12 ゾーイの物語
開幕。
首輪を付けられたお世話猫。身体はまだ成長しきっていない。首輪は従属の首輪だった。猫はゾーイと呼ばれていた。
ゾーイは燃えさかる街を走っていた。ゾーイの所持者が死んだ。首輪を外してもらえなかった。所持者が死んだ今、誰にも外せない。ゾーイは悲しくて、好きになれなかった所持者に従わなくても良くなった事は嬉しくて、一心不乱に走っていた。
「おい、そこのお世話猫、『止まれ』」
ゾーイは意志に反してピタッと止まった。殺される。咄嗟に身構えようとしたが、身体は動かなかった。魔法?知らない魔力。
「何やってんだ、危ないぞ?あー、これ違法な首輪。まだあるんだ。人はしつこいなぁ。ダメだって言ってるじゃん。」
首輪に魔力が流れると首輪は外れた。
「よし!回収っと。お前名前は?俺はコウ。」
「ゾーイ。」
「ゾーイ、お前お世話猫だな?よし、俺と契約しろ。」
「はい?」
「はい、これ俺の血。今日からお前俺のな。」
「えー!!」
叫んだ時に口に血が入り、ごくんと飲んだ。
「えー!!」
もう一度ゾーイの叫び声が街に響き渡った。
ゾーイがコウと暮らすようになってからしばらくすると、ある男を紹介された。
「ゾーイ、これルドルフ。俺の友だち。ルド、ゾーイ。俺のお世話猫。」
「ゾーイ、よろしく!オレたち、猫族にユーエラニアからネオコルムに引っ越してもらう手伝いをしているんだ。」
「引っ越し?」
「あぁ、ゾーイは亜空間に家があるから知らなかっただろうけど、今人と猫族を分けているんだ。」
「コウさま、なぜですか?」
「人は猫族を虐げている。それはお互いにとっていい事じゃない。俺が分けると決めた。」
コウは少し偉そうだった。
「確かに前の所持者は嫌な人でしたが、中には良い人もいました。」
「猫族が離れたがらない場合は、納得できるまで待つよ。」
コウとルドルフは猫族を守ろうと活動する一方、イタズラが多く、ゾーイは叱ることが増えた。
「コウさま!ルドルフさん!遊んでないで早く寝てください!」
「コウさま!ルドルフ!部屋の中に水を撒いてはいけません!」
「コウさま!ルド!食べ物を投げるな!」
「コウ!ルド!何してるんだ!それはボロ切れに見えるかもしれないけど、猫族には大事な布なんだ!」
「ゾーイ、すっかりオレたちのこと呼び捨てだな。」
「ゾーイ、知ってるよ。捨てるわけないだろう?」
「またからかったのか!コウが龍だと知らなかったらガツンとやってやるのに。」
「なんだよゾーイ、ルドはどうなんだよ。」
「ルドは人だから護る対象だ。」
ある日、コウはお世話猫大会を開催した。お世話猫が得意な掃除、護衛術、もふもふ度を競う大会。優勝者には賞金も出るので、他の猫族も得意な分野だけ参加したり、何度か開催するうちに、年に一度のお祭りになった。
ゾーイは護衛術で何度も優勝していたが、もふもふ度だけは十位が最高位だった。もふもふ度は毎日丁寧に手入れをすると上がる。継続力ときめ細やかさを競うのだが、ゾーイはあまり興味を持てなかった。
龍の姿のコウに乗せてもらって、空を飛べる副賞ができた年はいつも以上の参加者だった。コウは毎年優勝者たちを乗せてネオコルムの街の上を飛んだ。
コウたちはその日も保護活動をしていた。急にコウに用事ができて飛んで行ってしまったので、ルドルフとゾーイだけで街を周っていた。
「逃げろ!」
「魔暴走だ!」
誰かの叫び声がして、街の中心部から人の波が来た。
