料理
誤って執筆途中の作品を投稿していましたので、最後まで書いたものを再アップさせてもらいます! 本当にすいませんでした!
クラスメイトが家に来た。
俺の家でコスプレ喫茶で出すものをお試しで作ってみようということでだ。材料も買ってきてくれていた。あとは、作るだけだ。だが、俺の家に来てから三十分が経過しても一向に作り始める気配はなかった。
「絶対おかしいよ! どう考えても私の家より広いじゃん!」
「だよね! そうだよね! おかしいよね!」
「おい、新川! この家で一人暮らしとか嘘だよな? 嘘だって言ってくれよ!」
こんな感じに家に来た三人が三人とも同じようなことを繰り返し言い続けているのだ。詩音は前にも一度来たことがあり、その時も同じように散々言いたい放題だったのに今日も一緒になって騒いでいる。
家にいるのは俺と詩音を含めたクラスメイトが三人だ。ちなみに詩音以外のクラスメイトは、前に教室で声を掛けてきた寄川成美と男子の代表として井口海斗が来ていた。もちろん、ちゃんと話したのは今日が初めてだ。
「それよりも作らないのか?」
「それよりって......まぁ、この家に住んでるならそうなるよね」
「なぁ、新川。お前は料理とかできるのか?」
「できないが?」
「そりゃ、一人暮らしなんだし料理くらいできて......え? できないの?」
「できなくても別に困らないしな」
さっきまで騒がしかったのが嘘みたいに今度は静かになる。コンビニが家の近くにあるし学校には学食があるのだから、料理なんてできなくても生活はできる。なのに、どうしてそんな目で俺は見られているのだろうか?
「ねぇ、龍斗くん。普段って何を食べてるの?」
「弁当だな」
「……お弁当以外には?」
「学食のカレーとかだな」
「……他には?」
「食べてないな」
さっきまでありえないものを見る目だったのが今度は心配そうな? 目で見られる。ご飯をきちんと食べているのにそんな目で見られる意味が本気で分からない。どこに問題があるのだろうか?
「おい、藤崎。お前の彼氏大丈夫か?」
「……私もかなり心配になってるところだよ」
「何か問題でもあるのか?」
「「「あるよ!!!」」」
綺麗に三人にハモられてしまった。どうやら、コンビニ弁当はダメらしい。安くて美味しくて野菜もきちんと入っているのに何がそんなにいけないのだろうか?
「ねぇ、新川くん。そんな生活じゃ体壊しちゃうよ?」
「そうなのか? 野菜も米も肉も食べてるぞ?」
「そうなんだけどね……あれ? それなら、別にいいのかな?」
「問題ないだろ?」
「あるに決まってるでしょ! 成美も騙されないで!」
「そんなにダメなのか?」
「ダメだよ! 栄養も偏るしコンビニ弁当って味付けも全部濃いいでしょ!」
なるほど。確かに言われてみればコンビニ弁当の味はどれも濃いめな気がする。味が濃いということは、それだけ味付けに色々なものが使われているのだろう。全てまでとは言わなくても体に悪いものも多く含まれていても不思議ではない。となると……
「食事の回数を減らすか」
「自分で作ればいいじゃん! どうしてそうなるの!?」
「コンビニ弁当ばかり食べるのがダメなんだろ?」
「ちゃんとご飯は食べないと不健康になるよ!」
一人暮らしをして早くも一ヶ月が経とうとしているにも関わらず、ここにきてまた問題が増えたようだ。洗濯や掃除などはすぐに慣れることができたが料理はそういう訳にもいかないだろう。それが分かっていたからこそコンビニ弁当にお世話になっていたのが、どうやら裏目に出てしまったようだ。
「困ったな」
「本当にちゃんと困ってよね! けど、今日は料理を作るために集まってるんだから龍斗くんにとっては良かったかもね」
「俺も作るのか?」
「当たり前でしょ! むしろ、龍斗くんが全部作って!」
完全な無茶ぶりである。今まで料理をしてこなかったから、コンビニ弁当に頼っているのに全部作れと言われても作れるわけがない。だが、詩音の目はどう見ても本気である。
詩音のやる気が最高潮に上がったのか、俺と詩音はキッチンに立って詩音に教えてもらいながらも俺は料理をこなしていく。今、作っているのはオムライスである。
喫茶店と言えばオムライスだよね! みたいなノリで決まったメニューだが、作ってみて分かることがあった。
「オムライスを出すのはいいんだが、これって作るの間に合うのか?」
「間に合う……と信じよう!」
絶対に無理である。教室でコスプレ喫茶をするにしても、キッチンが教室にあるわけが無い。学校にある家庭科室を使って作るにしても他のクラスも使うだろうから絶対に間に合わない。先着十名限定とかにするしか無理なのではないだろうか?
「おい、新川! それは言わない約束だろ!」
「そうだよ新川くん! ひどいよ!」
「「俺(私)達はそんな現実見たくない!!」」
「諦めるしかないだろ」
「「辛辣!?」」
ソファーで寛ぎながら俺の料理ができるのを待っている二人は俺と詩音の話が聞こえていたのかツッコミを入れてくるが無理なものは無理である。
結局、コスプレ喫茶で出すのはクッキーやシフォンケーキといった予め作って置いておけるものに決まった。二人は最後までオムライスを出したいと抵抗していたが、詩音が俺に味方してくれたのが決定的だった。詩音がせめて自分達で作ったものを提供しようという意見が決め手となり、二人はそれで妥協していた。
それならば、俺が今作っているのは何なのだろうか?
「ねぇ、龍斗くん。今、何してるんだろう? とか考えなかった?」
「……考えてないぞ」
「嘘! 絶対考えたでしょ! これは龍斗くんの食生活のためでもあるんだからね!」
俺はどうして嘘をついてしまったのだろうか? ただ、一つ言えるのは詩音の圧が尋常ではなかった。家を追い出される際に父に向けられた圧力よりも遥かに圧があった。俺は詩音を絶対に何があっても怒らせないようにしようと心に誓った。
それからは、俺(ほとんど詩音)が作ったオムライスを食べて解散となった。コスプレ喫茶で出すものは前日にまた俺の家に集まって作ることになった。
「龍斗くん。覚悟しておいてね?」
「……はい」
あと、定期的に詩音が俺の家に料理を教えてくることが決まったのだった。
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