表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

初めての電話

 今日の授業も全て終わり、部活動には所属していない俺はまっすぐ家に帰ってきたのだが問題はこれからだった。


「さて、掃除するか」


 そう。洗濯機から溢れ出している泡である。説明文を無視して多めに入れたことは家に帰ってきてからの方が後悔していた。というのも、臭うのだ。学校から帰ってくると家の中は洗剤洗剤の臭いで満ちていた。家に帰って真っ先にしたことは窓を全開にしての換気だったくらいには、部屋の中は大変なことになっていたのだ。


 洗面所の下に備え付けてあった戸棚を開けて、中から雑巾を取り出す。まさかと思って開けてみたら雑巾の他にも掃除用のブラシなども入っており、家を追い出されたにしては準備はかなりしてくれていたようだ。


「これ思っていたよりも大変だな」


 洗濯機の中から洗っていた服とパジャマを取り出そうとすると、溢れるだけあって洗濯機の中も泡まみれとなっている。当然だが、洗濯機の周りだけではなく中も念入りに洗う必要がありそうだ。


 それからは雑巾を片手に一時間ほどかけて洗濯機の周りと中を洗い終える。ずっとしゃがんでいたり、中腰になっていたので腰がかなり痛い。


「やっと終わった……さすがに疲れたな」


 今から食事の用意とお風呂を洗ってお湯を溜めなければいけないとなると、かなりめんどくさい。けど、今は代わりにしてくれる人もいない訳なのだが。


「お手伝いさんには本当に感謝だったんだな」


 無くなって初めて大事なことに気付くというが、本当にその通りだと思う。お手伝いさんに限らず専業主婦の人達は毎日にこれ以上のことをこなしていると考えると素直に就職して働いている方が楽なのではないだろうか? 世の中の旦那は仕事の文句を言う暇があったら嫁や母親に感謝を伝えるべきだと今なら心の底から言える。


 本当に残念なことに今の家にはお手伝いさんはいないので、今日も今日とてコンビニに行って弁当とお茶を買って帰る。


 今日、家の中を色々と改めて見たところ食器類も揃っていたので大きめのお茶を買って冷蔵庫に入れておく。節約できるところは節約しておくに限る。コップを洗う手間くらいは許容すべきだろう。


「ダメだ……風呂を洗う気力はもうない」


 弁当を食べると体は一歩たりとも動きたくないと言わんばかりにダルい。とはいえ、お風呂に入らないという選択肢はないので今日のところはシャワーだけで済ませることにする。


 シャワーを浴びて風呂から出ると、スマホに通知が来ている。詩音からであった。お昼ご飯を食べて話している間に連絡先の交換をしておいたのだが、何か用事でもあるのだろうか?


『ねぇ、今何してるの?』


『風呂から上がったところだ』


 俺がそう返事を送ると既読はすぐに着いて返事が返ってくる。


『そうなんだ! 私もさっきお風呂から上がったところなんだ!笑』


『そうか』


『うん! なんだか奇遇だね笑笑』


 このやり取りに何の意味があるのだろうか? どうやら、何か用事がある訳でもないようだ。俺が今何しているかなど知っても対して意味は無いと思うのだが? そんなことを考えていると詩音から追加での通知が来る。


『今から電話できたりする?』


『問題ない』


 返事をすると詩音からすぐに電話がかかってくる。どうやら本題は電話で話すつもりのようだ。それなら、最初から電話してくれればいいと思うのにとも思ってしまうのだが。


『もしもーし! 初電話だね!』


『そうだな。それで、どうしたんだ?』


『え? どういう意味?』


『何か用事があったんじゃないのか?』


『別に用事とかは特にないけど?』


 意味が分からなかった。それならば、この電話は何なのだろうか。連絡というのは何か用事があった際にするものでは無いのか? 恋愛小説を読んでいる時も無意味に電話している描写があったりするが、この電話もそういう類のものなのだろうか?


『私はただ龍斗くんと電話がしたかっただけなんだけど……迷惑だったかな?』


『いや、迷惑なんてことはないぞ。ただ、驚いただけだ』


『龍斗くんでも驚くことってあるんだね!』


『そりゃ、俺にだって驚くことくらいある』


『普段の学校での龍斗くんを見てると全く想像つかないけどね!』


 そう言って、詩音の楽しげな笑い声がスマホを伝って聞こえてくる。誰かとこんな風に電話をしたことは初めでだったので何だか不思議な感じだった。


 それからは、今日帰ってからは何をしたかや夜ご飯について話していた。詩音はこんな些細な会話でも楽しそうにしているのが俺にはよく分からなかったが、楽しそうにしてくれる分には何よりなのでこの電話に出てよかったと思う。


『それじゃあ、龍斗くんは今一人暮らしをしてるんだね!』


『していると言っても、昨日からだけどな』


『それなら今度、龍斗くんの家に行ってもいい?』


『別に構わないぞ』


『ほんとに!? 約束だからね!』


『あぁ、こんなことで嘘はつかないから』


『やったぁ!』


 俺の家に来れることが何故そんなに嬉しいのかは分からなかったが、次の休みの日に詩音が家に来ることになって電話は終わった。


 時計を見ると日が変わっていたので、今日は歯磨きだけしてベッドに横になる。明日の朝、起きてから洗濯はするが絶対に洗濯洗剤の量は正確にしようと心に決めてからベッドに横になるのだった。

ジャンル別日間ランキング3位! 表紙入りです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