『速記者とセミ』
速記者の本業は、農業でした。不自然ですけど、そういうことにしておきましょう。
毎日が、イナゴとの戦いでした。速記者は、毎日イナゴを捕まえては、佃煮にしていました。イナゴの佃煮は、おいしいから食べるのではありません。害虫を倒すことに意味があるのです。その証拠に、イナゴの佃煮は、決しておいしくありません。
ある日、速記者は、一匹のセミを捕まえました。セミは、速記者に命乞いをしました。速記者さん、私は、大切な稲に悪さをしたりしませんし、食べたときにひざであなたの口の中を刺したりしません。あ、いえ、試しに食べてみようとか、そういうのはなしで。いい声で歌えます。速記の朗読なんか得意です。イナゴと一緒にしないでください。
速記者は、セミを逃がしてやりました。翌日から、セミは、一族とともに感謝のために訪れ、昼となく夜となく、速記の朗読を続けてくれたのでした。
教訓:セミはエビの味がするとか。