自身の魔力で錬成する事を選んだ。魔力を紡いで服を作り、魔力を固めて装飾品を作った。


 この上納品が市井の人々の悩みの種だった。年に一度どこかの街にのみ要求されるのだとしても、セルジュが新王になった経緯にも影響があるほど市井の人々の不満の声は高かった。


 セルジュは直系ではないが元々王族として暮らしていた。何代か前の王弟から分かれた血筋で、自分が王になるとは全く思っていなかった。デルフィーヌの側近が世代交代の時、民に求められる王を、と選ばれた。


 セルジュは必死に学んで王になった。デルフィーヌは「上納品が貰えるのなら、面倒な政治は手放す」と言って、セルジュや側近を苛立たせた。


 そんなセルジュを支える女性が居る。オルヴィエカだ。初めて会った夜会で、その若さと美貌でセルジュを夢中にさせた。亡くなった侯爵の庶子と名乗り、王妃に据えるには出自が、と反対され、せめて子どもを、と言われたがなかなか授からない。


 そうこうするうちに、オルヴィエカは体調を崩した。民間療法でも何でも良いと探すうち、龍玉の話を耳にした。龍が愛し子に与えるという龍玉。


 近年見つかったのは白虹(はっこう)の龍玉しかないらしい。側近の調べによると、デルフィーヌが持つ飾り箱にその龍玉が入っていて、その龍玉から魔力をもらっているから魔力量が多く長寿らしい。


 市井で見つかった絵本、龍から材料を貰った飾り箱職人の記録、王太后に昔上納された品の一覧などから推定された、雲をつかむような話ではあったものの、調べてきた側近はかなり自信を持っていた。


 龍玉さえ有ればオルヴィエカの体調が戻る、と信じ、セルジュは秘密裏に白虹の愛し子を探させていた。

「また今年もいなかったのか。」

「はい。まだ見つかっておりません。」

「王太后の得体の知れない魔力を検出する魔道具、だったか。」


「はい。気取られぬよう王太后様の魔力の解析をしました。解析もうまくいきましたし、検出する魔道具も問題ありません。」

「職人の記録から探っていた者によると、虹龍(こうりゅう)さまが飾り箱を注文されたそうです。」


「龍玉が入ったまま上納されたという飾り箱のことか?」

「はい。コウと名乗る者が注文に来たそうです。愛し子さまがもう一人誕生されるのではないでしょうか。上納された品に飾り箱があったわけですから、国のためにまた上納していただけるのではないかと。」


「飾り箱か。職人の子孫だったな。」

「はい。今回も龍の力が込められた材料を預かったようです。その魔力は検査の結果、王太后様と同じものではありませんでした。王太后様の飾り箱と同じかどうかは確認が取れていません。細かい細工は人の手でないと、と仰ったとか。」

「その台詞、確か職人の記録にもあったな。信憑性が高そうだな。」


「既に聖堂に検査機を置き、妊娠から魔力量検査までは義務化して、漏れのないように気を配っております。義務化前の王国民も全員検査をしました。できる限りはしておりますが、いつになるかまでは。」

「いるかどうかも分からない愛し子サマに、我々の命運がかかっているとはな。白虹さまに直接お会いしてみたいよ。」


「おやめください。セルジュ様に何かあったら困ります。」

セルジュは側近に嗜められたが、今夜も酒を呷った。






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