「ゾーイ、見に行くぞ!逃げ遅れた猫族がいるかもしれない。」
「ルド、危険だ!戻ろう。コウを呼ぶから待て!」
「待てるか!行くぞ!」
ルドルフは走って行った。ゾーイは慌てて追った。
王冠を頭に載せた男が次々と炎玉と衝撃波を撃った。建物が崩れ、大きな炎が上がる。無表情で炎玉を撃つ男。不気味だった。コウと行ったことがある店が壊れた。逃げ遅れた人が炎に包まれた。体を切り裂かれた猫族。一人で泣いている人。人も猫族もたくさん傷ついた。ルドルフは助けに行こうとしたが、ゾーイがルドルフを抱きしめた。
大会で見たことのある防護体勢だった。
「ゾーイ!離せ!」
爆音と共に直前までルドルフが居た場所が弾け飛んだ。ゾーイの体が揺れた。衝撃波。無数の炎玉。
「ゾーイ!逃げよう!」
すでにゾーイの周囲は破壊されて逃げ場所がなかったが、ルドルフからは見えなかった。また大きな爆発音がした。
「うっ。」
ゾーイが小さく呻いた。
「ゾーイ!」
ルドルフは叫んだ。半狂乱だった。
「コウ!助けて!コウ!」
何かが焦げるような匂いがした。
「ルド!」
「ゾーイ!」
遠くからコウとシロの声が聞こえた。二匹の龍が降りながら人型になる。シロが結界を張ってゾーイとルドルフを包んだ。そして男を別の結界で包んだ。
防護体勢のゾーイは傷だらけだった。炎に晒された場所は焦げていて、ゾーイは動かない。
「亜空間へ運ぼう!コウ、しっかりしろ!」
コウはハッとした。
「すまない。分かった。転移か?」
「そうだ。離れないからそのまま運ぶぞ。」
転移した。男の結界は壊れ、街の破壊は続いた。
亜空間の泉の横にゾーイを置いた。ゾーイはルドルフを離さない。
「ゾーイ、ありがと。ルドルフは無事だ。もう離しても大丈夫だよ。」
コウがそう言うと、ゾーイの力が抜けた。ルドルフを引き抜く。自分を護っていたゾーイの姿を見たルドルフの慟哭が辛かった。
動かないゾーイを仰向けに寝かせた。ゾーイの口元が少し笑ったように見えた。ゾーイの周りに小さな金色の光。光はあっという間に増えた。きらきら光ながら大きくなった。ゾーイを包むくらい大きくなると一瞬「ピカッ」と明るく光って、ゾーイの身体ごと消えた。
呆然とする面々。街の様子を見に行っていたクロが戻って来た。
「魔暴走を止めに行くぞ。まだ暴れている。人の手には負えないようだ。」
「結界の中に閉じ込めたけど、人向けの結界じゃダメだったか。行こう!」
シロとクロは飛んで行った。コウはその場に呆然と立ち尽くし、ルドルフは泣き続けていた。
シロとクロが街に着くと、男はまだ魔暴走が続いていた。
「人にしては魔力が高すぎるな。」
「そうだな。なぜだ?」
「今は考えても仕方ない。止めるぞ。」
「強力なので包むか。」
シロが結界魔法で男を包む。クロは土魔法で崩れた建物をどかし、壊れた道を直した。障害物がどいたことで助かった人々は直った道を通って逃げた。動けない人々は置いて行かれた。
結界魔法の膜の中で男は自分を燃やし、魔力を使い果たして萎びた。無理矢理魔力を入れられたような傷があった。誰かに魔暴走させられたのかもしれない。
静かになった街に人々が戻って来た。逃げ遅れた人も助けられた。シロとクロは龍に変わって飛んでいった。萎びた男は聖堂に運ばれた。
その後もコウとルドルフは保護活動を続けた。多くの猫族はその後、ネオコルムで平和に暮らしている。
閉幕。




